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米軍という「安全装置」の失われたシリア。トルコ、アサド政権、ロシアがいま目論んでいること

10/16(水) 8:10配信

BUSINESS INSIDER JAPAN

アメリカのエスパー国防長官は10月13日、シリア北東部に配置されていた米軍の残存部隊1000人の撤退を指示したことを明らかにした。

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トランプ大統領が同6日、トルコのエルドアン大統領との電話会談後に突如、「同地域からの米軍の撤退」を発表したことに続く動きだ。

国外紛争への介入は「アメリカにとって損」を持論とするトランプ大統領は、2018年12月にも過激派組織「イスラム国(IS)」の完全制圧を宣言すると同時に、シリアからの「米軍撤退の意向」を表明したことがある。

当時は政府内や米政界から反対論が噴出し、政権の重鎮だったマティス国防長官が辞任する事態に至って、撤退をいったん取り下げた経緯があった。

今回も反対論は強かったものの、意固地になったトランプ大統領は聞く耳をもたず、ついに(撤退宣言の)撤回には至らなかった。

トランプ大統領が撤退を発表した後、米軍はまず国境の2拠点から特殊部隊50人を撤退。その動きを受けて、トルコ軍は同9日にさっそく本格的な侵攻作戦に着手した。シリア北東部を支配するクルド人主体の武装勢力「シリア民主軍(SDF)」は反撃したものの、両者の戦力には大きな差があり、トルコ軍が戦況を優勢に進めている。

米軍に全面撤退命令が下された13日、SDFは従来緊張関係にあったシリアのアサド政権軍を受け入れ、協力することで合意したと発表した。アサド政権軍はすかさずシリア北東部への移動を開始、翌14日には要衝の町マンビジに入った。

SDFとしては、それまで同盟関係にあった米軍に「見捨てられた」以上、トルコ軍の侵攻を食い止めるには他の勢力に頼るしかない。言ってみれば、米軍撤退がアサド政権軍の進出という結果を生んだわけだ。

実は、事情はさほど複雑ではない

日本にとっては馴染みの薄い地域の問題ゆえ、ここで各勢力の立場・思惑を整理しておこう。

▽アメリカ

ISを撃退し、もはや同地域に米軍を展開するコストを支払う意味はないと考えるトランプ大統領は、全面撤退を決定した(ISの動向監視のためにごく少数の部隊はシリア南部に残す)。トルコのシリア侵攻には反対を表明し、経済制裁も発動したが、軍事介入の可能性は否定している。

ただし、米政府の当局者や米議会には「IS復活の恐れがある」「アサド政権やロシア、イランの勢力拡大につながる」と米軍撤退に反対の声も多い。

▽トルコ

シリア北部におけるクルド人勢力の台頭は、トルコ国内に波及する恐れがある。これまで米軍が駐留していたため攻撃できなかったが、米軍の撤退を機に軍事侵攻に踏みきった。

▽シリア民主軍(SDF)

クルド人の勢力圏を確保し、自治を獲得したい。IS掃討作戦では米軍に協力してきたが、その撤退後に侵攻してきたトルコ軍を防ぐため、アサド政権軍の部隊展開を受け入れた。

▽シリア・アサド政権

独裁政権を維持する上で、最も警戒すべき米軍が撤退するのは大歓迎。シリア全土の支配圏を回復するためにも、SDFからの要請で北東部に部隊を展開できることも大歓迎。ただし、相当の軍事力を誇るトルコとの直接の戦闘は避けたいはず。

上記のように、関係する各陣営の立場や思惑は明確であり、それほど複雑な事情というわけでもない。

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最終更新:10/16(水) 18:01
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