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スコットランドにはショック…プロップ稲垣啓太の初トライが生まれた背景

10/16(水) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

【日本ラグビーのレジェンドが語る】

 歴史的なスコットランド戦の勝利をラグビーファンのアーティストご夫妻と一緒に見届けた。

 ラグビー精神を歌い上げた「ノーサイド」という名曲がある歌手のユーミンさんと、ご主人の松任谷正隆さんである。

 松任谷さんは昔からのラグビーファンで、ユーミンさんは旧国立競技場が取り壊しになる前に行われた早明戦で「ノーサイド」を熱唱されたこともある。古くからラグビーにご縁のある松任谷ご夫妻に要所のプレーを解説させてもらいながら、ジャパンのW杯1次リーグ全勝突破という偉業の瞬間を共有するという、非常に得難い経験をさせていただいた。

 試合自体は「素晴らしい」のひと言に尽きる。ラグビーという競技はいかにボールをつないでいくか? によって勝敗が決する。そういう意味では前半25分のプロップ稲垣のトライに至るパス回しは実に素晴らしかった。何が素晴らしいって、練習を積み重ねたことが大一番でトライという最高の結果に結びついたことである。あの一連のプレーは、厳しい練習によって体に覚えさせないとできないプレーだ。相手のタックルを受けて倒れながらパスを送る=オフロードパスは、不断の努力なくして完成できるはずもない。そもそも相手のタックルを受けた時に味方選手のフォローなくして成り立たない。

 何度も何度も練習場で繰り返したプレーがトライとなって、ジャパンのメンバーは士気が上がらないはずはないし、スコットランドの面々は普段の被トライよりもショックを引きずってしまったのではないだろうか。

 今大会を見ていると、もうシンプルなボール回しでは、トライに行き着かないという印象を抱いた。ただ右に左に、時に中央から――では、たやすく対処されてしまう。これからパス回しがどう進化していくか? 注目していきたいと思う。

■苦闘の日々

 W杯開幕前に日刊ゲンダイのインタビューを受け、話題が前回大会の南ア戦勝利に移った。その時に凄い、よくやってくれたという思いと同時に「なぜ私はピッチ上にいないのだろうか?」「あの場所でわたしもプレーしたかった」としみじみ思った、と答えた。まだ、どこかに現役選手気分が残っていたのだろう。

 しかし、今大会のジャパンの躍進ぶりを見ていても「あの場所に立ちたい!」という欲求は湧き上がってこなかった。

 代表の後輩たちは、実に素晴らしい戦いをやっている。今のジャパンの快挙は、苦闘の日々だった我々の時代から連綿とつながっているんだなぁ……。

 心の奥底にくすぶっていた<世界を相手に結果を残したい>という思いを彼らがものの見事に消し去ってくれた。

 感謝している。

(林敏之/ラグビー元日本代表主将)

最終更新:10/16(水) 9:26
日刊ゲンダイDIGITAL

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