ここから本文です

膵がん根治を目指すには手術だが…80歳超の手術はアリか

10/16(水) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

【膵がんを知る】#9

 膵がんを治すには手術が必要です。患者さん本人が希望し、患者さんの全身状態が許せば手術が検討されるのは当然です。しかし、患者さんが80歳を越えていたらどうでしょう。80歳時の平均余命はおよそ9~12年で年齢別死亡率は6%です。がん治療中に予期せぬ事態に陥り、亡くなる可能性も少なくありません。仮に手術が成功したとしても手術によるダメージにより平均余命を大きく超えて生存するのは難しいケースもあるかもしれません。

 その意味では80歳の膵がん患者さんに根治目的の外科手術をするのが妥当か否かについては議論があります。「膵癌診療ガイドライン2019年版」では80歳以上の膵がん患者さんの症例を25例以上含む「後ろ向き」の臨床研究8編を抽出して論じています。後ろ向き研究とは過去の事象について研究するものをいい、研究を立案・開始してから生じる新たな事象について調査する研究を前向き研究といいます。症例対象研究は後ろ向き研究の代表例で、無作為化比較試験は前向き研究の代表例です。

 それによると、80歳以上の膵がん患者さんはがん切除により予後は改善し、術後の合併症は若い世代と同じですが、手術後に他の病気で亡くなる率や肺炎が増えて生活の質が下がるとの結果でした。

 80歳以上の膵がん患者さんの生存期間中央値は12・4~13カ月に対して80歳未満では13・0~35カ月と報告され、8編中3編は予後が有意に不良であるとし、5編は有意差なしと報告しています。

 80歳以上と未満との比較では、全身症状の医学的指標である「パフォーマンスステータス」や「ASAスコア」の高い80歳以上における膵がん切除後の死亡率は0~15・5%に対して1編を除いて若者の死亡率(0~9・3%)と統計的な有意差は報告されていません。術後の合併症も4編で差がなかったと報告しています。ただし、手術後の生活の質において、在院日数と自宅への退院率を比較した論文6編中3編は80歳以上の入院日数が延長しており、自宅への退院率は63%と若者に比べて17%程度低かったのです。

 先ほどお話ししたように、これらのデータは後ろ向き研究から得られたものです。すでに、データ採取が完了していて、対象者の不均一性やデータの欠損があってもそれを補うことができません。そのため、必ずしも正確な状況を反映しているとはいえません。さまざまな意見が出るのは当然です。

 実際、「膵癌診療ガイドライン2019年版」を作成した委員の先生方の投票結果は「行うことを推奨する(強い推奨)」は3%(1人)、「行うことを提案する(弱い推奨)」は92%(35人)、「推奨なし」は5%(2人)となっていて、最終的なステートメントは「本人が外科的治療を希望し、全身状態が許せば、80歳以上の高齢者膵癌に対して外科的治療を行うことを提案する。しかしながら、推奨を行うためのエビデンスに乏しいデータしかなく、今後の研究の結果が待たれる」推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):D(非常に弱い)としています。私自身は、基本的に手術の選択は患者さんの意思に任せるべきと考えています。

(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)

最終更新:10/16(水) 9:26
日刊ゲンダイDIGITAL

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事