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金融業界はAIでどう変わったか? 1日1000億件の市場データを処理するブルームバーグに聞く

10/16(水) 7:29配信

ITmedia NEWS

 さまざまな業界や企業がAI活用に取り組んでいますが、金融業界は機械学習の導入が比較的進んでいる業界の一つといえるでしょう。株取引や株価予測、銀行窓口の対応などの自動化がその一例です。世界中の金融・経済情報などを扱う米Bloombergも、積極的に機械学習に取り組んでいます。

金融業界のAI活用(画像)

 同社は、世界中の証券取引所から集めた1000億件を超える市場データを1日で処理していて、これはTwitter社が1日で処理する量の約200倍に当たるそうです(同社調べ)。合わせて、世界中の12万5000以上のメディアから200万件以上のニュース記事を取り込んで処理しています。これは膨大な量でしょう。

 そんなBloombergが最近特に注力しているのが自然言語処理の活用です。金融業界の自然言語処理といえば、銀行窓口におけるチャットbotの導入が思い出されますが、Bloombergでは膨大なテキストデータの意味を読み解くために自然言語処理を使っています。

 同社はトレーダーをはじめ、世界中のユーザーに金融関連のニュースを配信するサービスを提供しています。自分の知りたいニュースを検索することもでき、例えばサービス上で「Bloomberg」と検索すると、関連するニュースがリスト化されて表示されます。1日平均で約1600万件のキーワードが検索されているそうで、検索されたキーワードと関連の高い情報をランク付けしたり、表示したニュースの意味を理解して要約したりするために機械学習や自然言語処理を活用しています。

金融業界にとってAIは脅威なのか?

 上記のような事例をはじめ、同社の中で機械学習、自然言語処理、情報検索の戦略を主導しているのが、データサイエンス部門のグローバル統括責任者であるギデオン・マンさんです。マンさんは前職の米Googleでクラウドサービス「Google Colaboratory」を開発した実績があり、機械学習と自然言語処理の分野で30以上の出版物と20以上の特許を持っています。

 マンさんによると、この10年ほどで自然言語処理の技術が進化したことで、より正確にユーザーのニーズに合った情報を素早く提供できるようになってきたそうです。次のように語ってくれました。

 「金融業界は昔からクオンツ(※)など定量分析を主軸として動いている業界です。そういう意味ではデータサイエンスやAI的なアプローチ自体は昔からあったといえます。1980年代以降、米Renaissance Technologiesのようにトレーディングの自動化に取り組むヘッジファンドが多く登場しました」

※:高度な数学的手法を用いて市場や金融商品、投資戦略などを分析したりすること

 マンさんは「自然言語処理は複雑なため、SVM(サポートベクターマシン)など手法も限られていましたが、この10年ほどで技術が進化しています。言語データは意味が曖昧で複雑なことから従来は処理が難しいとされていましたが、今では文章だけでなくその文脈を読む手法も開発されています。Googleの『BERT』(自然言語処理モデル)が良い例でしょう。今では財務情報をAIに読み込ませると、機械が重要なポイントを検知してシグナルを出してくれます。テキストからいかに新しい情報を引き出すかを考えないといけません」と説明します。

 「ただ、機械学習を使えば金融業界が抱える課題を全て解決できるのか――その見通しは、それほど明瞭ではありません。金融業界では1日分、あるいは1カ月分のデータ量では十分な精度を出すAIモデルを構築できません。また10年前までさかのぼってデータを取り込もうとしても、そこまでデータがないんです」

 確かに金融や保険業界など、統計を駆使してきた業界はAIとも相性が良さそうです。しかし、AIによる自動化の波が金融業界を襲っているという見方もあります。

 例えば、米ゴールドマン・サックスでは、ニューヨーク本社で働く株式トレーダーの数が、最盛期だった2000年の600人から2人にまで減ったいう報道もされています。日本でも顧客対応の自動化などが後押しし、メガバンクが人員削減に踏み切っていますが、金融業界内では「仕事が奪われる」という脅威論はあるのでしょうか。

 これに対し、マンさんは「自動化によって起きる現象を単なる破壊とみるのか、それとも新しいものを生むための創造的な破壊とみるか。まだ答えは出ていない状況でしょう」といいます。

 「ATMが登場したときも、銀行の出納係の仕事が奪われるのではないかといわれていましたが、銀行の支店数は減りませんでしたよね。ただ、その当時金融機関に勤めていた人たちの仕事内容が変わったのは事実です。影響を受けてしまった人たちに対してどのような支援ができるのかを、社会全体で考える必要はあるでしょう」

 さらにマンさんは「ゴールドマン・サックスの例も、できれば『全体』で見てほしいです。確かにトレーダーの数は減りましたが、その分エンジニアの数は増えていますよね。これはヒューマンリソースの再配分だと捉えるべきでしょう」と指摘します。

 確かに、新しい技術の登場によってなくなる仕事もあれば、新たに生まれる仕事もあるでしょう。私たちはAI時代の働き方について、もっと真剣に考えなければいけないのかもしれません。金融業界などでの実用化が見込まれている量子コンピューティングについても、「私は量子コンピューティングの専門家ではありませんが、従来よりも速く計算できるということに着目すると、そこまで大きく何かが変わるとも思っていません。ただ、注意深く見守っていきます」と慎重です。

 マンさんはAIなどの先端技術が働き方に与える影響を研究する団体「Shift Commission」の創設メンバーでもあります。同団体では、米国の政治家や実業家、ジャーナリストなどが議論しながら未来の社会のシナリオをイメージし、その社会で人々がどう生きていくべきかを考えていきます。

 「より良い成果を生むためには、政府、企業、教育が適切なタイミングで適切な関わり方をしなければならないと考えます」とマンさん。例えば教育の領域でいえば、ドイツ連邦政府は「国家再教育戦略」を発表していますが、日本でもデジタルの再教育などが必要になってくるのでしょうか。

 これに対し、マンさんは「そうですね、教育にはもっと力を入れていくべきです。これから先、社会の変化はますます大きくなっていきます。企業の経営者も、人材の再教育や将来の社会的な飛躍のために何ができるかなどを考えなければいけなくなるでしょう」と話します。

取材後記

 AIが社会に浸透していく時代、「AIに負けない人間力をつける」と考えるよりも「AIをうまく操る能力を身に付ける」ことのほうが大事になっていくのでしょうか。筆者の考えは以下の記事にも書いています。

・「AIが仕事を奪う」への疑問 いま、“本当に怖がるべきこと”は

 21世紀は「学び続けなければならない時代」なのだと思います。「deep learning」よりも「keep learning」。それを苦痛と感じるか、常に新しい気付きを得られると感じるか、それは人それぞれですが、そうしなければ生き難い社会ではあるようです。

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最終更新:10/16(水) 7:29
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