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名総裁ドラギ氏の緩和策、ECB内に深刻な亀裂

10/16(水) 14:00配信

ニュースソクラ

【経済着眼】ラガルド次期総裁は当初から試練

 今月末で任期を終える欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、フランスのマクロン大統領から「EUの最大の功労者」と称えられる名総裁であったと言えよう。

 とくにユーロ金融危機の際に「できることは何でもする(whatever it takes)」という強い決意を示して危機を乗り越えた手腕は伝説となっている。

 そのドラギ総裁が仕切る最後の理事会は予想通り金融緩和に踏み切った。

 11月に総裁に就任するラガルド前IMF専務理事がドイツ連銀のワイドマン総裁らのタカ派が居並ぶ前で金融緩和にいきなり踏み出すのは難しいとみて、自分の最後の仕事として反対が予想される金融緩和に踏み切ったとみられる。

 9月12日の理事会では、ほぼ事前の予想通りに、
1)マイナス金利の深堀り(-0.4%→-0.5%)
2)資産購入プログラムの再開(2018年に終了していた資産購入を19年11月から毎月200億ユーロ規模で再開)
3)民間銀行への長期資金供給(TLTRO3)の条件緩和、を決定した。

 声明文では、今次措置の背景として、
(a)欧州景気見通しの大幅悪化
(b)貿易摩擦の激化、地政学的リスクの高まり
(c)インフレ見通しの下方修正、
を指摘している。

 とくに(c)のインフレ見通しについてはECBの目標である「2%に近い水準」からは大きく乖離していて、19年が+1.2%、20年が+1.0%となっている。これが金融緩和に踏み込んだ最大の理由であろう。

 中立スタンスに戻した金融政策を緩和の方向に振ることについては、世間の批判にさらされることは十分に予期された。このためドラギ総裁は「ここで話されたことに対するオフレコ取材には答えないように」と理事会メンバーに伝えた。

 これに対してオランダ中銀のクノット総裁が即座に「大丈夫だ、オンレコで見解を表明するから」と押し返した、と伝えられる。

 事実、理事会翌日の9月13日付オランダ中銀のホームページには総裁談話が掲載された。その概略を紹介すると、

 「今回の政策パッケージ、とくに資産購入プログラムの再開は、現在の経済情勢に照らして不釣り合い(disproportionate)である。[…]ユーロ圏経済はフル・キャパシティーを続け、賃金も上昇している。金融は十分に緩和(highly accommodative)されており、信用供与面でも何ら障害はない。

 一方で低リスクの金融資産が希少化し、金融市場でのプライシングにゆがみが生じる兆候が増え始めている。住宅市場でも過剰なリスクを取る動きが高まっている」と金融緩和の不当性を論じている。

 理事会直後にそのメンバーがホームページで堂々と反論を載せるという思い切った行為は初めて見た。

 さらに25日にはドイツ出身のラウテンシュレッガー理事が任期満了(2022年1月)まで2年以上を残して辞任する、と発表した。退任理由は明らかにされていないが、8月にインタビューで「資産購入プログラム再開の必要性を感じていない」と答えており、オランダ中銀のクノット総裁と同じく、行き過ぎた金融緩和に対する抗議の辞任と考えていいだろう。

 ちなみにドイツ出身者の任意満了前の辞任は2011年2月のウェーバー・ドイツ連銀総裁、同年9月のシュタルクECB理事に続き3人目である。

 消息筋によると、今回のECB理事会の決定に関しては、25人中8人(消極的賛成を含めると10名)が反対にまわったと伝えられている。

 その一人であるドイツ連銀のワイドマン総裁は、欧州一の発行部数を誇るドイツの大衆紙ビルトのインタビューに答えて「緩和は行き過ぎであり、預金者と年金生活者を傷つけるもの」と今回の決定を公けに批判した。マイナス金利を批判し続けてきた同紙はドラギ総裁の顔をドラキュラに模して「預金者の預金の生き血を吸うドラキュラ侯爵」との漫画を掲げた。

 オランダ、ドイツに加えてフランス、オーストリア、エストニアなどの出身者も反対に回っており、ユーロ圏のGDPに占めるウエイトは過半を越している。

 2011年当時はドイツ出身者2名の辞任は政策運営に大きな影響をもたらさなかった。しかし、今回は広範なメンバーでしかも大国の出身者の反対が際立っている。

 11月にスタートするラガルド新体制では、ドラギ総裁に続いて必要とあれば、反対をもろともせずに一層の緩和に踏み切るのか、深刻な分裂にいたった現状をいやすことを優先するのか、それともラガルド氏も支持した緩和路線の変更を強いられるのか、最初から苦難の船出を強いられることになる。

俵 一郎:経済着眼 (国際金融専門家)

最終更新:10/16(水) 14:00
ニュースソクラ

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