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在日一世の血と涙と汗と 「三たびの海峡」帚木蓬生 【あの名作その時代シリーズ】

10/18(金) 19:00配信 有料

西日本新聞

九州の地で命を落とした朝鮮人たちが眠ると伝わる墓。韓国から追悼に訪れたのだろうか、墓石がわりのボタの横で統一旗が揺れていた=福岡県添田町

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年9月23日付のものです。

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 夜の海は黒く、辺りの建物から漏れる明かりが水面にぬるりとした光の紋をつくっていた。

 北九州市・若松港。
 〈悲しいのと嬉(うれ)しいので半分半分だから。明日になったらきっと嬉しいほうが大きくなるはずだわ〉

 戦時下、朝鮮半島から九州の炭坑に連行された青年、河時根(ハシグン)と将来を誓った千鶴(ちず)は、時根の故郷を目指してここ若松をたつ前の晩、目を潤ませて気丈に言う。

 希望と不安。焦燥、喜びと憎しみ、そして絶望。波間には時根や千鶴、そして多くの人々の数限りない記憶が漂い、浮かんでは沈む。海峡を越え、その先に霞(かす)むのは、半島-。

     ◇

 帚木蓬生の小説「三たびの海峡」の主人公、時根は十七歳のとき強制的な「徴用」で九州に渡った。送り込まれた炭坑では過酷な労働に加え、凄惨(せいさん)なリンチが日常化していた。仲間たちが次々に命を落とすなか、決死の脱走に成功した時根は敗戦後、日本人女性・千鶴を連れ二度目の海峡を渡る。しかし、「倭奴(ウェノム)の女」を連れた時根を故郷は受け入れず、安住の地ではなかった。千鶴は日本に連れ戻される。以来、時根は体の内に根付いた“日本”を抹殺し、無我夢中で働いて、やがて財を成す。物語はここから終盤に入っていく。

 小説は多くの在日朝鮮・韓国人一世の体験と重なるだろう。とりわけ、福岡・筑豊ではよく知られたある在日朝鮮人の人生は、驚くほど時根の人生と共鳴する。 本文:2,622文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:10/21(月) 9:48
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