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【オーストラリア】【有為転変】第136回 混乱する潜水艦プロジェクト

10/18(金) 11:30配信

NNA

 この連載でこれまで、日本が受注を逃したオーストラリアの新型潜水艦プロジェクトに関する問題を何度も書いてきた。だが最近、あらためてこのプロジェクトの混乱がメディアを賑わしている。その中で注目させられたのは、日本に対する不信感まで出始めたことだ。

 話は、新型潜水艦の共同開発に関する入札が行われた2015年にさかのぼる。ニック・ゼノフォン上院議員(当時)とレックス・パトリック上院議員が当時、情報公開制度を使って、どんな背景でフランスのDCNS(現ネイバル・グループ)が受注したのかを知るため、豪国防省に資料公開請求を行った。

 英紙ガーディアンによると、この請求は「日本との関係に傷が付く」などとして却下されたが、パトリック議員がそれを不服として2017年に簡易行政訴訟に持ち込んでいた。その訴訟がこのほどようやく結審し、一部資料の公開命令が出たものの、国防省の非公開方針は大方で認められた形になった。

 パトリック議員が最も不満を抱いたのは、オーストラリア政府が、国会議員から潜水艦プロジェクトに関する公開請求が来た旨を日本に通知した際、日本は情報公開しないようオーストラリア側に求めたとされることだった。

 秘匿された資料は、入札に関する情報としてはセンシティブとは言えず、多くが既に公開済みの情報でもあったとされる。しかも特に日本の入札情報に関するものでもなかった。フランスとドイツは情報公開に同意したのに、日本は公開済み情報も含めて非公開とすることを求めたという。

 ■「豪日関係にひびが入る」

 オーストラリアの幹部外交官は同紙に対し「日本が拒否しているのに潜水艦入札の情報を公開すれば豪日関係にひびが入るだろう。潜水艦入札で日本を退けたという敏感な問題が再燃されるためだった」などと話した。

 パトリック議員は「日本は入札に参加だけであり、オーストラリア政府が公的資金の用途に関する情報を公開しないのは納得がいかない。日本政府は気取った態度で、我が国の情報公開主義に対する敬意がない」と憤る。そのため「情報隠ぺい体質を持つ日本を、今後の防衛事業パートナーとして招くのは適切なのか」とまで反発した。

 筆者は昨年、パトリック議員に会って話を聞いている。その際、同議員は「誠実さという意味では、日本が最も競争力があったはずで、ネイバルが起こしているような問題はなかっただろう」と話していた(昨年10月9日付本紙「R・パトリック上院議員インタビュー」)。

 当時、日本の受注を支持さえしていた議員が、日本が情報公開を妨げたことが判明すると、防衛事業の相手として適切ではないと断罪する――。日本では防衛品調達の入札情報を秘匿する慣例が、オーストラリアとの事業ではリスク要因にさえなることを示しているわけだ。

 ■なし崩し的に原潜に切り替えも

 さて、パトリック議員がその時言及した「ネイバルが起こしているような問題」というのは、いまだに散発的に起きている。例えば、ネイバルは当初、オーストラリアでの現地生産比率を90%と言っていたにもかかわらず、それが二次的部品の現地調達率50%に変わり、今後さらに低くなりそうなことがその最たるものだ。

 ネイバルは今月、潜水艦製造の5大重要システムの一つを、地場企業ではなく、フランスの系列会社であるシュナイダー社に発注したことが分かっている。

 ネイバルはさらに、アデレードのメンテナンス工場予定地の写真をツイッターで公開してしまい、オーストラリア側を驚かせた(後に削除)。メンテナンス工場をアデレードにするのかパースにするのかは、国内で議論が沸騰している最中だからだ。

 まだある。ネイバルはこのほど、ディーゼルエンジンが設計条件だった次期潜水艦「アタック級」12隻の一部について、原子力潜水艦に変更できると伝えていたという。

 個人的には、「やはり来たか」という気がした。以前この欄で、動力が将来ディーゼルから原子力になし崩し的に切り替わることが想定されるため、「原潜を唯一持つフランスが有利な出来レースだった可能性がある」(第99回「潜水艦と政治力」)と指摘したが、それが裏付けられるような思いがしたからだ。

 だが、原潜への切り替えは膨大なコスト増が予想される。それにオーストラリアの国内生産比率や情報公開義務などにも振り回されるのは必至だ。日本はいらぬトラブルに巻き込まれないだけましだったのかもしれない。【NNA豪州・西原哲也】

最終更新:10/18(金) 11:30
NNA

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