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水没した北陸新幹線 「代替不可」の理由と「車両共通化」の真実

10/18(金) 8:00配信

ITmedia ビジネスオンライン

北陸新幹線は共通化できない?

 北陸新幹線は上越新幹線や東北新幹線と線路がつながっているから、他の路線で行楽向けの臨時列車の運行を取りやめ、北陸新幹線に回せばいい、と思うかもしれない。しかし前述のように、北陸新幹線車両は特殊仕様だから、失った車両を再度調達するためには、10編成をなんとかして「修理」するか、新規「製造」するか、他の新幹線車両を北陸新幹線向けに「改造」する必要がある。JR東日本は検討中で具体策を公表していないけれども、応急処置としては改造だと思われる。

 JR東日本の新幹線も、もともと車両は共通化されていた。国鉄時代は東北新幹線も上越新幹線も200系電車を運行していた。その後、新在直通の山形新幹線用に400系を投入する。また、繁忙期、短距離通勤通学需要と応用するためE1系というオール2階建て車両を作った。しかしこの電車は標準車両にはならず、実質的にはE2系が標準型となった。秋田新幹線用にはE3系が作られた。このあたりから、新幹線形式の多様化が顕著になった。

 E2系は東北新幹線と北陸新幹線向けに製造され、後に上越新幹線にも投入される。ただし、E2系の東北新幹線用と北陸新幹線用は仕様が異なった。標準化されなかった2階建て新幹線も、波動輸送用として次世代のE4系が投入された。その後、E2系を交代させるため、東北新幹線にE5系を投入し、上越新幹線はE4系で統一した。秋田新幹線にはE6系が投入された。

 東北新幹線と北陸(長野)新幹線はE2系が使われていた。東北新幹線は後継機種としてE5系が作られた。しかし、北陸新幹線金沢延長時はE5系ではなく、新形式のE7系(JR西日本はW7系)が作られた。標準化の常識に反する展開だ。なぜか。東北新幹線に求める性能と、北陸新幹線に求める性能が異なるからだ。

北陸新幹線にE5系を導入しなかった理由

 北陸新幹線の何が特殊かといえば「電力」と「勾配」だ。

 新幹線は車両の出力が大きく、路線は長距離。そこで高電圧で電力供給ができる交流を採用した。そして、家電でも配慮されているように、交流電力は東日本が50Hz、西日本が60Hzだ。東海道新幹線は将来の山陽新幹線延伸を見越して、相対的に短距離の関東側も60Hzとして全線を統一した。

 北陸新幹線も東日本と西日本をまたぐけれども、電力周波数は地域に合わせ、電車側で周波数変更に対応した。具体的には、東京~軽井沢間が50Hz、軽井沢の先から糸魚川駅手前まで60Hz、糸魚川駅付近が50Hz、糸魚川の先は60Hzだ。北陸新幹線は、この2つの周波数に対応した電車しか走れない。

 さらに「勾配」の問題がある。新幹線はスピードを上げるため、最大勾配を15パーミルに設定している。1000メートル進むと15メートル上る角度だ。しかし、北陸新幹線の設計時にこのルールを適用すると、勾配を抑えるために大きく迂回するか、ずっとトンネルになってしまう。人気保養地の軽井沢も無視できない。そこで特例として、高崎駅直後から、新幹線としては急勾配の30パーミルとし、駅付近だけ平たんにした。

 電車が勾配で配慮する点は、モーターの出力ではなく、ブレーキの性能だ。長い下り坂で接触型のブレーキをかけ続けると、発熱によってブレーキが効かない。そこで、クルマのエンジンブレーキのように、非通電時のモーターの抵抗力で速度を保つ仕組みが必要だ。鉄道の場合は抑速ブレーキという。北陸新幹線の車両はこの仕組みが必要だ。

 E2系の北陸新幹線仕様は2つの周波数に対応し、抑速ブレーキを搭載している。しかし、同じE2系でも東北新幹線仕様は対応していない。北陸新幹線仕様は東北新幹線でも走行できる。しかし、その逆、東北新幹線仕様は北陸新幹線には入れない。

 ならば、後継車種のE5系は全て2つの周波数と抑速ブレーキに対応していればよかった。そうすれば、JR東日本の新幹線車両は、将来的に全区間新幹線用のE5系と、新在直通用のE6系に統一できるはずだ。輸送量に差があったとしても、編成車両数で対応できる。

 しかし、この共通化は無理があった。東北新幹線は時速320キロで運行する使命がある。北陸新幹線は整備新幹線として作られ、設計速度は時速260キロだ。新幹線全路線に対応させるためには、「時速320キロ」「周波数変更」「抑速ブレーキ」の全てに対応させる必要がある。欲を出して在来線直通しようとすれば、「車体をひとまわり小さく」という制限も加わる。

 このようなオールマイティー新幹線を作れば、確かに全ての新幹線で効率よく運用できる。災害に見舞われても、他の路線から応援を出せる。しかし、それよりも大きな難点ができる。「どの路線を走ってもオーバースペックな車両」になってしまう。

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最終更新:10/18(金) 11:35
ITmedia ビジネスオンライン

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