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上田慎一郎監督が 語る「カメ止め」で得たものと失ったもの、2作目への重圧

10/20(日) 22:00配信

Movie Walker

映画界において“奇跡”や“大事件”レベルの社会現象を巻き起こした『カメラを止めるな!』(18)の上田慎一郎監督が放つ、待望の長編第2作目『スペシャルアクターズ』(10月18日公開)。“「カメ止め」旋風”が映画業界に夢と希望を与えた一方で、上田監督は2作目へのプレッシャーに苛まれ、かつてないほどの大スランプに陥ったという。上田監督に単独インタビューし、試行錯誤の末に完成した本作の制作秘話とともに、「カメ止め」で得たもの、失ったものについても話を聞かせてもらった。

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本作は、沖田修一監督作『滝を見にいく』(14)や橋口亮輔監督作『恋人たち』(15)など、良質で作家性の高い作品を手掛けてきた松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクトの第7弾として制作された。「カメ止め」公開後、多くのオファーをもらったという上田監督だが、長編2作目に選んだのは、彼がブレイクする前からその才能を認め、誰よりも早く声を掛けてくれた本作の深田誠剛プロデューサーとの仕事だった。

「やはり深田プロデューサーとの信頼関係がなによりも大きかったです。また、『カメ止め』はほぼ自主制作の映画だったので、いきなりスター俳優を招いたメジャー大作に行くのではなく、製作費や体制を含めてメジャーとインディーズの中間くらいの作品をやらせてもらったほうが、作品について自分でハンドリングできるし、僕の持ち味も出せるのではないかと思いました」。

■ 「2作目が始まっても、クリエイティブな作業に入れる精神状態になれなかった」

2018年6月に公開された「カメ止め」が大ブレイクし、さまざまな賞を席巻していくなかで本作が始動。昨年12月に俳優オーディションの募集をスタートさせ、今年1月に1回目のオーディションを開催した。「カメ止め」の時、応募総数は42通だったが、今回は1500通も集まり、そのなかから15人が選ばれた。その後、フレッシュなキャストとのワークショップを行った上田監督は、「カメ止め」同様に脚本を俳優1人1人にあて書きしていったが、そこで産みの苦しみを大いに味わうことになる。

「僕は内容さえ決まってしまえば、書くのは早いタイプですが、今回は筆が走らないというよりは、クリエイティブな作業に入れる精神状態になれなかった感じです。考えようとすると、余計なことが頭をよぎり、気づけば1日が終わってしまう。でも、妻のふくだ(みゆき)が、本作の宣伝デザインと監督補佐を、幼稚園からの幼なじみである鈴木伸宏が音楽を手掛けてくれたので、気心の知れた2人が精神的な拠りどころとなってくれました」。

クランクイン2か月前にできたプロットを、「これでは映画にならない」と白紙に戻してゼロから考え直したこともあったが、役者陣からもらったアイディアも取り入れつつ、倒れそうになりながらも脚本の執筆を進めていったという上田監督。

「ホテルに1週間缶詰状態となり、とりあえず初稿を書き上げたのが、クランクインの1か月前でした。脚本が上がらないと、スタッフがロケ地や衣装が決められないとか、いろんな問題があることもわかっていながら、血を吐くような思いで書いていきました」。

主人公の売れない役者、大野和人が、極限まで緊張すると気絶してしまうという設定は、その時のギリギリだった上田監督の精神状態を反映したものだ。和人は、数年ぶりに再会した弟の誘いで、俳優事務所「スペシャルアクターズ」に所属する。そこは、映画やドラマだけではなく、依頼された仕事はどんな内容でも請け負う“なんでも屋”だった。ある時、カルト集団から、旅館を守ってほしいという依頼を受けた和人たちは、皆でプランを練り、このミッションに挑んでいく。

■ 「『カメ止め』で失ったものは、体重と時間です」

手で“おむすび”の形を作り、「おむすびが宇宙になっていく」と説く“トンデモ宗教”のカルト集団「ムスビル」にも、上田監督自身の体験談が盛り込まれている。

「僕が20代前半のころ、マルチ商法まがいのものや霊感商法にひっかかったりした経験が活きています。また、中高生のころ、自分の右脳を開発しようと思い、右脳トレーニングの本にハマったりしていました。そのほか、カルト集団や新興宗教団体の本を読み、ネットなどでも調べました」。

和人の持病やカルト集団の描き方については細心の注意を払った。「気絶は、見え方次第では深刻なパニック症候群に見えてしまいます。また、カルト集団も、あまりふざけすぎるとコント化するし、リアリティを突き詰めると、社会派映画になってしまう。脚本はもちろん、撮影や編集段階でも、針の穴に糸を通すように“ここだ”というところを狙い、慎重に検討しながら進めていきました」。

ワークショップでチームとしての絆を深め、それぞれの俳優陣から個性を引きだし、役に当て込んでいく上田組。たとえば和人役の大澤数人は、上田監督と同い年の35歳でありながら、役柄と同様に日の目を見ていない役者だったが、あて書きならではのハマリ役を好演した。他の役者もしかりである。

そして完成した『スペシャルアクターズ』は、「カメ止め」同様に、役者が活き活きと痛快なアンサンブル演技を見せている。ユーモアたっぷりの小ネタもテンポ良くちりばめられ、最後には驚きの結末に着地するという、まさに上田節全開の快作となった。

無事、2作目を送りだす上田監督に、改めて「カメ止め」のビフォア&アフターについても聞いてみた。得たものについては「自信です」と即答。「誰かに媚びたり、顔色をうかがったりして映画を作るのではなく、自分の好きなものを信じて映画を作っていいんだという自信を得ることができました」。

続いて「失ったもの」については「体重と時間」だと言う。「もともと痩せていたのに、さらに体重が落ちました。でも、たぶん一番大きいのは時間でしょうね。僕は『カメ止め』の公開までは、映画を年間100~150本観ていましたが、いまは年間50本も観られていないんじゃないかなと。映画や本などから得られる“栄養分”、つまりインプットできる時間が減ってしまったので、それは今後、調整していかなければと思っています」。

だが、その分、別の“栄養分”を得られたそうだ。「『カメ止め』で、テレビやラジオ出演など、いままでできなかった経験をさせてもらいまいた。しかもすごく楽しかったです。だから、自分にとってストレスになったと言えるのは、映画を観る時間が減ったことくらいですね」。

■ 「映画作りを楽しむことを奪われたら死にます」

監督、脚本、編集とすべてを手掛けてきた上田監督だが、ほかのクリエイターと組むことについても「ぜひやってみたいです」と前向きな姿勢を見せる。「人によって『脚本が上田くんらしいね』とか『演出が上田節だね』とバラバラな意見をいただくので、例えば今後、長編監督作で、一部を他の方におまかせした時、自分の作品がどうなるのかなと思ったりもします。いつか挑戦してみたいです」。

そんな上田監督は「映画作りを楽しむことを奪われたら死にます」とまで言い切る。

「もちろん睡眠不足になるし、体力的にきついこともあるけど、その苦労よりも映画を撮る楽しみのほうが勝っています。僕の映画はフィクションですが、ある意味、ドキュメンタリーを撮ろうとしているところもあります。よく、頑張っている人のドキュメンタリーを観ると、自分も頑張ろうと思ったり、救われたりするじゃないですか。僕もそうで、映画を作ること自体が、自分の救いにもなっています。また、映画作り=楽しむもの、と考えているので、『いい映画を作るためなら、現場が楽しくなくてもいい』とは絶対に思わないです」。

その言葉どおり、上田監督の作品からは、関わっている人たちも心から楽しんでいることが、ひしひしと伝わってくる。ちなみに、このインタビューを行った日は、試写の最終日でもあり、終了後、本作の主要キャストたちが詰めかけ、上田監督とともに全員で挨拶を行った。大所帯の舞台挨拶は、「カメ止め」の宣伝で何度も目にした光景だが、今回も全員野球的な団結力が感じられる。

それを見て、思わず「カメ止め」の名シーンを思い出した。壊れたクレーンの代わりに、キャスト陣が人間ピラミッドを作り、監督がそれをよじ登って、ラストショットを撮ったあの感動シーンだ。きっと上田監督は、どんな規模の作品になっても、全員でスクラムを組んで臨むに違いない。『スペシャルアクターズ』も、そのことを証明している。(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)

最終更新:10/20(日) 22:00
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