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宮崎滔天「三十三年の夢」 大東亜ではないアジア連帯を夢見て 【あの名作その時代シリーズ】

10/21(月) 18:00配信 有料

西日本新聞

大陸に真っすぐ伸びる道。志士たちが道の先に夢見たものは何だったのだろうか=中国・安西郊外

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年10月14日付のものです。

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 「三十三年の夢」にこんな場面がある。

 シャム(現在のタイ)に日本から移民たちを連れていったときの話である。中国人の苦力(くーりー)千余人が乗り込んできた。船は大揺れに揺れる。アヘン臭、床虫(ゆかむし)、おなら。そこらじゅうに吐きまくり〈ゲブゲブの声はあたかも戦場のラッパのごとく〉。みんなトイレ代わりの竹筒を持って用を足す。壮絶な船内。やっとのことで上陸すると仲間たちがコレラに倒れ、自らも死にかける。ああ、これまでか。末期(まつご)の水、冷えた黒ビールを一杯飲んだら、いっぺんに生き返った、と。

 「だいたいそんなことあるわけないでしょ。黒ビールですぐ治るって。この本の、本当の部分は六割か六割五分ぐらいしかないって思っとります」。宮崎兄弟資料館(熊本県荒尾市)の安田信彦所長(60)はそう言って笑い飛ばす。

 「夢」は一九〇三(明治三十六)年、宮崎滔天(とうてん)三十三歳、仲間の裏切りに挫折し、志士から浪花節語りに転じるときに新聞連載した半生記である。〈余(よ)が理想は夢想となりおわれり〉と失意にあったものの、そんな自分をもさらけ出し、諧謔(かいぎゃく)を交えて描く。生命力にあふれるアジアの人々、流動する時代の熱気。文章からは、壮大な大陸に夢をかけた人物たちが、生き生きと立ち上がる。

 滔天は「中国の革命家・孫文を支えた日本人」と語られる。身の丈六尺(約一八〇センチ)。ぼさぼさの髪の毛を無造作にぎゅっと縛り、いかにも大陸浪人というような面持ち。ただ、異様に大きな目の奥には何もかものみ込むような静けさがあり、豪傑な外観とは対照的な繊細さも醸し出している。 本文:2,697文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:10/21(月) 18:00
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