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宮古島市「名誉毀損」訴訟 事態を動かした市民の良識 権力乱用の監視が報道最大の役割

10/22(火) 6:01配信

沖縄タイムス

 メディアの役割(5)新聞週間に考える

 宮古島市が住民6人を「名誉毀損(きそん)」で訴える議案を市議会に提案する-。宮古支局が出した8月29日付の沖縄タイムス1面記事に目を疑った。

 住民6人は不法投棄ごみ撤去事業を巡る住民訴訟で市を追及した原告。市の主張の根拠は、住民側の裁判報告会で弁護士が市を批判した発言が「度を超えている」との内容だった。市民への公権力の行使は慎重でなければならないはず。支局と連絡を取り合う中で、これは住民活動を萎縮(いしゅく)させ、言論の自由の観点からも看過できない深刻な問題だと確信した。

 市議会は議長を除く22人中、与党が15人。可決される可能性は高い。「問う-宮古島市『名誉毀損』訴訟提案-」と銘打ち、キャンペーン報道すると決めた。

 9月10日付1面では、高知県黒潮町が、反町長派の町議の議会報告によって名誉を傷つけられたとして、裁判を起こした事例を報じた。判決は「行政執行で町が批判を受けるのは当然」とし、町には「言論で対抗すべきだ。提訴の必要性はなく、町議への制裁目的があった」と認めた。記事を読んだ宮古島市関係者からも反響があり、手応えを感じた。

 同11日付1面では、宮古島市の議案書に不備がある疑いを掲載。市側は「対応を検討する」と、姿勢を変化させた。

 ある関係者は「与党の中でも支持者から提訴すべきではないとの声があり、悩んでいる」と打ち明けた。11日に議案採決を予定した市議会の委員会は、与党側の提案で採決を延期。全市議に提訴の賛否などを問う本紙アンケートにも与党市議らは回答しなかった。

 一方、市民の見解は明確だった。市役所前で計50人に取材すると、「市民が行政に意見を言えなくなる」「税金の無駄」などの声が相次ぎ、48人が提訴に否定的。市長支持者という男性も批判した。

 事態は17日に急展開する。下地敏彦市長は「内容を精査したい」と議長に議案撤回を申し入れ、翌18日に議会も全会一致で承認。市側は「報道や議員から議案書不備の指摘もあり、弁護士らとも調整して撤回に至った」と説明した。

 ある関係者は「報道を通じて市も議員も提訴自体の問題点を学び、市民の意見も受け止めた」と背景を語り、議案の再提案は「もうない」と推察した。

 関連記事は約1カ月続いた。振り返れば、事態を動かしたのは市民の良識だ。権力の乱用を許さないよう監視することが報道の最大の役割だと、あらためて肝に銘じている。(社会部・伊集竜太郎)=おわり

最終更新:10/22(火) 6:01
沖縄タイムス

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