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佐藤正午「永遠の1/2」 佐世保と向き合い 新たな自分探し 【あの名作その時代シリーズ】

10/28(月) 18:00配信 有料

西日本新聞

佐世保競輪場では選手が1人、黙々と自転車を走らせていた。その姿は、真の自分を探し求めて小説を書き続ける佐藤の孤独とも重なる

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年10月28日付のものです。

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 夕刻の佐世保競輪場。楕円(だえん)形のバンクに目を向けると、選手が一人、自らの影を追うように黙々と自転車を走らせていた。

 一九八一年春、小説家を目指しつつも書き出すきっかけをつかめずにいた二十五歳の佐藤正午は、この競輪場である「事件」に遭遇した。

 〈「ずいぶん景気よさそうじゃない」

 四十年配の男はそう言ってぼくの胸のあたりを手の甲で叩いた。…顔を寄せてくる。囁き声で言う。前歯が二本欠けていた。

 「タカちゃんが捜してた。マスターも一緒に…」

 (こいつ人違いをしてる)〉

 デビュー作「永遠の1/2」は、佐藤がこのささやかな実体験に着想を得て、原稿用紙約七百枚に仕上げた長編小説だ。

 主人公は、とある地方都市に住む二十七歳無職の青年、田村宏。度重なる人違いに遭い、自分とそっくりの顔をした男が同じ街にいるらしいと気付く。自分より女にもて、なにやら怪しい事件にかんでいるようである。一体、彼は何者なのか。我を忘れたように男を捜し求める田村に母親が尋ねる。〈何故その人を追いかけるの〉

 それは新たな自分を見つけ出したい佐藤の自問でもあった。

 佐藤が小説家になることを決意したのは北海道大学に在籍していた二十二歳の春。書店で芥川賞作家、野呂邦暢の代表作「諫早菖蒲日記」を手にして一年後のことだった。 本文:2,751文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:10/28(月) 18:00
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