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【stage】敗戦の気配が漂う大陸で、“風の”ように生きる男の物語

2019/11/2(土) 16:00配信

婦人公論.jp

◆“風”のように生きる男の物語

戦後日本の演劇史上に輝く名作『寿歌(ほぎうた)』の作者・北村想が、日本文学へのリスペクトを込めたオリジナル戯曲を上演するシリーズ「日本文学シアター」。2013年の太宰治から始まり、夏目漱石、長谷川伸、能『黒塚』、江戸川乱歩と続いたシリーズも6回目を迎え、満を持して無頼派の旗手・坂口安吾が登場する。

坂口の小説『風博士』は、彼が文壇に認められるきっかけとなった短編で、一陣の風となって姿を消した不思議な博士を描くシュールでナンセンスな作品。しかしこのシリーズの常として、北村は原作をストレートに舞台化するわけではない。作者への敬意を込めつつ、想像力を大胆に飛ばし、思いもよらない世界を創造する。それも軽妙なユーモアと、詩的で美しい言葉に乗せて。北村曰く、「私の『風博士』は、原作とはかなりチガウ『風の博士』です。『風を読む科学者』のハナシです。彼は興に及んで歌なんて歌います」。

物語の舞台は、敗戦の気配が濃厚な戦時下の大陸。風を読み、風を知り、風を歌うことができるフーさんと呼ばれる男「風博士」のもとに、さまざまな人が集まる。彼らは、明日をも知れぬ毎日をひょうひょうと、あるときはミステリアスに、あるときはユーモラスに、過ごしている。大陸の青空の下、それぞれの人生や秘密が交差していく……。

演出は、シリーズ全作を担当してきた寺十吾(じつなしさとる)。今回、劇場が大きくなり、これまで小劇場で生み出してきた濃密な空間をどう広げるのか。叙情性とエンタメ性を併せ持つ彼の手腕に注目したい。また、歌も出てくる今作で、坂本弘道が音楽を担当する。

出演には、人気、実力ともに頼もしい役者が揃った。主役のフーさんこと風博士には、中井貴一。ミュージカル『日本の歴史』で演技力に裏打ちされた歌唱力で観客を唸らせた中井が、歌も多数登場する今作でどのように舞台を息づかせるのか、楽しみがつのる。そして歌手の顔も持つ渡辺えり、多方面で大活躍中の吉田羊、趣里、林遣都、さらに本シリーズ開始からの3作に出演した段田安則が、久しぶりに登場する。

人は哀しくてもうれしくても歌を口ずさむ。果てしない青空の下、演技巧者たちの「喋るがごとく歌い、歌うがごとく喋る」言の葉が、物語世界を豊かに語るだろう。

日本文学シアターVol.6【坂口安吾】
風博士

11月30日~12月28日/東京・世田谷パブリックシアター
作/北村想 演出/寺十吾 音楽/坂本弘道
出演/中井貴一、段田安則、吉田羊、趣里、林遣都、松澤一之、内藤裕志、大久保祥太郎、渡辺えり
03・5423・5906(シス・カンパニー)
※大阪公演あり

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◆ギリシャ悲劇10本をひとつにまとめた大長編

上演時間なんと10時間。ギリシャ悲劇10本をひとつにまとめた大長編が、若手演出家・杉原邦生の手で上演される。1980年にイギリスで初演、日本では蜷川幸雄演出で話題になった三部構成の作品で、第一部は「戦争」、第二部は「殺人」、第三部は「神々」。トロイア戦争開始から始まる、人間と神、正義と過誤の一大狂騒劇だ。杉原はこれまでも上演時間6時間の『東海道四谷怪談-通し上演-』(木ノ下歌舞伎)を手がけるなど、“大きな演劇”好きを公言。古代ギリシャ悲劇を通して、宿命に対する人間の“希望”を「生き活きとエキサイティングに」描きたいと意気込む。選りすぐりの出演者がそれに応えるはずだ。

KUNIO15
グリークス

11月21~30日/神奈川・KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
編・英訳/ジョン・バートン、ケネス・カヴァンダー 
翻訳/小澤英実 演出・美術/杉原邦生
出演/天宮良、安藤玉恵、本多麻紀、田中佑弥、渡邉りょう、土居志央梨、松永玲子ほか
0570・015・415(チケットかながわ) ※京都公演あり

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◆冒険心はいまだ衰えていない

孤独に死を迎える者を看取る介護士ミトリーマンが活躍する時代のお話。広い駐車場で、1台の車を挟んで2人の女性、猿子(高田聖子)と丸子(池谷のぶえ)が佇んでいる。そこに青年(大鶴佐助)がやってくる。おしゃべりは弾むが、車はちっとも動かない。彼女たちはもしかして免許を返納したほうがいい年齢? おかしくも苦い物語が転がる……。劇団☆新感線の看板女優・高田が、劇団とは違う企画を打つために立ち上げた「月影番外地」の6作目。高齢者施設での巡回公演を長年続けている劇団「はえぎわ」のノゾエ征爾が書き下ろした。前身の「月影十番勝負」から今年で25年目、高田の冒険心はいまだ衰えていない。

月影番外地 その6
あれよとサニーは死んだのさ

12月3~12日/東京・下北沢ザ・スズナリ
作/ノゾエ征爾 演出/木野花
出演/高田聖子、池谷のぶえ、川上友里、大鶴佐助、竹井亮介、入江雅人
0570・00・3337(サンライズプロモーション東京)

渡辺美和子

最終更新:2019/11/2(土) 16:00
婦人公論.jp

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