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目取真俊「水滴」 沖縄戦「陰の記憶」も照射 【あの名作その時代シリーズ】

11/7(木) 18:00配信 有料

西日本新聞

沖縄本島各地のガマは沖縄戦当時、旧日本軍の陣地や病院、住民の避難用に使われた。いくつかのガマは、修学旅行生の平和学習に利用されている=沖縄県八重瀬町のヌヌマチガマ

 「あの名作その時代」は、九州を舞台とした作品、または九州人が書いた著作で、次代に残すべき100冊を選び、著者像や時代背景、今日的な意味を考えながら紹介するシリーズです。西日本新聞で「九州の100冊」(2006~08年)として連載したもので、この記事は07年12月2日付のものです。

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 今年の夏、沖縄は揺れた。

 六十二年前の住民を巻き込んだ国内唯一の地上戦・沖縄戦の記憶が、全島に呼び覚まされた。九月二十九日に沖縄県宜野湾市で行われた教科書検定をめぐる「県民大会」。参加者十一万人(主催者発表)の中に、目取真俊はいた。

 戦後、米軍統治下の「銃剣とブルドーザー」による米軍の土地強奪、祖国復帰運動、一九九五年の米兵による少女暴行事件抗議に対する県民総決起大会…。「島ぐるみ闘争」を幾度か経験してきた沖縄が、いつも対峙(たいじ)してきたのは巨大な権力だった。

 今回の「集団自決と軍命」の記述をめぐる教科書問題では、本土の一部に「十一万人はうそだ」「動員がほとんどだ」などの論争が生まれた。また教科書会社の訂正申請は相次いだが、沖縄側が求めている「検定意見の撤回」は、今のところ無視されている。

 十月末、沖縄県名護市で会った目取真は、県民大会後の本土側の対応について開口一番、こう言った。

 「沖縄は同じ国ではないのでは」

 怒りに満ちていることは、はっきりと分かった。

 目取真が「水滴」を執筆していたのは、米兵による少女暴行事件で沖縄全島が怒りに震えていた時期。それから十二年。

 「何も変わっていない。いや、どんどん悪くなっている」

 国内の米軍専用施設の75%を占める基地の島で、基地問題などの評論活動も続ける目取真は本土に対して、そして沖縄自身に対しても、カミソリの刃のように鋭角的なまなざしを向ける。

 六月半ば、沖縄戦で鉄血勤皇隊員だった主人公の徳正(とくしょう)の右足が、突然膨れ出す。物語は、その足から噴き出る水を、沖縄戦で死んだ兵士たちが、夜な夜な吸いに来るという幻想的な展開をたどる。 本文:2,993文字 写真:1枚

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西日本新聞

最終更新:11/7(木) 18:00
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