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金ローで『IT/イット』1作目が地上波初放送。R15+の「ファミリー映画」

11/8(金) 17:25配信

CINRA.NET

ホラー映画史上No.1の大ヒットを記録し、若い世代を中心に日本でも予想を超えた大ヒットを記録した、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』。その人気の理由は、なんといっても、いろいろな意味で度を超えた「恐怖シーン」だ。

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本作の悪役である、不気味な謎のピエロ、ペニーワイズが、子どもたちに仕掛けてくるバラエティー豊かな襲撃は、まさに、様々なアトラクションの用意されている「悪夢のテーマパーク」のよう。その一つひとつの完成度の高さに、話題が話題を呼んで、多くの観客を劇場に集めたのだ。

だが、本作はただ不気味だったり、不意打ちでびっくりさせるというだけではない、もっと深いところに、その真のおそろしさがある。ここでは、本作の魅力を最大限に味わうため、作品の奥深くにあるものを掘り出していきたい。

■子どもたちが主人公なのに子どもは観られない。残酷な描写のために「R15+」指定となった異様なハリウッド映画

舞台となるのは、1980年代のアメリカの北東、メイン州の小さな町。13歳の少年ビルをはじめ、そこで様々な悩みを抱え、学校でいじめの標的とされている少年・少女たち7人が、「ルーザーズ(負け犬)クラブ」を結成し、その年に発生した謎の連続殺人事件の真相に迫っていく。

本作の新鮮なところは、犯人ペニーワイズが言葉巧みに子どもたちを誘い出し、容赦なく惨殺する描写だ。子どもが犠牲になる様子を映し出すというのは、ハリウッドのファミリー向け映画の範疇を逸脱しているところがある。ゆえに、アメリカでは「R指定」、日本でも「R15+」指定となっている(日本のテレビ放送版では、過激すぎる描写を一部カットしている)。子どもたちが主人公として活躍する映画を、子どもの観客が見られない……。この異様さが興味を惹き、ハードな描写に期待が集まったところにもヒットの原因がありそうだ。

さらに特徴的なのは、ペニーワイズという存在の、徹底的な悪意と狂気である。とにかく「楽しみながら子どもを殺害したい」という情熱から、あらゆる方法を駆使して精神をえぐり、ときには子どもの優しい心を利用しつつ、歓喜に震えながら、命を奪おうとする。その一片の情もない邪悪さは、不気味な面を持っている「ピエロ」のイメージと重なることで、多くの人々が普段心の奥へと隠している「恐怖の概念」そのものとなっているかのようだ。本作で子どもたちは、その根源へと迫っていく。

■恐怖のピエロ・ペニーワイズのモデルは、「殺人ピエロ」の異名を持つ実在した人物。その過去が主人公たちと重なる

そんな本作のペニーワイズを演じているビル・カルスガルドは、スウェーデンの俳優一家に生まれた美形男子だ。ここで彼は思い切った極端な表情と声によって、見事におぞましい存在になりきっている。その狂気の演技が、本作の大きな見どころである。

じつは、ペニーワイズには実在のモデルがいるといわれている。それが、「殺人ピエロ」の異名を持つ、連続殺人犯ジョン・ウェイン・ゲイシーである。彼は休日になるとピエロの格好をして、福祉施設の子どもたちを喜ばせるという慈善活動を行っていたというが、その裏で子どもを含む30人以上に性的な暴行を加え、殺害に及んでいたのだ。ピエロに扮した異常者に殺害されるという悲劇……世の中にこれほどおそろしいことは、そうそうないだろう。

殺人鬼ゲイシーの犯行は、その原因の一部に、父親の抑圧があったともいわれる。本作の少女ベバリーもまた、異常な支配欲を持つ父親から虐待を受けていたように、ルーザーズクラブの子どもたちは、みんな家庭などに何らかの深刻な問題を持っているところが興味深い。本作で狙われるのは、そんな悲しみを背負っている子どもたちである。ペニーワイズは、きまって彼らの心が何者かに押しつぶされたときに現れ、死へと誘おうとするのだ。それはある意味で、彼らとペニーワイズの波長が瞬間的に合ってしまっていることを表しているのではないか。

■「ネガティブな感情」を象徴するペニーワイズ。心の中に巣食う闇と向き合う難しさを描く、普遍的な物語

アメリカの保守的な田舎町、ましてや80年代(原作は50年代)ともなると、まだまだ多様的な価値観は認められず、本作に登場する、図書館で独りきりで時間を過ごす少年や、同性に恋心を抱く少年など、マイノリティに数えられる人間は、生きづらい環境のなか成長することを余儀なくされてしまう。それが、大勢と個性の異なる子どもたちにとって、どれだけ辛いことなのかということを、本作は描いている。彼らが自殺や犯罪に追い込まれるとすれば、周囲の無神経な「普通であれ」という圧力が、その原因となっている場合があるはずなのだ。

つまり、ペニーワイズとの戦いは、生きづらい彼らが、それでもまっすぐに胸を張って生きていくために、自分のネガティブな感情と向き合うという作業ではないのか。だからこそ、ルーザーズクラブの全員で、一人ひとりが「手を汚す」ことによって、自分のなかのそれぞれのペニーワイズを葬り去る必要がある。本作は、閉ざされた自由のない世界で生き延びようとサバイブする者たちを描いた物語なのである。

ペニーワイズがおそろしいのは、自分の心に巣食う闇と向き合うことが、どれほど困難かということを表している。ホラー小説、ホラー映画は、描きようによって、このような普遍的で重要なテーマを扱うことができるのだ。

世界的巨匠であるスタンリー・キューブリック監督が映画化した『シャイニング』や、最近映画化された『ドクター・スリープ』などを書いた、アメリカのモダンホラー小説の「帝王」と呼ばれる、スティーヴン・キング。本作の原作は、その代表作の一つ『IT-イット-』である。分厚い文庫版で4巻ものテキスト量で発売されているように、ホラー小説としては異例といえる一大巨編だ。それは、ここに描かれた、「アメリカの無自覚な暴力」というテーマが、キングにとっても非常に重要なものだったからだろう。そして同時に、悪意とは何なのか、人を傷つける心理には何があるのかという部分も、ペニーワイズという謎の存在の正体に託している。

■世界を震撼させた本作の続編『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』が現在公開中

公開中の続編『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』は、彼らが大人になり、またしてもペニーワイズと戦うという内容である。そう、子どものときに受けた心の傷は、将来にまで影響を及ぼす可能性がある。乗り越えたはずが、まだ自分の生き方を縛っていて、それが表面化することがある。続編は、彼らがもう一度心の決着をつける物語なのだ。

(文/小野寺系)

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最終更新:11/8(金) 17:38
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