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岩手県盛岡市の新野球場に期待される“観客第一主義” 日本のスタジアム・アリーナを「感動空間」へ

11/9(土) 16:56配信

夕刊フジ

 【小林至教授のスポーツ経営学講義】

 3連休の中日、晩秋の盛岡に行った。東大野球部時代の同期、階猛(しな・たけし)衆院議員の招きに応じ、同氏が主宰する政治塾「新時代いわて」で、“みるスポーツ”による地域活性化の可能性について講演をし、参加者の皆さまと意見交換もできて、文化の日にふさわしい時間を過ごせたなぁとひとりごちつつ、本稿を記している。

 岩手県も、スポーツによる地域活性化の取組をさまざまに行ってきているが、喫緊の大規模事業として、収容人員2万人規模という、プロ野球の公式戦を誘致するにも十分な新野球場の建設がある。この盛岡南公園野球場(仮称)は、基本計画によれば建設費用が88億円、運営・維持費が年間1億5000万円で、2023年の開場を目指して事業者の選定が進められている。これだけの規模の野球場が新設されるのはめったにないことであり、建設費用を市と県が共同で負担するという全国初の試みもあり、スポーツによる地域活性化を推進する立場にいる私は大いに期待しているが、基本計画を読み、現場の声を聞くにつけ、懸念も少なからずある。

 期待を込めて一つ挙げるならば、カスタマー・ファーストが徹底できるかどうか。自治体がスタジアムを作る大義名分は、そこに多くのヒトが集うことから生じる経済的効果・社会的効果である。ところが日本においては、いつの間にやら、競技者とりわけ競技団体の都合に重きが置かれるようになる。野球場のバックネット裏の関係者用の諸室などはその最たるものである。アメリカの野球場では、フィールドに近い場所はお客さんのものである。ファウルエリアなども、もっと狭くていい。野球規則にはファウルエリアとしてダイヤモンドからフェンスまで内野部分は60フィート(18・22メートル)取ることが定められているが、本家のアメリカで順守しているスタジアムは、たとえばMLB本拠地では30球団中わずか2球団。観客にとっての臨場感を優先した結果である。ご本尊が無視している規約を日本野球界が金科玉条の如くかたくなに守っているのは、競技者のスペース利用などの便益を優先させているからである。盛岡新球場はぜひ、観客の視点を最優先させた画期的なスタジアムにしてもらいたい。

 そのための後押しもある。日本では長い間、空気とスポーツはタダという概念のもとにいたが、近年、他の先進国でスポーツが一大産業と化している中、わが国の数周遅れの現況は裏を返せばノビシロありということで、政府はスポーツを重点産業として位置付け、さまざまな支援策を講じている。そのひとつ、スタジアム・アリーナ推進官民連携協議会では、多様な世代が集う交流拠点として、地域の活性化に寄与するスタジアム・アリーナの具体像を提示すべく「スタジアム・アリーナ運営・管理計画検討ガイドライン」を昨年公表した。そして今年度、その実現をさらに推し進めるために、同ガイドラインを満たす、あるいは超える計画や取組に対しては、認知と補助をもって大々的に応援すべく、具体的な選定基準を設ける予定である。わたしも同協議会の幹事の一人として、日本のスタジアム・アリーナが、無機質な競技施設から躍動感あふれる感動空間へ変貌を遂げる一助になるべく、尽力をしたいと強く思っている。

 ■小林至(こばやし・いたる) 江戸川大学教授、博士(スポーツ科学)。1968年1月30日生まれ。東大から1991年ドラフト8位で千葉ロッテに指名され、史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。退団後に7年間アメリカに在住し、その間、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)を取得。2002年から江戸川大学助教授。05年から14年までソフトバンク球団取締役を兼任。

最終更新:11/9(土) 16:56
夕刊フジ

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