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ラグビーW杯 日本-スコットランド戦 台風翌日の実施でなされた尽力

11/9(土) 13:00配信

産経新聞

 ラグビーの第9回ワールドカップ(W杯)日本大会が11月2日、閉幕した。日本代表初の決勝トーナメント進出、ニュージーランドの準決勝での完敗、南アフリカの優勝…。さまざまなドラマをみせてくれた44日間のスポーツイベントを支えたのは、大会組織委員会やボランティアの人たちの奮闘だ。中でも私の印象に残ったのは、台風19号上陸翌日の10月13日、各地に大きな被害が出る中でも日本-スコットランド戦を実施したことだった。あのとき、組織委ではどんな議論がなされ、どう判断が下されたのか。その経緯を追った。(運動部 久保まりな)

【写真でみる】スコットランドに勝利し喜ぶ日本代表

 10月13日午後7時45分、横浜・日産スタジアムでの日本-スコットランドの一戦は、黙祷(もくとう)から始まった。全国で大きな被害をもたらした台風19号の犠牲者を追悼するためだ。試合は決勝トーナメント進出が懸かった大一番。日本が28-21で勝利し、史上初の8強入りを決めた。試合後、稲垣啓太は「台風によって被災した方々に、ラグビーで元気を取り戻してもらいたい。そういう気持ちで取り組みました」と語り、日本中に明るいニュースを届けた。

 台風の影響で、前日に同会場で予定されていたイングランド-フランスは中止に。日本-スコットランドも中止になる可能性はあった。中止になれば引き分け扱いとなって両チームに勝ち点2が与えられ、日本は決勝トーナメント進出が、スコットランドは1次リーグ敗退が決まる状況だった。

 そんな中、日本はスコットランドをプレーで退け、“正々堂々と”準々決勝進出を決めた。

 この試合の実施の可否が決まったのは、試合開始の約9時間前だった。10月12日の2試合と、13日の岩手県釜石市での試合が中止になる中、組織委と国際統括団体ワールドラグビー(WR)はぎりぎりまで頭を悩ませた。

 主に議論されたのは、(1)会場が使えるか(2)横浜市の被害状況がどうか(3)交通手段は確保できるか。前日夜から組織委スタッフが会場近くに泊まり込み、当日は早朝から、ピッチやゴールポストが壊れていないかなどを確認して回った。水がたまっているところがあれば掻きだし、ピッチ上の水たまりは、大きなスポンジで地道に吸い、試合ができる状態に整えた。

 交通機関は午後には動く見込みとの情報を仕入れ、観客の移動・安全は確保できると判断。飲食販売スタッフが来られないことも見越して、ソフトドリンクの飲料に限って持ち込みを可とした。さまざまな策を講じ、「GOサイン」を出したのは午前10時半すぎだった。

 開催可否の判断は他会場同様、選手の移動や観客の安全性を鑑み、判断された。とはいえ、開幕前から日本にとって1次リーグ突破へ最大の山場と位置づけられていた一戦。中止になれば、日本は戦わずして初の決勝トーナメント進出が決まるが、一方でスコットランドは戦わずして1次リーグ敗退が決まっていた。多くの人がどこかにほろ苦さを感じることになっていたに違いない。

 当日、情報収集に奔走した大会組織委の鶴田友晴・事務総長代理はこう振り返る。「試合ができたのは本当にうれしいことだし、逆にできなかったら大変だったな、と。そして、ああいった試合になって、組織委の立場ではなく、日本人の感情からすると、うれしいですよね」。安堵(あんど)の表情がにじんだ。

 44日間の熱戦は、南アフリカの優勝で幕を閉じた。WRのビル・ボーモント会長は11月3日の記者会見で大会を振り返り、「偉大なW杯。日本人の温かさ、ラグビーへの情熱、苦しいときの友情を象徴していた」と称賛した。

 チケットはほぼ完売、ファンゾーンへの入場者数は110万人を超えた。出場チームの国歌やラグビーアンセムを歌うことで応援する活動も広がった。試合後の選手の「おじぎ」も恒例に。会場近くでは、書道など日本文化を楽しむ外国人ファンの姿もあった。

 一方で運営面では会場内への飲食物の持ち込み禁止の是非が問題となり、台風直撃という自然環境面の“弱点”も改めて浮き彫りになった。フランスのAFP通信は閉幕後、大会統括責任者のアラン・ギルピン氏のインタビュー記事を掲載。東京五輪関係者へ、地震や火山など「あらゆる事態を想定するよう」忠告した。

 来年は、どのような熱気が日本列島を包み込むことになるのか。ラグビーW杯からのタスキは、東京五輪パラリンピックに渡った。

最終更新:11/9(土) 13:00
産経新聞

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