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マッツ・ミケルセンが語る、演じることへの情熱「映画出演を妻に報告すると、いつも呆れられてしまいます」

11/9(土) 13:30配信

Movie Walker

雪と氷に覆われた極寒の白い荒野、北極での孤独なサバイバルを描くのが『残された者 -北の極地-』(公開中)だ。説明的なセリフや情報を排した本作で、ただ“生きる”ことに徹し続ける男を演じるのは、“北欧の至宝”ことデンマーク人俳優のマッツ・ミケルセン。ヨーロッパのインデペンデント系からハリウッド大作まで出演する彼が「最も過酷な撮影だった」と語る本作に惹かれた理由や、世界的スターとなった現在の心境について語ってもらった。

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本作はオボァガードという名の男(マッツ)が熱心に大地を削り、“SOS”の文字を刻む場面から始まる。近くには墜落したと思われる飛行機があり、魚を釣るワナも仕掛けられている。また、オボァガードの足の指が凍傷により欠損しており、彼がこの飛行機の乗務員で遭難からすでに数日が経っていることを想像させる。

■ 「誰もがオボァガードに自身を重ねられるような作品です」

主人公のバックグラウンドなどはほとんど説明されないまま物語が進む本作だが、マッツが関心を寄せたのはまさにその点だった。「キャラクターが興味深かったというよりは、人間性や人間そのものを描いているところに惹かれました。過去のサバイバル映画で使われた手法を用いれば、容易に観客にいろいろな感情を掻き立てさせることができたと思います。しかし、敢えてそうはせずに、誰もがオボァガードに自身を重ねられるような作品にしているんです」と説明する。

これらの特徴は脚本段階ですでに存在していたとマッツは続ける。「僕にとってすごくサプライズをはらんだ脚本で、ワクワクしながら読みました。いわゆる、フラッシュバックのシーンがあったり、家族の写真が出てきたりと主人公の“記憶”が大きなものとして存在しない、すごくクリーンな物語だったんです」

ジョー・ペナ監督ともすぐに意気投合したようで、「最初にスカイプで打ち合わせをすることになったのですが、盛り上がりすぎて2時間、3時間という会話になってしまいました(笑)。ジョーには描きたいことがハッキリ見えていて全くブレがなかったですね。それが、僕がこの作品に感じたものと合致したんです。その2か月後にはアイスランドで撮影していたので、展開は早かったですね」

■ 「多くの意味で彼女の存在がオボァガードを救います」

ルーティン的に食事を取り、救難信号を送るだけだったオボァガードの日々は、途中で現れるもう一人の遭難者の女性によって一変する。瀕死の彼女を救うため、彼は住み慣れた飛行機を離れ、遠く離れた観測基地へ向かうことを決意するのだ。「多くの意味で彼女の存在がオボァガードを救うことになります。一人でいた時は、そこに希望はなく夢もない、生存本能だけなんです。ところが、彼女の登場によって、彼の人間性が突然戻ってくるんです。彼女がいなければ、1週間、10年と同じ生活を繰り返すだけだったと思いますよ」とマッツが語るように、“生きる”だけの物語が“生き残る”ことへとシフトしていく。

「オボァガードが彼女に対して、『大丈夫。一人じゃない』と語りかけるシーンがあるのですが、あれは自分自身への言葉でもあります。彼女の存在が彼に生きる可能性を与えると共に、犠牲を払ってでも試練に立ち向かおうとさせるのです」

■ 「ジョーにはより良い作品を撮ろうという根源的な意志の強さがある」

ブラジル出身のジョー・ペナ監督は、YouTubeチャンネル「Mystery Guitar Man」で音楽とストップモーション動画を組み合わせたミュージックビデオや短編映画を配信し、人気を博した異色のクリエイターだ。デビュー作となったデンマーク映画『プッシャー』シリーズのニコラス・ウィンディング・レフン、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)のギャレス・エドワーズなど、様々な個性あふれる監督と仕事を共にしてきたマッツだが、彼にとって本作のジョーはどう映ったのだろうか。

「ニコラスのデビュー作でもある『プッシャー』(97)のほか、多くの誰かの初長編映画に参加してきました。ジョーとの仕事も彼らと同じく、とても新鮮なものでした。限られた製作費の中で、より良い作品を撮ろうという根源的な意志の強さが彼にはあるんです。映画製作はすごくエネルギーを消費するものなのですが、ジョーの集中力にはとても驚きました。いまはiPhoneでも映画が撮れる時代で、誰もが映画監督になれる可能性があると思います。それでも、それぞれのパーソナリティやストーリーテリングは重要で、その点でも彼は才能にあふれていました」

■ 「興味を惹かれる作品や役柄は、エクストリームなものが多い」

ドラマ「ハンニバル」シリーズでレクター博士を演じ、12年に出演した『偽りなき者』ではカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞するなど、人気・実力共に確固たる地位を築いたマッツ。そんな現在の状況をどのように捉えているのだろうか?

「例えば、俳優として公園などで人物観察をしたいと思うのですが、そういうことはだんだん難しくなってきました。でも、困ったことにあまり自分が世間に知られているという自覚がないんです(笑)。普通に家のドアを開けて外に出て、そこで誰かに声をかけられて、やっと思い出すくらいなんです」

19年はNetflix配信のバイオレンスアクション『ポーラー 狙われた暗殺者』で主演を務め、世界的なゲームクリエイター・小島秀夫の最新作ゲーム「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」(11月8日発売)にキャラクターのモデリングで出演するなど、その活躍の幅はますます広がるばかり。俳優としての尽きない探求心はどこから湧いてくるのだろうか?

「自分を突き動かす、興味を惹かれる作品や役柄というのは、ちょっとぎこちなさがあってエクストリームなものが多いですね。危険性をはらんだ物語である必要はないのですが、チャレンジしがいのある作品に出会うと、つい『YES!』と答えてしまうんです。そのような挑戦するエネルギーというのはすり減っていくものだと思っていましたが、幸せなことに僕はあまり感じていませんね。いつも出演が決まって妻に報告すると、『また?』と呆れられてしまいます(笑)」

新鋭監督のヴィジョンに共感し、孤独なサバイバルを送る主人公の苦悩や葛藤を抑えた“静の演技”で体現したマッツ・ミケルセン。輝かしいキャリアを持つ彼が、いま最もチャレンジしがいのある役柄だと感じた本作の魅力を、スクリーンで体感してほしい!

(Movie Walker・取材・文/トライワークス(平尾嘉浩))

最終更新:11/9(土) 13:30
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