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【特集】中国未成年ゲーマーの「制限」に効果はあるのか?日本と異なるゲーム文化から考えてみる

11/11(月) 12:30配信

Game Spark

(C)GettyImages
オンラインゲーム依存が世界で問題になる中、中国政府は「未成年のオンラインゲーム依存防止に関する通知」を10月25日に公布しました。全ユーザーの身分証による実名登録を厳格化し、18歳未満の場合は夜10時から朝8時までのゲームプレイが禁じられることとなります。また平日のプレイ時間は90分、休日は3時間までの制限も設けられました。

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オンライン課金に関しても上限が付けられ、一度に課金できる金額は、8歳以上16歳未満が50元(約780円)まで、16歳以上18歳未満は100元(約1,560円)まで。また1ヶ月の累計金額は、8歳以上16歳未満が200元(約3,100円)まで、16歳以上18歳未満が400元(約6,200円)までとなっています。

未成年のオンラインゲーム時間規制に関しては、すでに韓国で2011年から実施されており、16歳未満のアカウントは夜12時から朝6時までシャットダウンされるようになっています。中国では2002年の時点で、高校生がオンラインゲーム中に急死する事件が発生するなど、前々からゲーム依存症は問題になっていました。そのため今回の規制は、中国に住んでいた筆者としては今更感があるのですが、「なぜこれまで規制しなかったのか」については、経済的な面が大きく関与しているものと思われます。

規制によって衰退した韓国ゲーム業界
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「中央日報」2015年10月27日の報道によると、韓国ではゲーム会社が2010年からの4年間でおよそ30%減少しており、規制の影響が指摘されています。規制は産業の衰退や税収減にもつながるため、中国政府としては慎重にならざるを得ない部分がありました。

中国ではYouTubeやTwitterなど、多くの海外ネットサービスを規制しています。情報規制の面もありますが、これが国内企業の保護に大きく貢献しました。アリババやテンセントなどの大企業が育ち、国内で稼いだ莫大な資金を背景に海外進出していくというビジネスモデルが確立していきます。

韓国で規制が始まった2011年、テンセントはモバイル向けアプリ「微信(WeChat)」を発表。またゲーム事業も大きくなっており、世界に打って出る勢いを削ぐわけにもいかない時期だったとも言えます。韓国のゲーム業界の衰退は、中国にとっては追い風にもなりました。

今回の規制については、やはり世界的にゲームへの依存が問題になっていることと、中国国内の教育現場や保護者からの要望が影響しているものと思われます。そのため規制はそれらに対するパフォーマンス的な意味もあり、今後の経済動向やe-Sportsの発展次第では緩和される可能性も考えられます。実際、韓国では2014年に規制が緩和され、保護者の同意のもとなら時間制限を解除して良いこととなりました。

中国のゲーム文化
初期の中国ゲーム文化を牽引していたのは、やはりファミコンなどの日本の家庭用ゲーム機でしょう(海賊版がほとんどでしたが)。各家庭でPCが買えるようになると、CDやDVDによる安価なコピーゲームの存在も手伝って、PCゲームが主流となっていきます。

海賊版によってゲーム人口は増えていきましたが、「成功するかどうか分からないゲームを一から作るより、コピーした方が早いし儲かる」という判断から、国内のゲーム産業が育たない状況になってしまいます。これは中国だけでなく韓国や台湾など、日本以外のアジア圏全体がこのような様相でした。

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その救いの女神がオンラインゲームです。初期のころはネットカフェでMMOをプレイする人が多かったのですが、スマホの普及とともにPCゲーム離れが加速。今ではモバイルゲームが主流を占めています。現在PCゲームを遊ぶのはガチゲーマーが多く、e-Sportsが強いのもこの辺りが影響しているのではないかと思われます(あとは、人生を変えられるほどの賞金が手に入ることでしょうか)。

また家庭用ゲーム機は価格が高いこともあって衰退しており、シェアは全体の数%程度とも言われています。2015年に家庭用ゲーム機が全面解禁されたときも大きな反応はありませんでした(そもそも解禁される前でも普通に入手できたので。同様にSteam Chinaが発表されたときも、すでに入手できるものがあとから来ただけなので反応は薄かったです)。

PCのシングルプレイのゲームについてですが、Steamでゲームが安く買えること、アップデートがあること、ゲームリストを増やしていくのが楽しいことなどから、正規版を買うユーザーが多くなっています。またこれらの動きから中国でインディーゲーム開発者が増えており、テンセントなど大企業も社内でインディー会社を立ち上げています(詳しくは「中華ゲーム見聞録」第16回目の記事を参照)。

今回の規制による影響
日本では法律は簡単に決められないものであり、また一度決めた法律というのは簡単に変えることができません。しかし中国では法律は頻繁に変わるものという認識なので、今回規制があったからといって、それが未来永劫続くと思っている人はあまりいないでしょう。そのため、ユーザー側の反応は薄いです。

そもそも中国の学生は勉強や宿題が多いですし、高校に入ると高考(全国大学入試統一試験)も控えています。1日90分、休日3時間は(保護者の許容できる)現実的なプレイ時間かと思われます。ゲーム以外の娯楽や創作活動を見つける機会にもなりますし、保護者としては合法的に子どものゲーム時間を管理できるので喜ばしいことかもしれません。

ただ、規制によってゲーム産業が衰退してしまった韓国の例があるため、ゲーム業界側にとっては死活問題になります。課金上限は収益減に直結するでしょう。中国政府としては慎重に動向を見極め、必要があれば修正案を出していく形になるかと思われます(税収が減るような規制は、政府としてもおいしいものではありませんので)。

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また規制の実効性についてですが、「どうしても長時間ゲームがしたい」というゲーマーに対しては意味を成さないでしょう。親にアカウントを作らせればいいだけですので(実際、未成年で課金している子は、親の作ったアカウントを使っていることが多い)。

オンラインが駄目ならオフラインゲームを遊べばいいだけですし、「ゲーム依存症から未成年を守る」という意味での効果には疑問符が付きます。結局のところ、「保護者の同意の元でゲームをする」というこれまで通りのスタイルになるかと思います。

これからの中国在住ゲーマーはどうなっていくのか
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未成年のゲーム問題は、国や政府の対応というよりも各家庭の教育問題に行き着くかと思われます。前述したように規制の抜け穴もあるので、「子どもをe-Sportsのプロにしたい」という保護者は自分のアカウントでプレイさせるかもしれません。「上に政策あれば、下に対策あり」が中国のやり方ですので、最終的には各家庭でどうするかにかかってくるかと思います。

日本の内閣府の「青少年のインターネット利用環境に関する実態」によれば、韓国での未成年への規制による効果は「現実性に欠け、産業全体を滅ぼすほどに過度なものである」との見方もあるとされています。中国政府も今後の動向を見守りつつ、法律もその都度変更されていくことでしょう。中国の場合、「とりあえずやってみて、あとから修正」が基本ですので。

e-Sportsが教育現場に入ってきて、職業として一般的になれば、世論も変わってくるかもしれません。そうなると国を挙げての積極的な支援政策が出てくる可能性もあります。今後の中国ゲーム業界を注意深く見守っていきたいと思います。そして、この規制は案外すぐ修正されるかもしれません。この動きの速さが強みでもあり、恐ろしいところでもあるのですが。


■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国ものを書いている作家。台湾在住。母は台湾人。人生の理念は「知られていない面白いもの」を発掘・提供すること。歴史・シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、ブログ「マイナーな戦略ゲーム研究所」を運営中。著書に「三国志」「封神演義」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。Twitterはこちら。

Game*Spark 渡辺仙州

最終更新:11/11(月) 12:30
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