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「家事を楽しんでいると思っていた」大嫌いな主婦業を卒業した日〈家庭内別居・2〉

2019/11/12(火) 12:45配信

婦人公論.jp

今さら離婚はできない。かといって四六時中一緒の生活は窮屈すぎる。悪戦苦闘の末、快適な距離を見いだした夫婦の暮らしとは。郁代さん(仮名)は夫の定年で、生活が一変してしまいーー(取材・文=上田恵子)

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◆能天気な一言で、ウップンが爆発!

夫の定年退職を機に、長年の不満が爆発してしまった郁代さん(58歳)のようなケースもある。

「実は私、もともと家事が大嫌いなんです。特に料理。でも結婚するとき、教師の仕事を辞めて家庭に入ることが姑からの条件でした。東京郊外にある旧家だったので、広い自宅の掃除をするだけでも重労働。結婚生活は毎日が修業みたいでしたね」

広告関係の仕事をしていた夫は、毎晩のように飲み歩いて午前様。土日もゴルフだ釣りだと家を空けることが多く、息子2人の子育てはもちろん、10年にもおよぶ姑の在宅介護にも、一切手を貸してくれることはなかったという。

「その後、息子たちも無事に就職し、家を出てくれて。やっと自由な時間ができたから、以前から興味のあったカルチャースクールに通ったり、友達とランチをしたりして、自由を満喫していたのです」

ところが、3年前に夫が定年を迎えた途端、状況は一変。健康ブームに乗った夫が、「朝は有機野菜を使ったジュースを作れ」「肉は○○産を使え」など、食事の内容について細かく指示し始めたのだ。

「現役時代はさんざん好き勝手していたくせして、何が有機野菜ですか。しかも『野菜は買うと高いから、家庭菜園でも始めたらどうだ。いい暇つぶしになるだろう?』ですって。その能天気な一言で、たまりにたまったウップンが爆発しました」

妻が夫の存在をストレスに感じる度合いは、定年後、半年から1年のあたりでもっとも高くなるというデータがあるが、良子さんも郁代さんも、まさにこのパターンに当てはまっている。

◆マンションへ移るも部屋は別々

怒りに震えた郁代さんは、「料理は大嫌いなのでもう作りません。家事もしたくないので、主婦業を引退して家を出ます」と宣言した。

「夫からは『お前は家事を楽しんでいると思っていた』と言われました。冗談じゃないですよ。結婚以来、そんなふうに思ったことは一度もないというのに。心底あきれました」

とにかく家を出たいと主張する郁代さんと、考え直してほしいと懇願する夫。2人の意見は平行線のまま時間が過ぎた。

「そんなある日、夫が『夫婦で中高齢者専用分譲マンションに移るのはどうだろう?』と提案してきて。なんでも職場の先輩で、奥様の家事疲れを理由に入居した方がいらしたそうなんです。そこなら食事の支度が不要になるだけでなく、看護・介護サービスもあるからこの先何かあっても息子たちの世話にならずに済む。魅力的な話だと思いました。

息子たちは当初、急すぎると反対していましたが、『その代わり、お父さんとお母さんの老後は心配しなくていいよ』と説得しました」

郁代さん夫婦は、早速ネットで情報を収集。何ヵ所か見学をした後、千葉県にある、温泉付きの施設への入居を決めた。

「入居金は、夫の退職金と自宅を売却したお金で。部屋は夫婦別々、約25平米のワンルームです。私は別のフロアでもよかったくらいなのに、夫が不安がるのでお隣どうしにしました。食事は3食とも1階にあるレストランで食べますが、特に時間は決めていません。偶然会うと『あら、おはよう』なんて(笑)」

公共のラウンジでは、ミニコンサートや映画上映会、アロマテラピー教室など、さまざまなイベントが毎日のように行われている。郁代さんは、それらのほとんどに参加しているそうだ。

「夫は現在、元の勤務先から嘱託として仕事を請け負っています。やっぱり働くのは楽しいらしいですよ。私もストレスがなくなったせいか、夫に優しくできるようになりました。思い切った決断でしたが、結果的に大成功だったと思います」

郁代さんの夫のように、「女性は好きで家事をしている」と思っている男性は少なくない。もちろん楽しんでいる人もいるかもしれないが、皆が皆そうではないはず。「察してください」ではなく、自分が何を不満に思っているか、言葉にして伝えるのも大切なのではないだろうか。

上田恵子

最終更新:2019/11/12(火) 13:21
婦人公論.jp

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