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金利は「永遠のゼロ」と言いたいところだが・・・

11/13(水) 13:30配信

ニュースソクラ

【門間前日銀理事の経済診断】低金利の政策思想はいずれ変わる時がくる

 先進国の低金利はいつまで続くのだろうか。筆者はこれまで本コラムにおいて、低金利が長期化することの問題点について、折にふれて述べてきた。低金利が長期化すれば、金融面の不均衡などにより、経済に様々なゆがみが蓄積しやすくなる。それどころか、金融機関や家計への影響を通じて、経済成長を低下させる逆効果のリスクすらある。

 こうしたリスクの存在にもかかわらず、異常な低金利政策はなぜ続けられているのであろうか。それは、経済成長には2%程度のインフレが望ましく、かつそれは金融政策で実現できる、したがって実現すべきだ、という政策思想の存在による。今や世界の中央銀行にとって、2%インフレはある種の「正義」と化している。「正義」のための戦いだと信じられているから、ある程度の危険や犠牲は正当化されてしまうのである。

 しかし、数十年単位の時間軸でみれば、マクロ経済思想はこれまでも大きく変化してきた。その時々の思想から生じる弊害がある臨界点を超えたとき、「正義」は非連続的に入れ替わる。

 1930年代の大不況を経験した後、ケインズ理論をベースに財政政策の役割が重視されるようになった。しかし、経済の効率性が損なわれインフレが高まるという弊害を看過しえなくなると、1980年代以降は金融政策を重視する思想へと大きな転換が起こる。そうした流れの中で、物価目標政策が新たな常識となっていく。

 物価目標政策は、1980年代末のニュージーランドを皮切りに、理論武装の強化を伴いながら90年代以降広まった。ただし、その間の成功事例が、高いインフレを下げる方向のものだけであったという重要な点については、なぜかその後、十分な注意が向けられなくなっていく。

 低いインフレを上げる方向での物価目標政策が十分機能しないことは、最初から自明であったように筆者には思えるが、多くの人がその可能性を語り始めたのはごく最近のことである。国債の大量購入にもマイナス金利にも物価を押し上げる力はほとんどない、という事実が欧州や日本ではっきり確認されたため、人々の認識がようやく変わり始めているのである。

 しかし、ここからさらに「2%目標はやめるべき」というところまでは、学者や中央銀行の議論が一気には進まないだろう。現時点では、異常な低金利について様々なリスクは語られていても、それらのリスクが明確に顕在化しているわけではないからだ。

 加えて、現在の世界経済は、製造業が減速しているとは言え基本的に良好である。失業率は、米国では50年ぶり、日本では27年ぶりの低水準圏にある。9月にマイナス金利の深掘りに動いたユーロ圏でさえ、失業率は金融危機後の最低水準まで低下している。経済が概ね順調な時に、政策思想の大転換は起こらない。現在の金融緩和についても、物価目標こそ達成できていないが、実体経済には良いサポートになっている、という肯定的な評価が一般的だ。

 しかし、必ずやこの先、異常な低金利を長期に続けたことに対する反省の機運が、高まりを見せる時が来るだろう。具体的にいつどういう形でそうなるのかは、予測が難しい。

 国際通貨基金(IMF)をはじめ多くの有識者が懸念しているように、長期化する低金利環境により質の悪い企業債務が膨張し、再び金融危機が起こるのかもしれない。あるいは、平時に金融緩和の余地を確保しておくことの重要性が、実際に景気後退に直面してみて痛感されるのかもしれない。

 金融緩和と物価との関係についての認識も、大きく変わるだろう。日銀もECBも、強力な金融緩和を2~3年も続ければインフレは上がる、という誤った判断を何年も繰り返している。物価見通しの下方修正は今や年中行事となり、誰も気にさえしなくなった。

 しかし、物価見通しを10年も下方修正し続ければ、今世界で起きている低インフレが金融政策とはほぼ無縁のものであるということに、さすがに多くの人が気づくのではないか。

 政策思想の転換をベースに、超低金利が秩序ある形で修正されていくことを望みたいところだが、そもそも経済構造が変質し金利を引き上げざるを得なくなる可能性もある。今の低インフレの原因が正確には突き止められていない以上、何十年かのタイムスパンでみれば、よくわからない理由で世界が再びインフレ体質に変わってしまう可能性も否定できないからだ。

 故堺屋太一氏が20年近く前に書いた小説「平成三十年」は、消費税率が20%へ引き上げられるという報道を巡る場面から始まる。円相場は230円、ガソリンはリッター1000円、インフレは6%、10年金利は9%である。20年先の未来を予測する時には、この程度の誤差は驚くに値しない、と思っておいた方がよいのかもしれない。

 近年の世界的低インフレや、そのもとで超緩和をやめない中央銀行の姿勢を見れば、金利は「永遠のゼロ」だというのが合理的な予測のように思える。しかし、現時点ではテールリスクとしか思えないような事態が、数十年後の金利や金融政策に起こっている可能性の方が、むしろ高いのかもしれない。50年債などウルトラ・ロングの投資には、そういう想像力を働かせることも必要なのだと思う。

■門間 一夫(みずほ総合研究所 エグゼクティブエコノミスト)
1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。

最終更新:11/13(水) 13:30
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