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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第14回】改めて知る高地セットアップの難しさ。連戦を経てようやくマシン不調の原因が明らかに

11/14(木) 11:47配信

オートスポーツweb

 今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと小松礼雄チーフレースエンジニア。アメリカ大陸における連戦の初戦、第18戦メキシコGPは厳しいレースが続くハースにとって鬼門となった。その一方で、第19戦アメリカGPではこの数レースで続けてきたテストが功を奏し、ようやくマシン不調の原因がわかったという。現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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2019年F1第18戦メキシコGP
#8 ロマン・グロージャン 予選18番手/決勝17位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝15位

 メキシコGPは苦戦を覚悟していましたが、まるでこの2週間の連戦が3週間のように感じられるくらい大変でした……。ウチは毎年メキシコGPでは同じ問題を抱えてしまうのですが、標高が高く空気密度が薄いメキシコシティーでは、昨年のように競争力のあるクルマであったとしてもダウンフォースが絶対的に不足してしまうんです。

 それに加えて高地では冷却もあまりうまくいかず、そのため開口部が大きく開いたボディワークを使用せざるを得ないので、それによってダウンフォースはさらに削られてしまいます。ですからメキシコでは最もダウンフォースの効くモナコGP仕様のリヤウイングを持って行っても、実際には低ダウンフォース仕様で走るイタリアGPと同じくらいのダウンフォースしか発生させられないんです。

 標高が高いことで空気密度が薄くなると、ブレーキの冷却にも影響を及ぼします。ダウンフォースがイマイチ足りなくてタイヤに熱が入りにくい場合は、基本的に攻めの走りをしてできるだけタイヤに負荷をかけて熱を入れないといけません。

 しかし冷却不足でブレーキ温度が高くなりすぎると、クルマがきちんと止まらなくなりますし、ブレーキディスクもどんどん摩耗して最悪の場合はレースを完走できなくなります。これを避けるためには、ブレーキングポイント手前の直線の最後でスロットルを緩めて、ブレーキにかかる負荷を緩めて温度を下げてやらなければいけません。しかしこうすることで、今度はタイヤの温度までどんどん落ちてくるという悪循環に陥ります。

 ウチはいまだにそういう状況で走る場合の弱点を潰し切れていないので、メキシコGPはきつい戦いになると事前からわかっていました。残念ながら、予選Q1で敗退というのも想定内でした。決勝レースでも状況は同じで、ウチのクルマは基本的な競争力不足だったので厳しいレースでした。

 F1のカレンダーには、抵抗を無視してとにかくダウンフォースをつけなければいけないモナコGPやハンガリーGP、逆に空気抵抗をなるべく削らなければいけないイタリアGP、シーズンのなかで最も標高が高く空気密度の薄いサーキットで開催されるメキシコGPなど、通常のレースとは特性の異なるレースがいくつかあります。そういう特殊なレースにどれくらいの人・時間・資金を割くのかというのもチームの戦略的判断になります。

 ちなみに、第17戦日本GPに続いてメキシコGPでもテスト用の空力パーツを投入する予定だったのですが、これはアメリカGPに延期しました。というのもメキシコの空気の薄さにより、クルマのあらゆるところに埋め込まれている空気圧を計測するセンサーがうまく機能しないのです。

 こうなるとコーナリング中のデータが不足し、新しいパーツの評価をしっかりとすることができないので、下手をすれば間違った判断を下すことになります。よってより正確に結果を検証できるアメリカGPに先延ばしする判断を下しました。

 また、あまり良いデータが採れないなかで不確定要素をなるべく減らすため、メキシコでは2台ともに同じクルマの仕様で走りました。このようにしてなんとかドライバーが力を発揮できる状況で走らせたのですが、やはり絶対的なグリップ不足に悩まされ、できることはとても限られていました。

■アメリカGPではわずか4周でピットストップ1回分のロスタイム。ポジション入れ替えが大きなカギに

第19戦アメリカGP
#8 ロマン・グロージャン 予選15番手/決勝15位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選12番手/決勝18位

 アメリカGPの舞台となるサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)ですが、元々安定した土地に建てられていないので、毎年コース上の至るところが沈みます。今年は開催初年度に比べてコースの一部が1.5mも低くなっていたそうです。

 みんな路面の“バンプ”と言っていますが、もう“うねり”と表現した方がよいぐらい状況は酷かったですね。ドライバー達もみな、走り出してすぐに文句を言っていました。来年まともに走るためには相当な路面工事が必要になると思います。

 また今年は寒さの影響もありました。FP1はまるで冬のプレシーズンテストのような低い気温でしたが、あの状況で走ってもクルマ的には悪くなかったです。実はそれ自体も問題だとは思うのですが……ウチは寒ければ寒いほどクルマがいいんですよね。

 ピレリタイヤは表面がオーバーヒートすると使い物にならなくなりますが、フリー走行1回目(FP1)の状況(セッション開始時は気温9度、路面温度16度)だとそういうことも起きませんでした。ロマンはクルマの感触が良いと言っていましたが、やはりこの状況で最もまともに走れてしまうというのも問題です。

 ケビンもFP1ではクルマの感触が良かったと言っていました。ロマンの方が速かったのですが、そういう時でもケビンは予選までには自分もその速さを発揮できるようになると確固たる自信を持っているのが彼の長所です。

 フリー走行2回目では2周目にロマンがクラッシュし、ケビンはテスト用のパーツを投入した際にクルマのバランスを崩してしまい、ほとんどまともなデータが採れなかったのは反省点です。よってフリー走行3回目が実質的な2回目の走行で仕切り直しという感じでした。

 FP3ではケビンの方が最初から感触が良かった一方で、FP1との風向きの違いや路面温度の上昇もあって、ロマンはうまく走れていませんでした。この時点で予選でもロマンがケビンを上回ることは難しいだろうとの予想がついていました。

 その結果ケビンは12番手、ロマンは15番手でした。ケビンはなかなか良く走ってくれましたが、最終コーナーでアンダーステアを出してコンマ2秒ほどロスしたのが痛かったです。

 決勝レースは、ミディアム-ハードと繋ぐ1ストップ作戦でいこうと考えていました。ケビンはレース序盤にキミ・ライコネン(アルファロメオ)やダニール・クビアト(トロロッソ・ホンダ)に抜かれて以降ペースが上がらず、ロマンのすぐ前までずるずるとポジションを落としてしまいました。

 17周目にアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)がピットインしたので、これに対応するためケビンを翌18周目にピットに入れ、無事ジョビナッツィの前でコースに復帰することができました。

 これでロマンはケビンに詰まることなく走れるようになったので、どれくらいのペースで走れるのかを確認したかったのですが、ケビンと同じ18周目にカルロス・サインツJr.(マクラーレン)やライコネンもピットに入り、19周目にはピエール・ガスリー(トロロッソ・ホンダ)もピットインしたので、ロマンはピットアウトしてきた彼らとバトルをすることになりました。バトルによるタイムロスもあり、タイヤも結構摩耗していたので、パフォーマンスもガクッと落ちてしまいました。

 その後は後方から追い上げてきたアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)や2スティント目を走っていたランス・ストロール(レーシングポイント)ともバトルをしたこともあって、この4周くらいの間にピットストップ1回分くらいのタイムロスをしてしまいました。最終的にロマンは24周目にハードタイヤへ交換し、そこから最後までは上手くタイヤのマネージメントをして最後まで走り切りました。

 反省点としては、レース序盤にケビンのペースが上がらなかった時点で、ロマンとポジションを入れ替えるべきでした。チームオーダーのことも考えて、ケビンにはペースを上げるように言ったのですが、全然ペースが上がらずにロマンが10秒以上も詰まってしまったので……。もしこの早い段階でドライバーを入れ替えていれば、24周までロマンのピットストップを遅らせてもアウトラップのクルマとのバトルであれほどのロスにはならなかったはずです。それでもポイント獲得には至らなかったと思いますが、12位辺りでレースを終えられていたと思います。

■ハースF1と小松エンジニアがギリギリのタイミングでつかんだマシン不調の原因

 さて上述の通り、アメリカGPで新しいパーツを投入しました。今年のクルマを早くするためというよりも、今までクルマのどの部分が悪さをしていたのかを見つけるためのテストですので、アメリカで投入した新しいパーツによってクルマが速くなったかというと残念ながらそのようなことはありません。

 しかしアメリカGPを終えて、今までクルマのどこの部分がどうして性能を発揮できていなかったのかというのが正確にわかってきましたが、ウチのような小さいチームではその発見に時間がかかってしまいました。

 大きいチームとは人数の差もありますが、データ処理の仕方やソフトウェア、センサーなどの道具も違うのでなかなか激しい競争のなかで迅速に対応することができていません。これは大きな課題で一朝一夕に完全に解決できることではありませんが、より効率的に速さを追及できるように、今は組織改革を進めているところです。

 もうすでに風洞では2020年型のクルマをテストしていますし、そろそろクルマの初期仕様を決めなければいけません。シンガポールGPから始めた数々のテスト結果はどんどん来年のクルマに反映されているので、開発の方向としてはあっていると思っています。あとは本当に効率ですね。開発を急ピッチで進めながらも今年のバルセロナでのアップデートと同じ過ちを犯さないために、解析の精度やタイミングなど様々な面を改善していっています。

 ハース4年目で今年は断トツに一番厳しいシーズンになりました。とても厳しいことはわかっていますが、あくまでも目標は選手権を7ポイント差で追っているアルファロメオを逆転することです。来年に向けてのテストをしながらも、残り2戦、最後まで決して諦めずポイント獲得を狙っていきます。

[オートスポーツweb ]

最終更新:11/14(木) 11:48
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