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「ああ 菊兵団 -フーコン作戦-」を読み解く ビルマ戦記を追う

11/17(日) 12:04配信

西日本新聞

ビルマ戦記を追う<10>

 兵隊や軍医、捕虜、外国人といった、さまざまな人が書き残したビルマでの戦記50冊を、福岡県久留米市在住の作家・古処誠二さんが独自の視点で紹介します。

【写真】直木賞にも3度ノミネート 古処誠二さん

    ◆   ◆
 著者は久留米第十八師団で参謀を務めた牛山才太郎氏である。タイトル通り、フーコン谷地における戦いが回想されている。参謀という立場上おのずと視点が高く、戦史叢書(そうしょ)からの引用も随所に見られる。フーコン作戦を俯瞰(ふかん)するのに具合がいい。

 本書で特に注目すべきは兵站(へいたん)線に関する回想だろう。牛山氏はこの時期、後方参謀だった。中部マンダレーから北部フーコン谷地までを繋(つな)ぐ兵站線と、兵站線上に配置された様々な部隊が記されている。「野戦病院」はともかく「兵器勤務隊」「病馬廠(しょう)」「防疫給水部」といった存在は一般にはほとんど知られていない。軍隊を指してよく使われる「自己完結組織」との表現により理解が深まる。

 一方、戦闘においては極めて珍しい戦法の記述がある。個人的にはまだ真偽不明としているのだが、他書では見られない戦法なのでこの場で紹介しておきたい。

 銃弾は音速を超える。ゆえに衝撃波音を発する。戦法はこれを利用したもので、名を「偽制圧突撃戦法」という。突撃に際して行われる機関銃の支援射撃には限界があり、最終段階では不可能になる。むろん友軍に当たってしまうからである。そこであえて敵陣上の空中に向けて射撃し、衝撃波音で敵兵の頭を下げさせるとの説明がなされている。

 自衛隊にお勤めの方はピンとくるだろう。射撃訓練では的の下に位置して命中箇所の表示などを行う監的勤務がある。あれは塹壕(ざんごう)に籠(こ)もって敵火を凌(しの)いでいる形に近い。射手から二百メートルも三百メートルも離れているにもかかわらず監的勤務者に届く「銃声」は恐ろしく大きい。それこそ射手が頭の真上にいるような錯覚すら抱く。あの大きな「銃声」が衝撃波音である。

 興味深い戦法であるし、真偽不明とするのは牛山氏に失礼でもあるが、やはり複数の証言が欲しい。偽制圧射撃の支援を受けた歩兵の回想記があれば言うことはない。
 (こどころ・せいじ、作家)

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古処誠二(こどころ・せいじ) 1970年生まれ。高校卒業後、自衛隊勤務などを経て、2000年に「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞しデビュー。2千冊もの戦記を読み込み、戦後生まれながら個人の視点を重視したリアルな戦争を描く。インパール作戦前のビルマを舞台にした「いくさの底」で毎日出版文化賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。直木賞にも3度ノミネートされている。

西日本新聞

最終更新:11/17(日) 12:04
西日本新聞

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