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今のままでは機能しない? ダイナミックプライシングの日本で誤解されがちな運用とは

11/20(水) 19:10配信

REAL SPORTS

観戦チケットに対する需要を予測してリアルタイムで値付けを行う、ダイナミックプライシング。アメリカで一般的になっているこの手法は、すでに日本でもいくつかのチームで導入が始まっている。だが、アメリカに拠点を置きスポーツマーケティングの分野に特化したコンサルティングを展開する鈴木友也氏は、「そのまま日本で真似して導入しても機能しない」と言う。アメリカのチケット市場と比較しながら日本のチケット市場のあるべき姿を解説していただいた。

セールスとマーケティングを混同する日本

近年、米国ではチケット再販市場が非常に大きくなっており、今や一次市場の50%以上の大きさに達している。一般的に、スポーツ観戦チケットの価格設定はシーズン開始前に行われるが、半年以上も先の試合が消化試合になるのか、優勝を決める試合になるのか、あるいは何か大きな記録がかかっているのか、天気はどうなっているのか、誰にも予想できない。

再販市場にチケットが流れるのは、チケット価格設定時にその試合が持つ「本当の価値」が分からないため、どうしても需給ギャップが生じてしまうためだ。また、シーズンチケットを重視する以上、一定数が再販市場に流れてしまうのは避けられない。しかし、それを野放しにするのは、流血している傷口を塞がずにいるようなものだ。

そのため、再販市場の内製化と並行して、チケット価格設定における需給ギャップという本質的な問題点の解決のために考えられたアプローチがバリアブルプライシング(Variable Pricing)であり、その究極の形としてのダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)の導入だ。

バリアブルプライシングは対戦相手や曜日などにより事前に対戦カードを3~5種類程度に分類しておき(例:プラチナ、ゴールド、シルバー、バリューなど)、それに応じた異なる価格体系を用意しておく手法だ。日本ではフレックスプライシングなどとも呼ばれる。そして、統計学を駆使してアルゴリズム(計算モデル)を構築し、観戦チケットに対する需要を高確率で予測して「時価」でリアルタイムに値付けを行うダイナミックプライシングが米国に登場したのが2009年のことだ。

こうした手法は時を経て日本にも伝えられてきたが、見落とされがちなのは、これらが全て「シーズンチケット重視型」のチケット販売モデルを守るために考案されてきた点だ。再販制度やダイナミックプライシングは、シーズンチケット保有者のベネフィットを守り、あるいは利便性を高めることにより離脱を防ぐというのが根本的な思想であり目的である。この点の理解なく制度だけ真似して導入しても、“木を見て森を見ず”の状況に陥ることになりかねない。

例えば、日本で誤解されがちなのはダイナミックプライシングの運用だ。日本では、ダイナミックプライシングは株価と同じように需給バランスに応じてチケット価格も変動すると伝えられているケースもあるようだが、米国ではダイナミックプライシングでチケット価格は下げずに少しずつ上げていくのが基本だ。なぜなら、チケット価格が下がれば最重要顧客であり最大の割引を享受しているシーズン席保有者の利益を棄損する恐れがある上、長期的にチケットの買い控えが起こるリスクがあるためだ。価格が下がるかもしれないものを、賢い消費者はすぐには買わない。

ダイナミックプライシング導入における最大のメッセージは「チームはシーズン席保有者を最重要顧客として尊重します」「チケットを早く買ってくれた方が得をします」というものだ。しかし、シーズン席比率が少ない日本では、このメッセージは響きにくい。また、ファン基盤を拡大したいチームのニーズもあり、ダイナミックプライシングが新規顧客獲得ツールも兼ねるかのようにも伝えられている節もある。米国のチケット販売の常識から考えると、これは少し怖いことだ。

確かに、需給バランスに応じて価格を変え、不人気試合の価格を下げれば、一時的にはより多くのファンがチケットを購入し、収入は増えるかもしれない。しかし、長期的にはファンは値段が下がるのを待つようになり、チケット販売は落ちていくだろう。米国では、ダイナミックプライシングはあくまでも既存顧客の収益性を高めるセールスツールであり、新規顧客獲得には不向きだと理解されている。

米国のプロスポーツチームでは、セールス(既存顧客から売上を立てる活動)とマーケティング(将来の顧客を創造する活動)は別物として明確に区別されており、部署も分かれている。前者はプロフィットセンターであり、後者はコストセンターである。日本のスポーツ界では、まだセールスとマーケティングの区別があいまいなケースが少なくない。ダイナミックプライシング導入をめぐる誤解もそのような組織上の違いから生まれたという背景があるのかもしれない。

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最終更新:11/20(水) 19:10
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