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「プログラミング教育、強制ダメ」まつもとゆきひろさん

11/22(金) 9:00配信

アスキー

注目が集まるプログラミング教育。プログラミング言語「Ruby」作者まつもとゆきひろさんは「プログラミングは楽しむべきものであって、強制されるようなことがあれば本末転倒ではないか」と語ります。

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まつもとゆきひろさん 記者撮影
 
 注目が集まる子どものプログラミング教育。専門家はどうあるべきだと考えているのでしょう。プログラミング言語「Ruby(ルビー)」作者のまつもとゆきひろさんは、プログラミングはあくまで楽しむものであり、強制されるようなことがあれば本末転倒ではないかと話します。
 
●マシになったプログラミング教育
── まつもとさんは6年前、小中学校でのプログラミング教育について問題点を指摘されていましたね。
 
 成績がつくプログラミング教育にはいまだに否定的です。まずプログラミングの楽しさを知らない人が教えるのは難しいし、すべての学校にプログラミングの楽しさを知っている人を用意するのは難しいんじゃないかと。もうひとつ、プログラミングは特に若いうちは差が出やすくて、小学生でもアプリを作って表彰される人もいれば、「コンピューターって何? つまんないんだけど」という人もいる。それで1から5までの成績をつけますかと。そういう意味で否定的でしたね。
 
── 来年度から小学校でプログラミング教育が必修化します。6年前と比べて内容はよくなったと感じますか。
 
 来年度からの新指導要領では、プログラミングそのものではなく「プログラミングに絡めた表現(プログラミング的思考)をしましょう」ということになりましたよね。授業の中にアルゴリズムを表現するとか、データを集計するようなことを入れていくと。そこに「プログラミング体験のカリキュラムを入れてもいいよ」ということになったので、最悪なことにはなってないんじゃないかなと思います。
 
── マシになったわけですか。
 
 入り口としてはいいんじゃないかと。先生はどこかのメーカーが作ったパック教材を使ってワケもわからず教えると思うので、最大限の教育効果があるかといわれたらだいぶ疑問ではありますが、少なくとも体験はできる。そこが入り口になってプログラミングを始める子はいると思うんですね。ほっておいても家にコンピューターがあってプログラミングをやる子はいると思うんですが、そうではないけど適性があるという子はいると思うんです。プログラミング体験は成績もつかないので、「プログラミング大嫌い」というアレルギー反応をおこす子どもを作らない形でおさまりそうな気がしていて。現在の日本の教育状態において、最初の一歩としては十分なんじゃないかな、という気がしています。
 
●学校はコミュニティに声かけて
── 以前にプログラミング教育関連の記事を書いたとき、現役エンジニアの方から「何か役に立ちたいんだけど」というコメントがありました。Rubyはユーザーコミュニティなどを通じて公教育にかかわっていることはありますか。
 
 (NPO法人)Rubyプログラミング少年団が用意した教材を、中学校が採用したりということはありました。そういうジョイントができたらいいんじゃないかと思います。昨今のプログラミング教育に関して言うと、先生が自分だけでどこからか買ってきた教材を使うよりは、地元のエンジニアの人たちと協力関係を作ったほうがいいんじゃないかと思います。現時点でも法律の範囲内でできるはずなんだけど、コミュニティ側から乗り込んではいけないので、学校側から「誰かいませんか」と言ってもらえたほうがいいですね。
 
── コミュニティが教育行政側から見やすくなるとよさそうですね。
 
 プログラマーは、まあ地方は比較的少ないですがどこにでもいるので、組織化みたいなことはできると思うんです。ただ、組織化しただけでは十分ではなくて、学校や教育委員会との連携するところまで考えられると効果的になりそうですね。
 
── 全国で同じような展開ができるものでしょうか。
 
 子どもをもったプログラマーの方は全国どこでもそれなりにいると思うんです。Rubyプログラミング少年団のリードをしている人も、自分のお子さんが6~7歳になったことをきっかけに松江で少年団を作ったり、Smalruby(スモウルビー)というツールを作ったりしているので。とはいえ、すべての場所で自発的にというのはコストがかかりすぎるので、たとえば少年団のようなところの知識・経験・ツールを横展開していくのがいいんじゃないかと思います。
 
●プログラミングの「二極分化」
── 親として、プログラミングについて知っておいたほうがいいことはありますか。
 
 若い人を見ていると二極分化が進んでいる気がしますね。大学の同期に聞いた話だと、コンピューターサイエンス系の研究室に入ってくる学生のうち、プログラム経験者の割合が下がっているというんです。「コンピューターの経験はある」と言って入ってきても、「プレゼンテーションが作れます」とか「表集計ができます」とか、パソコンは使っていてもプログラミングではないことが増えていると。
 
── そうなんですか。深くコンピューターをいじってきたわけではないと。
 
 1980年代はコンピューターとプログラミングの距離がすごく近かったので、わたしたちと同世代の人たちが入ったときは「プログラミングしたいからコンピューターサイエンスに入ってくる」という人が圧倒的に多かったんですよね。だけど今は「プログラミングは興味ないけど、パソコン使うのは好きだから来ました」という第三勢力の割合がかなり増えてきている。そのぶん相対的にプログラミングに興味があるという人口はかなり減っているんじゃないかと。
 
── プログラミング人口そのものが減ってきている。
 
 そうなんです。でも、一方で、割合が減っている「プログラミングができる」という子たちの伸びはすごくてですね。ソフトウェアについての情報がすごく入手しやすくなっていて、オープンソースソフトウェアのコードも公開されている。いまならGitHubとかでコミュニティベースで開発が進んでいるところを目の当たりにできる。だから、できる子はものすごくできるようになってきた。たとえばU-22プログラミング・コンテストの審査員をしているんですが、最近レベルの上がり方がすごいんです。今年も中学3年生でプログラミング言語を作った子がいましたけど、ここ数年、かならず何人かプログラミング言語を作る子がいるんですよ。
 
── そんなに!
 
 今年は一次審査を通ったものが40点あったんですが、そのうちの3つがプログラミング言語だったんですよ。経済産業大臣賞をとったBlawn(ブラウン)は、本人がすごく若くて目立ったということと、ネイティブコンパイルするという点があったんですけど、残りの2つの言語がダメかというとそうでもないんですね。で去年も2つプログラミング言語の応募があったし、その前も応募があって。
 
── そんなに怪物がゴロゴロいるのですか……
 
 今年の応募は中学生、高校生、専門学校生で、去年の応募は2つとも高校生だったんです。2人とも「関数型言語の影響を受けました」と言っていて「まじかー」みたいな感じなんですよね。去年の子は「もともとロボットに興味があって片手間にプログラミング言語を作って応募したら通った」「まじかー」「今年は未踏にロボットで通った」「まじかー」……という感じで、ピークはすごく高いけど、全体の割合は減っている。山が急に高くなっている感じなんです※。
 
── 親にできることは教育よりも、子どもに過度な期待をかけすぎないことなんじゃないかと思えてきました。
 
 上原くん(Blawnを開発した上原直人さん)を見てしまうと「うちの子もプログラミング言語!」と思ったりするかもしれないですけどね。あれはだいぶ上澄みなので、みんながみんなこうではないですよ、という感じはありますね。
 
※未踏:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)による人材育成事業。
 
●楽しめる人が学べばいい
── まつもとさん自身、お子さんの教育はどうされていたんですか。
 
 子どもはいま一番下で15歳、一番上で27歳なんですが、次世代教育には成功してなくてですね……4人ともまったくプログラミングに関心がないんですよ。
 
── ええっ、意外な。
 
 パソコンは使うしYouTubeは見るんですけどね。プログラミングの勉強をしてみた子も中にはいるし、松江市でやっている中学生Rubyプログラミング教室みたいなものに連れていって、ゲームを作る課題をやったんですが、家に帰って続けるかというとやらなかった。ということで、わたしは子どもにプログラミングを教えることについて、何も語る資格がないんです。
 
── そ、そこまでは……それにしても残念ですね。
 
 プログラミングができたら楽しかっただろうなあ、とか、親子で問題を考えられたら面白かっただろうなあ、とは思いますけどね。とはいえわたし自身、子どものころにプログラミングに興味はあったけど、親からはむしろ「するな」「そんな時間があるならもうちょっと他にやることがあるんじゃない」と言われていたので、結局、自発的に学ばないと意味がないかな、とも思っていて。
 
── できる子は止められても勝手にやっちゃうわけだし。
 
 チャンスをあげるのはいいと思うんですよね。プログラミング教室があったら「行ってみない?」と誘うとか、家のコンピューターにプログラミング環境を整えたりするとか。そこまではやっても、そこから先は子どもが自分で選ぶべきかと。自発的に興味を持ったら情報を提供したり、ガイダンスをしたり、場合によっては教えようかとは思ってましたね。
 
── ピアノ教室じゃないですが、親が無理にやらせてもあまり意味がないと。
 
 プログラミングは、子どもたち自身に楽しいと思ってほしいんですよね。自分自身がそうだったので。そのために、強制的にするのはよくないと思うんです。プログラミングは楽しいものなんだけど、いろんな人と話した結果、100人が100人とも楽しいというものでもないということもわかったし。興味の方向だったり、資質だったり、性格だったりで、プログラミングが楽しいと思える人と、そうでない人がいる。だから楽しいと思えない人に対して強制的に何かをさせるというのは本末転倒じゃないか。逆に、楽しいと思ったらどんどんやればいいし、どんどん機会をあげていったらいいんじゃないかな、と思います。
 
文● 盛田 諒(Ryo Morita)

最終更新:11/22(金) 9:00
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