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『ポンヌフの恋人』フランス映画史上最大のセットと大ヒットが、レオス・カラックス監督にもたらしたものとは

2019/11/27(水) 17:29配信

CINEMORE

カラックスとエスコフィエ

 スタッフもキャストも、カラックスのために3年を空けておくことになり、肉体的、精神的、物理的にも多くのことを犠牲にしたが、結果的には、撮りたいように撮れる最高の撮影環境を手にいれた監督カラックスとスタッフの才気が爆発することになる。

 その恩恵を最も受けたのは、撮影監督のジャン=イブ・エスコフィエだ。カラックスと組んだ前2作の「静」や「死」のイメージに比べて、本作は「動」「生」であり、全編にわたって主役二人が激しい感情に突き動かされて大胆に動き回る。その動きを360度気にすることなくカメラに収めることができるのだ。通常のロケ撮影は、360度撮影が許される環境などほぼ実現しないが、このオープンセットではそれが可能だった。

 主役のドニ・ラヴァンはもともと大道芸人だった経歴を生かし、全編に渡ってその身体能力を十分に発揮し、言葉を失いかけているホームレス役を、躍動感溢れるパフォーマンスで強烈に演じきった。

 本来ドキュメンタリータッチを想定していたこともあり、思うがまま大胆に動くドニ・ラヴァンとジュリエット・ビノシュをカメラが追いかけていく。カメラワークは二人の感情表現そのままである。手ぶれ、激しいズーム、望遠レンズによる極端なボケ、長いドリーショット。かと思えば真上からの超フカンによって急に客観的になったりもする。それでも、いわゆる説明的なマスターショットにもならず、詩的イメージにあふれたシーンになるのが、エスコフィエらしいところであろう。

 もともと、カラックスはエスコフィエが撮る夜の画が好きで組み始めたという。エスコフィエ自身も夜の撮影が好きで、自分の好きな夜の空の色が再現できるという理由で、撮影用のフィルムは、世界的メジャーのコダックではなく日本のフジフィルムを使っていたというから驚きだ。ちなみに、本作には日本企業も数億円出資しており、大ヒットもした。カラックス組と日本は見えぬ縁で結ばれているらしい。

 こうして、監督とカメラマンのイメージを最高のカタチで実現し、完成した映画は、セットの人工感を一切感じさせない、生命力に満ちた力強い作品となった。また、自分勝手で激情型の主役二人の行動は決してわかりやすいものではなく、二人の恋愛を純愛と捉えるかどうか、感想には賛否両論あったのも確かだ。しかし、いずれにしても気鋭の監督とカメラマンが焼き付けたフィルムは、何かすごいものを見た、と納得させられるだけの熱を帯びていることも確かである。

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最終更新:1/6(月) 15:26
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