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『未来のアラブ人』として育てられた少年は、フランスで漫画家になった。

2019/12/1(日) 10:50配信

ハフポスト日本版

リアド少年は両親の都合で6歳までフランス、リビア、シリアと言葉も文化もまるで違う3カ国で過ごす。フランスの漫画家、リアド・サトゥフさんの自伝的作品。それが『未来のアラブ人』だ。

母はフランス人、父はシリア人。「未来のアラブ人」と父から言われて育てられたリアド少年の子ども時代は、果たしてバラ色かそれとも……。

フランス版に始まり、23カ国で200万部超のベストセラーとなった。すでに第4巻まで発行されており、花伝社が第1巻の日本語版を7月に発行。続刊の発行も決まっている。10月には著者のリアド・サトゥフさんが来日した。

水木しげると吾妻ひでおに影響を受けたという作風はコミカルかつ、リビア時代に近所に住んでいた子供を「変なにおいがした」と描写するなど容赦がない。

カダフィ政権時代のリビアでの食糧配給制度の貧しさや、ハーフィズ・アル=アサド政権時代のシリアにおけるユダヤ人との対立など、日本ではこれまで意識しなければ視界に入りにくかったことを、子ども目線で知ることができる。

実話を元に、自分を主人公にしたこの作品を通して読者に何を伝えたかったのか。11月中旬、リアドさんにメールインタビューした。

「キャラクターについて私自身で善悪をつけたくない」

ーー父方の祖母を「ものすごく汗くさかった」とか、登場するキャラクターは誰もが決して美しくなく、泥臭いですね。けれど愛情をこめて描いているのがわかります。相手をバカにせず、でもブラックな要素も描くさじ加減には、何かコツがあるのでしょうか?

この作品のキャラクターは、そこまで色々考えて描いている訳ではありません。私はキャラクターの異なる側面を描くのが好きなのです。人間は誰でも、大なり小なり闇の部分があるもので、そういうものを作品の中に取り入れたいと思っています。

それは、キャラクターやその周りで起こる出来事について、私自身で善悪をつけたくないということでもあります。読者を作品世界に招き入れたあとは、読者自身で考えて欲しいのです。

作品を評価し、喜びや幸せを感じたり、イヤな気分になったりするのは読者の自由だと考えています。世の中には味気のない、村祭りのアトラクションに似た物語が多い気がします。しっかりベルトを締めて、決して危ない目に遭うことはないアトラクション、たとえばマーベルの映画を観に行くとき、残酷なシーンが出てこないことは予め分かっています。

「この料理は辛いよ」と言われても、大多数の人に受け入れられるように大量生産された製品で、ほんのちょっと辛い味がする程度でがっかりすることが分かっていているような感じ、それでは何ら新しい体験をすることはできず、面白くありません。そういう類は私の好みではありません。

本でも映画でも、物語を体験するなら、突然サバンナやジャングルに放り込まれる感覚が欲しい。スリルを感じるのが好きだし、それが本物の感動を生むのだと思います。

その意味で、水木しげるの自叙伝(『ボクの一生はゲゲゲの楽園だ―マンガ水木しげる自叙伝』(講談社))は私にとって理想の作品です。先入観なしに描く手法がとてもいい。戦争や兵士の生活はありのままを描いています。その物語を体験し、最終的な判断をするのは、読者の手に委ねられている、強烈な作品です。読者に対する深い敬意を感じます。『未来のアラブ人』を描くとき、私は私なりにこの描き方を実践してみたつもりです。

ーーフランスから、独裁政権のリビアとシリアの2カ国を行き来することは、ストレスにはならなかったのですか?

実際、ストレスを感じていたと思います。子供は変化の少ない生活を望んでいます。その方が安心だし、子供というのは、同じような日々が過ぎ、成長するうち、だんだん身の回りのことを学んでいくものだと思います。あちこち移動している間は、常に異なる生活様式、行動形態に慣れなくてはいけません。

それも『未来のアラブ人』で描きたかったことです。この本に共感したという仏日ハーフの人たちと会う機会がありましたが、フランスと日本の間を行き来したり、日本生まれの日本人との違いに苦労した自分たちの経験が『未来のアラブ人』で描かれている、と言われました。

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最終更新:2019/12/2(月) 9:11
ハフポスト日本版

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