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自然災害時に活躍する偵察機に注目(6)早期警戒機と戦場監視機(2)

2019/12/2(月) 12:31配信

マイナビニュース

写真偵察機の場合、眼で見た……ではなくて、カメラのレンズを通ってフィルムに写った情報はすべて「お持ち帰り」となる。だから、その写真の中から有意な情報を拾い出す写真判読担当者は、実に大事な仕事である。

【写真】こちらは、スウェーデンのリンシェーピンにあるスウェーデン空軍博物館で展示している、防空システム用のレーダー・コンソール 撮影:井上孝司

コンピュータ処理で余計な情報を消す

その辺の事情は、早期警戒機や戦場監視機でもあまり違わない。特に何も細工をしなければ、レーダーが捕捉した情報がすべて、そのままスコープに映る。スコープに映るのが飛行機だけならともかく、その他の雑多なレーダー電波反射源も、何も処理をしなければ、みんな画面に出てしまう。

オペレーターは、その中から有意な情報を拾い出して、迅速に友軍に伝達しなければならない。昔のEC-121ウォーニングスター早期警戒機では、スコープの表示を形容して「敵機がごまんといる」「画像の判断には神秘の力が必要」なんていわれ方をしていた。

では、コンピュータにデータを取り込んで処理すると、どうなるか?

例えば、早期警戒機のターゲットは航空機だ。すると、動かない探知目標、あるいは極端に低い速度で移動する探知目標は「飛行機ではない」と判断できる。そこで、低速の探知目標、動かない探知目標をコンピュータ処理で消して、スコープに出さないようにできる。

目標が動いているかどうか、動いている場合の速度はいかほどか。これは、受信した反射波と送信波を比較して、ドップラー・シフトの度合を調べれば分かる。

その辺の事情は、地上を走る車両を対象とする戦場監視機でも同様である。搭載するレーダーを、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)として作動させた場合は、単に地表の凸凹(それには地上にいる車両や建物なども含む)がレーダー映像として得られるだけだ。

ところが、GMTI(Ground Moving Target Indication)モードを使うと、動いているものを拾い出すことができる。建物や森林や山は動かないから、動いている車両だけを拾い出すことが可能だ。

ただし、車両が動いていなければ移動目標にはカウントされないと思われる。そこで誤認識を避けるには、長時間にわたって継続的にデータをとって、「まったく動かないもの」と「動くもの」を選り分ける必要があるだろう。これはハードウェアの問題ではなく、データ処理を司るソフトウェアの問題である。

このように、データをデジタル化してコンピュータに取り組み、なにがしかの選別処理を行うことで、スコープの表示をスッキリさせて、余計な情報に惑わされず、重要な情報を迅速に見つけ出せるようになる。

必要な情報を消してしまう懸念も

問題は、この「余計な情報を消す」ロジックに、消しては困る重要な情報が引っかかってしまった場合。

例えば近年、小型で低速の無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)が増えてきている。これらの多くは、低空を低速で飛行する。すると、「一定以下の速度で移動している空中目標を消す」処理に引っかかってしまい、実際にはそれが存在するのに、スコープに現れない可能性が懸念される。

以前にどこかで書いたような気がするが、そもそも小型で低速のUAVは対空捜索レーダーによる探知が難しい。小さいからレーダー反射の絶対量が少ない上に、速度が遅いとドップラー・シフトが少なくなるので静止物との区別が難しくなるからだ。

それを乗り越えて、せっかく探知できたとしても、それをフィルター処理によって消してしまったのでは、せっかくの苦労が水の泡。かといって、単純にフィルター処理で設定する速度の閾値を低くするだけでは、またぞろ余計な探知目標がスコープに現れて、混乱の元を作るかもしれない。

すると、単純に速度で区別するのではなく、速度、サイズ(反射波の強弱)、移動パターン、地形や建物といった固定背景物との相関、といった具合に多様なデータを活用して、本物のUAVを取りこぼさないようにする工夫が要ると思われる。

これは正にソフトウェア処理の問題、ロジックとパラメータの問題である。探知可能距離とか分解能とかいった、レーダーのハードウェアだけでなんとかできる問題ではない。

敵味方の識別と表示

あと、データ処理といえば、敵味方識別という課題もある。これは早期警戒機や戦場監視機だけでなく、一般的な対空捜索レーダーや洋上捜索レーダー全般に言える話。なにしろ、レーダー・スコープに映るのは反射波の受信によって存在を把握した「点」に過ぎず、それが何物なのかまでは分からない。

そこで、通常は敵味方識別装置(IFF : Identification Friend or Foe)で個々の探知目標を誰何して、正しい応答が返ってきたら味方とみなすようにしている。その情報は、探知目標ごとにスコープに表示すれば良い。

もっとわかりやすくするのであれば、敵と味方と正体不明とで、スコープに表示するシンボルの形を変えるとわかりやすい。さらに徹底して、航空機と艦艇でシンボルを使い分けられることができれば、なおよい(早期警戒機の場合)。また、連続的に追跡すれば速度と針路を把握できるから、そのベクトル情報も併せて表示する。

実際、米海軍の海軍戦術データシステム(NTDS : Naval Tactical Data System)では、スコープの表示でそれをやっている。こうすれば、生のデータをそのまま表示するだけのスコープと比べた場合、状況認識の効率の良さは桁違いである。

IFFが使えない、あるいはIFFに頼らない識別手段も欲しいという話になると、第167回で少し言及した非協力的目標識別(NCTR : Non-Cooperative Target Recognition)機能の出番となる。もっとも現在、NCTRが使える機体といえば、E-3セントリーぐらいしか存在しないようだ。


著者プロフィール


井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。

マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。

井上孝司

最終更新:2019/12/2(月) 12:31
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