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在韓米軍は撤退含み、それでも米国はGSOMIA継続に強硬

2019/12/2(月) 17:10配信

ニュースソクラ

韓国軍は北朝鮮軍を圧倒する規模と装備

 韓国のGDPは昨年1兆7200億ドル(世界10位)でロシア(同12位)の1兆6500億ドルを抜き、GDPの2.6%を防衛費に当てているから、すでに日本の防衛費とほぼ同額だ。北朝鮮のGDPは約170億ドルと推定され韓国の100分の1程度だ。北朝鮮陸軍の兵力は110万人といわれるが装備はひどく旧式で、訓練も十分にできない状況だ。

 ただし北朝鮮軍は非武装地帯の北側に朝鮮半島を横切って約240キロ、奥行き約30キロの地下陣地を作ったから、韓国軍がそれを突破するのは容易ではない。またそこに隠されたロケット砲、長距離砲で韓国人口の40%以上が住むソウル首都圏を「火の海」にすることも可能だ。だが、もし地下壕から出て南進を始めれば韓国空軍の対地攻撃や、陸軍の反撃にさらされ壊滅するだろう。

 もし北朝鮮が核ミサイルを発射すれば韓国は致命的損害を受けるが、それに対しては米軍でも充分な防衛をすることは困難だ。北のミサイルは主として北部の山岳地帯に掘られた無数のトンネルに、移動発射機に載せて隠されている。ダミーのトンネルも多いから、どこにあるのか精密な位置がわからず、航空機などによる先制攻撃ですべての弾道ミサイルをほぼ同時に破壊するのは不可能に近い。

 北朝鮮の弾道ミサイルも最近は「北極星」シリーズのように固体燃料を使い、他のものも「貯蔵可能の液体燃料」をあらかじめ充填し、トンネルから出て数分で発射できるようになってきた。このため発射準備をしているのを無人偵察機などで発見して破壊するのも困難になった。

 北の弾道ミサイルは数百発、核弾頭は約20発と推定されるが、核付きと通常(火薬)弾頭付きのものをまぜて多数発射されると、ミサイル防衛用ミサイルもどれを狙うべきか分からず、突破される公算が大だ。

 報復攻撃力を示して発射を防ぐ核抑止戦略は相手が理性的判断力を持ち「報復攻撃をされるとこちらも全滅」と考えることを前提としている。滅亡が迫って自暴自棄「死なばもろとも」の心境になった相手には抑止は効かないのだ。国力と通常戦力で韓国と大差がある北朝鮮は圧迫を受けても核の完全放棄をする公算は低い、と考えれば、韓国に米軍がいてもいなくても核の脅威はあまり変わらない。

 仮に米軍が韓国から去り、同盟が解消されたとしても、米国の核抑止力がすべて消える訳ではない。韓国には米国民間人が約14万人、そのほか「グリーンカード」(米国永住許可証)を持つ韓国人や、米国人の家族だがまだ韓国籍のままの人々なども入れると「要避難者は22万人」と在韓米軍は見積もっている。日本には米国人約7万人が居住している。
 
 もし北朝鮮が韓国、日本の都市に対し核を使用すれば、多数の米国人も死傷する。米国には韓国系米国人が170万人、日系米国人120万人がいるから、米国が泣き寝入りをすることは考えにくい。アメリカは朝鮮戦争当時同盟国ではなかった韓国を助け、南ベトナムもそうだった。イスラエルとも同盟条約はない。


 米国が北朝鮮に核報復をしようとすれば、アラスカ沖で常時待機している弾道ミサイル原潜は1隻に24基の「トライデントD5」ミサイル(威力475キロトンの核弾頭最大14発、通常は4、5発、射程11000キロ)を搭載するから、北朝鮮を滅亡させることは容易だ。北朝鮮の指導者が正気であれば核使用をためらわざるをえない。どの国にとっても核は使いにくい兵器なのだ。

 米国は韓国に対し米軍駐留経費5倍増を要求してはねつけられたが、日本にも4倍増を求めてくる公算は大だ。現行の「思いやり予算」の特別協定は2016年1月に署名され、同年4月から5年間有効だから、2021年3月末に期限切れとなる。次の協定の初年度分を含む日本の防衛予算は来年8月ごろの概算要求と12月の予算案に入る。

 米大統領選挙は来年11月だから、トランプ氏が「日本に駐留する米軍経費は100%日本に払わせる。条件によっては米軍を撤退させる」との2016年の選挙での公約を実現したことを誇示するためには、夏までに大幅な経費分担増を呑ませようとするだろう。

 日本はすでに74.5%を負担しているし、韓国、ドイツと異なり、直接日本防衛に当たっている米軍部隊は無きに等しい。米陸軍は2600人(陸上自衛隊は13万8000人)で補給、情報要員が大部分。戦闘部隊は沖縄のトリイ通信所に特殊部隊1個大隊(約400人)がいるが、これは海外に派遣されていることが多い。また嘉手納に防空砲兵1個大隊(「PAC3」ミサイル防衛用ミサイル発射機24輌、約600人)がいるが、これは射程が20キロ以下で米軍基地防衛用だ。

 米空軍は三沢にF16C/D戦闘機約44機、嘉手納にF15C/D戦闘機約54機、F22Aステルス戦闘機14機がいるが、日本の防空は1959年以来航空自衛隊(戦闘機約330機)の任務で、米空軍は日本の防空には関わらず、中東などに交代で派遣されている。

 米海軍は横須賀を母港として揚陸戦指揮艦1、空母1、巡洋艦3、駆逐艦7。佐世保を母港に揚陸艦4、掃海艦4がいるが、巡洋艦、駆逐艦計10隻は空母と揚陸艦の護衛用で日本の商船の防衛は海上自衛隊(ヘリ空母4を含み護衛艦47、潜水艦20、哨戒機73)の任務だ。

 米海兵隊は沖縄と岩国などに約1万9000人いるがこれも補給要員が多く戦闘部隊は歩兵1個連隊(約3000人)で戦車ゼロ、佐世保の揚陸艦に交代で歩兵約900人とオスプレイ、ヘリコプター計約20機が乗り、第7艦隊の陸戦隊として西太平洋、インド洋を巡行し、日本防衛兵力ではない。

 直接日本の防衛に参加していない米軍に対して日本が支出する経費は、海兵隊の一部のグアム移転経費を含め今年度で総計6204億円に達する。それに加え60億ドル(約6500億円)を出せ、という法外な要求をもし米国が突き付け、「米軍撤退」で脅すなら「お帰りになって結構」の姿勢を示して応対すべきだ。

 万一日本から米軍が撤退し、横須賀、佐世保の両港と岩国、厚木の海軍飛行場を使えなくなれば一番困るのは米海軍だ。グアムには艦船修理施設がなく、ハワイにはドックがあっても背後に工業力がないから、部品の調達などが不自由だ。第7艦隊の修理、点検は熟練した技術者が多く、部品もすぐに入手できる横須賀、佐世保の艦船修理施設に頼っている。

 もし日本から米海軍が去ればサンディエゴなど米西岸に根拠地を移すしかなく、西太平洋、インド洋の制海権確保は難しくなる。一方、北朝鮮が核ミサイルの標的とするのはまずは米軍の基地だから、それが無くなれば日本が核攻撃される可能性はかなり低くなる。米軍が日本に居なくても、米国民間人が日本に多くいる以上、アラスカ沖の弾道ミサイル原潜は北朝鮮に対する抑止効果を持ち続けるだろう。

■田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新聞)など著書多数。

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最終更新:2019/12/2(月) 17:10
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