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[ニュース分析]「ムン・ヒサン議長案」は強制動員問題の解決法か、軋轢深める悪手か

2019/12/2(月) 12:01配信

ハンギョレ新聞

強制動員解決法「ムン・ヒサン案」論争

強制動員問題に関連しムン・ヒサン議長が新たな提案 
「韓国と日本の企業などが寄付金持ち寄り 
被害者に慰謝料を支払い解決しよう」 
 
早ければ12月第2週に法案発議 
慰安婦関連の日本の資金60億ウォンは 
反対多く、基金に含めず進める方針 
 
政府案に反対した日本は肯定的な反応 
与野党議員「現実的な案」として評価 
被害者たちの強い反対がカギに 
「より大きい共感が必要」専門家アドバイス


ムン・ヒサン国会議長が日帝強制占領期間(日本の植民地期)の強制動員被害者問題と関連した「新しい解決法」として、いわゆる「1+1+α」案を出した。日本側が肯定的な反応を見せ、韓国の国会でも与野党議員がムン・ヒサン案に同意する雰囲気だ。被害者および市民団体は、強い反対意見を表明しているものの、賛成する被害者もいる。ややもすれば論争が拡大する可能性がある。主な内容と争点を調べた。

 「初めてムン・ヒサン案の主要内容を見た時は、これではうまくいかないだろうと考えた。日本軍慰安婦被害者と関連した60億ウォンを基金に組み入れる部分など、問題となりうる内容が多く、すぐに行き詰まると感じた。ところが日本側から肯定的な反応が出てくるなど、だんだん存在感が高くなり、進みつつある」(ヤン・ギホ聖公会大学教授)

 ムン・ヒサン案が初めて出てきたのは、11月5日に東京の早稲田大学で行われた特別講演だった。G20国会議長会議の参加のために日本を訪問したムン・ヒサン国会議長は、早稲田大学で「第2の金大中(キム・デジュン)-小渕宣言、文在寅(ムン・ジェイン)-安倍宣言を期待します」というタイトルで講演した。この演説でムン議長は、韓日関係の悪化を招いた核心事案である日帝強制占領期間の強制動員被害者賠償問題に対する新しい解決法を提示した。

韓国政府が出した「1+1」案の変形

 早稲田大学で話した構想の主な内容は、第一に「強制徴用被害者と慰安婦被害者問題など韓日間の葛藤を根源的かつ包括的に解消」するということだ。日本の植民地不法支配による様々な被害者の賠償と補償問題を、一つの法案に入れて解決するという意味だ。第二に、裁判で勝った強制動員被害者に「慰謝料」を支払い、この場合に日本企業の賠償責任が「代位弁済」され、「裁判上の和解」になったと法に明示するということだ。つまり、強制動員被害者が裁判で勝った場合、その慰謝料を日本企業から直接受け取る代わりに、新たに作った基金から受け取ることにし、日本企業の賠償責任は済んだこととして決着させるという構想だ。第三に、期限を定めて被害者に賠償申請をしてもらうこととし、各申請に対しては審議委員会が検証するという内容だ。

 ムン議長が出した基金の方式はこうだ。「両国企業の寄付金とするものの、責任のある企業のみならず、その他の企業まで含めて自発的に行う寄付金の形式だ。両国国民の民間募金形式も加える。また、現在残っている『和解・癒やし財団』の残金60億ウォン(約6億円)を含める。最後に、こうした基金を運営する財団に対して韓国政府が拠出できる根拠条項を作る」。いわゆる「1+1+α」案だ。政府が強制動員問題の解決法として6月に日本政府に提案した「1+1案」(日本の戦犯企業と請求権資金の恩恵を受けた韓国企業の寄付金で基金を作る案)に比べて、参加範囲を広げた。すなわち、強制動員に関連した企業だけでなくその他の企業にまで寄付金の範囲を広げ、ここに両国市民の自発的募金も加えるということだ。また、多くはないものの、両国政府の資金も入ることになる。その点では「2+2+α」ということができる。

 その後、財団の名称を「記憶人権財団」とし、賠償の申請期間は1年6カ月とするなどの具体的内容がさらに明らかになった。強制動員に関して裁判を終わらせたり進行中の約990人、訴訟が予想される約500人など全部で1500人に対しては、裁判所が判決を下した慰謝料の金額である1人当り2億ウォン(慰謝料1億ウォン+利子1億ウォン、約2千万円)を支払うという草案の一部内容も出てきた。

 このようなムン・ヒサン案に対して、先に日本側から好意的な反応が出てきた。毎日新聞など日本のマスコミの報道によれば、安倍首相は先月20日、河村建夫・日韓議員連盟幹事長から「1+1+α案」の説明を聞き、「強制執行前に法案が整備されれば良いだろう」として関心を見せたという。河村幹事長も数日前に中央日報とのインタビューでも「(徴用問題のための)解決策はこの方案しかない」とし、ムン・ヒサン案を好評した。

 韓国の国会もムン・ヒサン案に対して概して同意する雰囲気だ。強制動員問題と関連した法案を提出した与野党議員10人(チョン・ジョンベ、ウォン・ヘヨン、カン・チャンイル、キム・ドンチョル、オ・ジェセ、イ・ヘフン、ホン・イルピョ、キム・ミンギ、ハム・ジンギュ、イ・ヨンホ)とムン議長の懇談会(27日)は、このような雰囲気を示している。懇談会に出席した議員たちは、ムン・ヒサン案に対する支持を表明し、法案をムン・ヒサン案に一本化することに同意した。これに伴い、国会議長室は「対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者などの支援に関する特別法」の法案を作成し、遅くとも12月第2週までにはこれらの議員と共同発議する予定と知らされた。

代位弁済、日本に免罪符?創造的解決法?

 しかし、被害者の反発など越えなければならない山は多い。最大の争点は、被害者に基金を通じて慰謝料を支払う案をめぐる論議だ。過去の問題の被害者や関連市民団体は、こうした方式は結局日本に過去の問題に対する免罪符を与えるかたちになると批判している。日本製鉄・三菱・不二越強制動員被害者訴訟代理人のイム・ジェソン弁護士は27日、国会前で行った記者会見で「ムン議長の提案によれば、日本企業は法的・歴史的責任ではなく自発的方式で基金を集め、さらにその基金に韓国・日本の企業と国民の寄付金・募金までが巧妙に混ざることになる。これは、決して最高裁(大法院)判決の履行ではなく、加害の歴史を清算するものでもなく、外交的葛藤を生む余地のある被害者を清算するための案だ」と批判した。迂迴的な方法で賠償金を支払うことに対する本質的な問題提起だ。

 これに対して、国会側のおおよその見解は現実的に実現可能な解決法だというものだ。チェ・グァンピル国会政策首席は「賠償を拒否している日本企業の資産を現金化する場合に起きる両国関係の破綻を避け、被害者を実質的に救済しようとするなら、このような形で迂回するほかはない。直接的な賠償金支給に日本側が極度の拒否感を見せているため、日本の企業らが自発的な寄付金のかたちで資金を出すようにするということだ。韓国企業と国民の資金を含むのは、韓国の国民を守れなかった責任を自らも負って行こうということだ。私たちが主導的に過去の問題を解決することによって、日本を恥ずかしくさせることができる。過去の問題の不法な部分と日本の責任に対しては、絶えず問題提起をしなければならない。それはこの法案とは別個の事案だ」と話した。自由韓国党のホン・イルピョ議員も「日本にお金をくれという煩わしい話はもうやめようとの趣旨が、国会議長が代表となって出す法案に含まれている。日本企業が出すお金は、事実上強制動員被害者に支払う慰謝料なので、十分に名分がある。現実的にアプローチする必要があると見る」と話した。

 ムン・ヒサン案は、日本側が受け入れやすいように韓国政府が出した1+1案を若干変形させたものだということができる。日本企業の賠償責任を直接強制する代わりに、基金を作り被害者に間接形式で慰謝料を支払うという発想は、政府案でもムン・ヒサン案でも同じだ。政府案が具体的に出てきたことはないが、それもやはり基金から慰謝料を受け取る場合、日本企業の賠償義務が「代位弁済」になることを前提としていると見なければならない。

ムン・ヒサン法に賛成する被害者も

 ムン・ヒサン案の内容のうち反発が最も激しいのは、和解・癒やし財団の基金だった60億ウォンを新たに作る記憶人権財団の基金に組み入れるという部分だ。「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義記憶連帯)のユン・ミヒャン理事長は「記憶人権財団を作ってそこに60億ウォンを基金として組み入れるということは、侮辱的な2015年慰安婦合意を継続するということだ。慰安婦合意を無効にしなければならないという激しい要求により、和解・癒やし財団をようやく解散したのに、その金を再び使おうというのは話にならない」と述べた。日本政府の資金60億ウォンを韓国が使うことになれば、結局2015年の慰安婦合意を認めることになるので、基金に組み入れてはならないというのが慰安婦被害者と市民団体の要求だ。これに対して、チェ・グァンピル国会政策首席は「慰安婦と関連した60億ウォンを強制動員被害補償に使うということではない。60億ウォンを基金に組み入れようというのは、日本政府が過去の問題の被害者賠償および補償に関与していることを示す象徴的な意味のため」と話した。

 だが、この部分に対しては、強制動員法の共同発議に合意した与野党の議員の反対も多い。国会議長との懇談会に参加したカン・チャンイル民主党議員は、「60億ウォンをここに組み入れることは、慰安婦被害者の反発のみならず国民感情にも合わない。その金は除くのが良いと要求した」と明らかにした。他の議員も似たような意見を提示し、これに対して国会議長室は60億ウォンの日本の資金は基金に含めない方向で検討しているという。ムン・ヒサン案に対する被害者の同意の有無も重要なカギとなる。正義記憶連帯と「強制動員問題解決と対日過去清算のための共同行動」(強制動員共同行動)などの被害者団体と市民社会団体は27日午後、ソウル汝矣島(ヨイド)の国会前で記者会見を行い、「被害者を侮辱するな」と叫んだ。これらの団体は記者会見後にムン議長に会い、抗議書簡を手渡した。民主社会のための弁護士会(民弁)も「ムン・ヒサン国会議長の解決案は『国際人権規範』が定めた反人道的犯罪の被害者救済原則と『国連被害者権利基本原則』などに反する」という内容の声明を出した。

 ムン・ヒサン法案に賛成する被害者もいる。26日、ソウル市鍾路(チョンノ)の日帝強制動員被害者支援財団で国会議長室が主催した懇談会に参加した一部の人々は、「ムン・ヒサン議長の法案が処理され、被害者の補償と名誉が回復できるよう求める」という内容の請願書を出した。チェ国会政策首席は「反対する方たちもいるが、私たちが会った被害者の中には、早く法を作ってくれと言う方々も少なくない」と話した。

「急がずに意見を取りまとめるべき」

 この他にも、強制動員被害者の慰謝料支給対象を約1500人に限定する場合、数十万から数百万名に達する残りの被害者との公平さの問題も提起されうる。また、記憶人権財団を通した慰謝料の受領に同意せず、戦犯企業や日本政府から賠償金を直接受け取ることを願う場合にはどうするかも整理されなければならない。日帝被害者人権特別委員会の委員長であるチェ・ボンテ弁護士は、「基金を通した慰謝料受領に同意しない被害者に対して、裁判で救済を受ける権利が保障されなければならない。そうすればムン・ヒサン法案が問題になることはないと見る」と明らかにした。だが、その場合には日本政府や企業側が賠償金問題が完全に終わらないことを懸念して、財団に寄付金を出すことを敬遠する可能性がある。

 結局、ムン・ヒサン案の成否は、被害者中心主義、日本の歴史的・法的責任の確認などの基本原則を傷つけないかたちで、国民が共感できる案を作り出せるかにかかっている。ソウル大学日本研究所のナム・ギジョン教授は「60億ウォンを基金に組み入れることは日本政府が望むところだ。日本はそれで慰安婦に対する法的責任を回避しようとするだろう」として、60億ウォンの排除を強調し、「被害者に対する賠償は日本でなく韓国が主導するものの、植民支配に対する日本の責任問題は宿題として残しておくことが、拙速な解決法よりはましだ。ともすれば慰安婦合意よりも良くない結果になるかもしれない」と話した。ヤン・ギホ教授は「迂迴的な賠償方式に対して、被害者だけでなく国民の同意が必要と思われる。法の通過を急がずに、公聴会など意見を取りまとめる手続きを十分に経なければならない」と話した。

キム・ジョンチョル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

最終更新:2019/12/2(月) 12:01
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