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ダイアモンド・ユカイ「免許返納に納得しないおふくろ。オレがとった最終手段は」

12/3(火) 8:00配信

婦人公論.jp

当時もおふくろの運転は安全で、隣に乗っていてヒヤッとしたことは一度もありませんでした。でも、感覚が鈍ってきているのだろう、と思うしかなかった。おふくろはまもなく86歳。いくら鉄人だって、86になれば衰えは出てくるものだ。とにかく何がなんでも返納させよう。へこんだドアを見ながら、そう決意しました。

◆話せばわかるという希望は持たないほうがいい

はっきり覚えていないんですが、次か、その次に実家に帰ったときに、車の前のほうに傷がついているのを見つけました。小さな傷だったんですよ。でも、「これ目立つよ、直さないとまずいんじゃない? 知り合いで安く直せるところがあるから、ちょっと修理に出してくるよ」。そう言って、車を持ち出しました。直すつもりも、家に戻すつもりもなかった。

年老いた親をだますなんて、最悪だなと思いました。おふくろは、オレが鳴かず飛ばずの頃から応援してくれた唯一の人。でもほかに方法がなかった。オレは永遠のマザコンだし。だから、この人は親なんだけど親じゃない、世の中に迷惑をかけている困った老人だと思おうとしました。

母親に免許を返納させることができるのは、自分だけしかいないとも考えた。ロックなんていう社会に対する責任から一番遠い世界で生きてきたけど、自分自身が父親になったために、責任感が出てきちゃったんだな、きっと。(笑)

車は処分してしまい、おふくろの催促をのらりくらりとかわし、1ヵ月後に白状しました。まあ親ですから、オレのやったことはお見通しでしたが。おふくろはオレの言葉を聞き終わるや、「じゃあ、新しい車を買うわ。お金は持ってるもん」と。

まずい! それで、家の近くのディーラーに片っ端から連絡をとって事情を話し、「車を売らないでください」と。友人たち、親戚……おふくろを手助けしそうなところすべてに手を回して、協力をお願いしました。

おふくろは、ディーラー2、3ヵ所に電話をかけて断られたところで、やっとあきらめてくれました。免許返納にはオレが付き添い、タクシー券と運転免許証に代わる身分証明書を手にしてようやく渋々納得。最初に返納を持ちかけてから約5年、いやあホントに長かった。

今振り返って思うのは、やっぱり戦後の貧しい時代を生き抜いてきている親世代はパワフルだということ。あの世代に比べると、オレらの世代は人間のつくりからしてヤワ。真っ向勝負じゃ勝ち目はありません。

ちゃんと話す、話せばわかってもらえる的な希望は持たないほうがいいと思います。話し合いを長引かせると事態は膠着するばかり。実力行使も必要だし、時には鬼になることも考えるべきだと思います。

鉄人のおふくろでさえ86歳が運転のリミットでした。でも本当はもっと早い時期になんとかすべきだった。同じような悩みを抱えているみなさん、「親が自分の衰えを自覚し自ら返納してくれる」ことを夢見て、ずるずると決断を先延ばししてはダメです。

人は老いれば判断力は衰えてくるし、欲も深くなってくる。免許を手放さないのが普通の姿なのです。だから、こっちが鬼にならないといけない。親を親と思うな、それが親のためだ。この経験が、少しでもみなさんのお役に立つといいなあ。

昔は大家族だったから、誰かが運転を代わってあげられた。でも今は一人暮らしの老人が確実に増えている。自分の親世代は過渡期なんでしょうね。われわれの世代は、免許の返納からそれこそ施設の入居まで、子どもに頼らず自分で決めないといけないなと思いますよね。

(構成=平林理恵、撮影=大河内禎)

ダイアモンドユカイ

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最終更新:12/3(火) 16:18
婦人公論.jp

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