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「英雄」と呼ぶにふさわしい人々とは?│伝説のレーサー デレック・ベルが語る

12/3(火) 18:45配信

octane.jp

我々のような人間は皆、逸話をたくさん持っている。車をいたわって予想に反して完走させたあの驚異的なレースとか、恐ろしいコンディションの中でコースアウトせずにうまく走り、1周差を取り戻して優勝トロフィーを持ち帰ったレースとか。そういった類のことを「英雄」とするなら、私たちは皆、英雄ということになる。
 
ただし、古い考えにとらわれないエンジニアたちの方がその称号にふさわしいと私自身は考えている。私はフェラーリでマウロ・フォルギエリと、JWAガルフでジョン・ホースマンと、ポルシェでノルベルト・ジンガーと、といったように本当に才能ある人々と一緒に仕事をすることができた。私がいかに恵まれていたか、アメリカのモータースポーツ殿堂に加えてもらった時に痛感した。

本当に名誉なことだ。大事な友人であるデビッド・ホブスがその夜の司会だったことに加え、息子のジャスティンが素晴らしいスピーチをしてくれたからでもある。表彰式は、デトロイト中心街の歴史あるフィルモア・シアターで行われ、アメリカモータースポーツ界の偉大な人物たちが出席していた。私は、殿堂入りした数少ないイギリス人の1人として非常に謙虚な気持ちになった。
 
当日は2分間のスピーチを用意するよう頼まれていた。ほぼ半世紀にわたって私の夢の実現を手助けしてきてくれた人々全員に感謝するには2分ではとても足りなかった。考えてみれば、私たちがやることは、車に飛び乗って運転することだけだ。私たちは、自分の好きなことをやっている。同様に、エンジニアやデザイナー、ピットのガレージにいるスタッフ全員もまた大きな情熱を持ってレースに臨んでいるのだが、いつでもいい結果が得られるわけでもない。

ステージ上で私は、殿堂入りした本人以外の人たちがなぜ重要なのかをうまく伝えようとした。2012年の殿堂入りには、4輪・2輪の製作者で流行仕掛け人だったフロイド・ポップ・ドレイヤーや伝説的なエンジン製作者のエド・ピンク、ホットロッドの先駆けのヴィック・エーデルブロック・シニアといった人たちが含まれていた。彼らのモータースポーツへの貢献は、信じられないほど大きい。人によっては2分以上、さらには30分もスピーチをした人もいた。だが、エンジニアリングの創意工夫や革新の物語を聞くことは、本当に興味深いことだった。彼らは前例のないことに挑戦した。

成功と同じくらい失敗も覚悟しなければならず、使える資金も常に潤沢というわけではなかった。それでも、彼らのあとに続いて産業全体が誕生したのだ。エーデルブロックのような人たちは、本当に先見の明があった。チューニングのアフターマーケットが確立されたのは彼らの功績だ。しかもこれはまだ、レース界全体への影響を考慮に入れていない。この世界でピンクやドレイヤーの名前は万人が知るものではないかもしれないが、彼らがいなかったら、私たちのスポーツは全く違うものになっていただろう。
 
つまり私のように表舞台で喝采を浴びる人間のために、数えきれないほどの非常に才能ある人々が舞台裏で働いてくれている。もっと評価を受けてしかるべき人々。彼らこそが私にとっての「英雄」だ。
 
一方で、辞書の定義通りの「真に英雄的行為」として、「ミッション・モータースポーツ(MM)」の素晴らしい人々を紹介したい。MMは、軍事活動によって影響を受けた人々をサポートするために発足し、イギリスの退役軍人や現役の将校、そしてプロのレース関係者らによって運営されている。国のためにその命を危険にさらし悲劇に見舞われた人々の社会復帰に向けてのリハビリを、モータースポーツの枠組みの中で行っていく組織だ。そのMMのチームがルマン・クラシックで私がレースしたブロワー・ベントレーの面倒を見てくれた。彼らは、大きなトラウマを乗り越えてきたにも関わらず、素晴らしいユーモアのセンスと「なせばなる」の精神を持ち合わせている。チームとしての働き方を知っているし、プレッシャーを理解し、まったく新しい環境でも成功できるだけの意志の強さと競争心を持っている。

私は彼らをすぐ近くで見守ってきて、その実績に畏敬の念を抱いている。「真の英雄」があるべき姿を、モータースポーツの世界では見ることができる。

Octane Japan 編集部

最終更新:12/3(火) 18:45
octane.jp

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