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ゲームプレイと思考を“繋げる”『DEATH STRANDING』の新体験

2019/12/4(水) 18:26配信

M-ON!Press(エムオンプレス)

ゲームというメディアの魅力は、プレイヤーごとに異なる体験が生み出されることに尽きる。ほとんどのゲームが、プレイヤーが操作することでその人だけの体験をもたらす。『DEATH STRANDING』をプレイした僕は、そんなわかりきったことこそがとても大事なのだと再確認することになった。
本作には、オープンワールド的なフィールドのもたらす自由度だけでなく、“考えること”の面白さを教えてくれるようなプレイフィールがあった。本作の最初から最後まで、いろいろなことを考えた。どのようにゲームを進めるかという攻略法はもちろんのこと、謎めいたゲームのストーリー、そしてテーマである“繋がり”について考えていたとき、ゲームによって自分の世界が拡張されているような感覚に陥った。
正直な話、本作は自分で遊ぶことでしかわからないゲームなので、レビュー等にあまり意味はないだろう。プレイと思考の入り混じったゲーム体験は、人によってさまざまに形を変えるからだ。他者のプレイを追いかけられる配信を見たとしても、味気ない体験が残るだろう。本稿では、個人的な『DEATH STRANDING』のプレイリポートとその感想をお届けする。購入すべきかどうかの参考にはならないだろうが、本作の奥深さを伺う読み物として楽しんで貰えれば幸いだ。

【プレイ画像】『DEATH STRANDING』主人公のサムはノーマン・リーダスをモデルに制作

文 / 浅葉たいが

『DEATH STRANDING』を買った理由
偉そうな前書きでスタートしたものの、僕がこのゲームを買うことにした理由はなかなかミーハーだ。俳優のノーマン・リーダスとマッツ・ミケルセンが出演すること、これに尽きる。海外ドラマの『ウォーキング・デッド』はとても面白く観ていたし、そこでダリルを演じるノーマン・リーダスはとても格好が良かった。マッツ・ミケルセンは海外ドラマ版の『HANNIBAL』で、ひときわ怪しい魅力を放つハンニバル・レクター役を見てから大ファンになってしまった。Netflixで配信されている『ポーラー 狙われた暗殺者』での怪演もたまらなく良かった。ふたりとも、キャラクターを演じたときの存在感がものすごい。そのうえで、細やかな表現力で人間としての深みも見事に出してくる。ふたりの作品を観ていると、ふと覗かせる表情の些細な変化がこれほどまでに多くの感情を表すのかと驚かされることがある。

自分にとってのスーパースターが登場するゲームが発売されるというだけで、本作の発売日が待ち遠しいものに思えた。しかもそれを描くのは巨匠・小島秀夫監督。映画のように重厚な物語と世界を作る小島監督の作品に、僕は今まで何度もやられてきた。『メタルギア』シリーズはもちろん、『スナッチャー』、『ポリスノーツ』も大傑作だ(『P.T』も何らかの形で遊びたかった)。海外のスターをゲームのなかにファンの納得する形で落とし込めるのは、小島監督以外に思い当たらない。
そんな経緯でコレクターズエディションを予約し、発売を待ちに待った。グッズをこそこそ買いながら、ゲームの情報を仕入れるのは最低限にした。そして、待ちに待った発売日を迎えたわけだ。もし、僕と同じような人がいるとしたら本作を買って損はしないだろう。ゲームの世界でも、ノーマン・リーダスとマッツ・ミケルセンは最高である。

『DEATH STRANDING』を知りたくて
本作は、デス・ストランディングという謎の現象によって荒廃したアメリカが舞台である。この世界では触れたものの時間を進める”時雨(タイムフォール)”という雨が降り、この雨に触れると生物は急激に老化し、物であれば朽ちていく。そして、時雨が降っている場所には”BT”と呼ばれる謎の生命体が現れ、人間たちを脅かす。BTは人間を捕食しようと動くうえ、捕食されてしまうと”対消滅(ヴォイドアウト)”と呼ばれる大規模な崩壊現象が起き、周囲が大規模に破壊されてしまうのだ。この世のものならざる霊体のようなBTに対抗する術は、ほとんど存在しない。

プレイヤーは主人公であるサム・ポーター・ブリッジズを操作し、この世界でいろいろな荷物を”運ぶ”ことになる。サムは伝説の配達人として知られており、さまざまなインフラが崩壊したこの世界では非常に重要な”ポーター”という仕事に就いているのだ。
ある日、サムは”ブリッジズ”という組織からアメリカ再建という大それた依頼を受ける。これは、崩壊したアメリカの希望である”カイラル通信”というインフラを繋ぐために、東海岸から西海岸まで北米大陸を横断しつつ、中継設備を起動させていくというハードな任務だ。
依頼をしてきたブリッジズの人間の口からは”繋がり”というキーワードが頻出する。彼らは、カイラル通信を繋ぎ、人と人との繋がりを取り戻し、アメリカに失われた繋がりを取り戻すことが重要なのだと主張する。このキーワードこそが『DEATH STRANDING』の大きなテーマにもなっている。サムは、”繋がり”を望んでいない。彼は過去のトラウマから”接触恐怖症”となっている。人に触られることを極端に嫌っているため、”繋がり”によってアメリカが復興できるとは到底思っていない。もし仮に繋がりがもたらされたとしても、時雨は降り、BTの脅威は残り続けるだろうと考えている。
サムは最初、“繋がり”の再構築やアメリカ再建のために動くのではなく、ブリッジズにいる”アメリ”という女性への情で動いている。この時点では、プレイヤーである筆者も“繋がり”という言葉に懐疑的だった。これほどまでに荒れ果てた世界で“繋がり”がどれほどの意味を持つというのだろうか。しかし、コントローラーを握る手には力が入った。『DEATH STRANDING』開始から1時間弱の間に語られる物語と世界設定が、僕を惹きつけてやまなかったからだ。SFなのか。どうして世界は荒廃しているのか。デス・ストランディングや時雨とはなんなのか。サムの配達をサポートするガジェットとして描かれるカプセルに入った赤ん坊“BB(ブリッジベイビー)”はどこから来たのか。ときおり登場するクリフは何者なのか。ブリッジズの人間たちは本当に信用できるのか。それらの謎への好奇心に背中を押され、とりあえずはサムと同じように“意味もわからず”配達を始めたのだった。

前述のとおり、本作でプレイヤーが主にやることは”配達”である。依頼を受け、配達品を受け取り、目的地まで配達品を無事に届けることで物語が進行していく。序盤は荷物を背負って移動することぐらいしかできないが、物語を進めていくとハシゴをかけて2地点を繋いだり、ロープを使って傾斜を登ったりすることが可能になる。ゲームの序盤を超えると”国道”という道路を復旧できるようになっていくのだから驚きだ。
配達の道のりはなかなかに困難だ。荷物をたくさん背負った状態では、段差や傾きでサムがバランスを崩しやすくなる。荒廃した台地は高低差が激しく、岩や水が歩みの邪魔をしてくる場合もある。気を抜いてこけてしまうと持っているものの耐久値が減ったり、ときにはそこらへんに荷物をばらまいてしまい、完璧な配達ができなくなってしまう。それに加えて時雨が降り始めると、どこからともなく現れるBTに取り囲まれてしまうことがある。身を潜めてやり過ごすか、サムの血液からとれる特殊な武器を使って撃退するかを選ぶことになるが、サムは戦闘に特化した人間ではないため継戦能力は低い。撃退もその場を凌ぐための方法のひとつ。最大の目標は荷物を無事に届けることなのだ。

戦闘に重きを置いたゲームではないということを知ったとき、退屈なゲームプレイを想像した。しかし、実際にプレイしてみると配達に夢中になっている自分がいた。オープンワールド的なフィールドを歩くのが楽しいというシンプルな理由もあったが、それだけではない。配達によって得られる物語が、たまらなく良いのだ。
配達依頼を達成すると、依頼人は丁寧なお礼を述べてくる。ときにはサムの届けた配達物のおかげで環境がどのように変化したか、職場の空気がどう変わったかなどを記したメールも端末に届き、そこには配達のもたらすドラマが詰まっている。ゲームプレイを有利にするお礼を目標にするのではなく、物語を拡張する小さな物語を隅々まで読みたくて、メインミッション以外もついつい受注してしまう。

『DEATH STRANDING』が与えてくれたもの
本作の大きな特徴に“いいね”という要素がある。これはプレイヤーの行動をほめてくれるシステムで、配達を達成するとゲーム側から“いいね”が送られる。さらにはオンラインに接続してプレイしていれば、自分の作った梯子や注意喚起の標識が他のプレイヤーの世界に反映される“ストランドシステム”というものが用意されている。本作はシングルプレイのゲームだが、オンラインモードで遊んでいる他のプレイヤーの痕跡がときおり自分のマップに現れることがあるのだ。このストランドシステム上で自分の世界に他のプレイヤーの作った橋や標識といったオブジェクトが表示されたとき、任意で“いいね”を送ることができる。“便利なところに梯子を置いてくれてありがとう”、“注意喚起の標識があったおかげで墜落死せずにすんだよ。ありがとう”など、そんな気持ちを“いいね”で伝えるというわけだ。これはもちろん自分が立てたオブジェクトにも起こり得ることで、他のプレイヤーの世界に自分のオブジェクトが反映され、それにいいねをもらうことができる(ちなみに他のプレイヤーのオブジェクトの反映条件については、同程度の進行度のプレイヤーからランダムで抽出したものが自分の世界に反映されるのではないかと考えているが、詳細な条件までは不明だ。ここがブラックボックスになっているのもこのゲームのユニークな所だろう)。正直な話をすると僕は本作の雰囲気やプレイフィールを大変気に入った状態でスタートしたのだが、作品のテーマである“繋がり”というキーワード同様、このストランドシステムの“繋がり”にも懐疑的だった。ただ、他のプレイヤーの作った橋や道路がゲームプレイをサポートしてくれるという恩恵があるため、とりあえずオンラインにつないでプレイすることにしたが、この選択が思わぬゲーム体験をもたらすことになる。

少しゲームから話は逸れるが、“繋がり”という言葉を敬遠する理由を述べておこう。僕は繋がりというと必ずしもポジティブなものではないと考えている。ひと言に繋がりといっても、何を目的にしたものかわからなければ、一方的に繋がりを求められることに恐怖することもある。SNSが普及した時代だからそこで一度でもミスを犯せば、繋がりが仇になるかのような大炎上を起こすことも珍しくない。安易な繋がりこそ恐れるべきである、と心のどこかで思っていたのだろう。
しかし一方で、この世の多くのことは繋がりによってもたらされているということも知っている。実際僕が今こうしてゲームメディアの原稿を書かせてもらっているのも、本業であるデザインの仕事も、センスだけを買われてやっていることではない。ゲームを一緒に遊ぶ友人がいるのも、そして妻がいてくれるのも自分が繋がりを求めた結果だろう。つまり僕は繋がりの力を知りながらも、安易な繋がりを恐れているというわけだ。だから、必要以上に“繋がる”必要はないのではないかと思っている。『DEATH STRANDING』が“繋がりなさい”というゲームであれば、ついていけなくなるだろうと思っていた。
しかし数時間遊んだ時点で、こうした危惧が全くの杞憂だったことを思い知った。この作品が描いているのは“繋がりなさい”ということではなく、“繋がっている”ということなのだと気づいたとき、内側から何かが一枚はがれたような感覚を覚えた。ストランドシステムにおいて画面上に表示される他のプレイヤーの情報は少ないため、“いいね”を送る側としては誰に送っているかわからないことがほとんどである。そして、本作の“いいね”はシンプルゆえに裏表がない。たとえばTwitterのリツイートやリプライのようなものがないから、感情の読み合い的な行為が発生しない。悪意の発生しにくい構造のなかで、僕たちは“いいね”を送るのも送らないのも自由にしていい。タイトルこそシビアだが、このストランドシステムはとても“のんき”な世界なのだ。「世界は実は繋がっている、あなたはどうしますか?」というのが『DEATH STRANDING』なのではないかと考えたとき、荷物を下ろしたかのように身軽になった心地がした。サムは何もかもがなくなってしまったと思えるアメリカ大陸にいても、失われない繋がりがあることと新たな繋がりが生まれることを知りながら旅をする。僕はそんなサムを操作してゲームをプレイしながら、繋がりの意味を考えていく。このようなゲーム体験をさせられたら、止めどきがわからなくなるのは当然だ。

身軽になるとゆったりとした繋がりがなぜか心地よくなる。ここに梯子を置けば誰かが喜ぶかもしれないというポジティブな気持ちでプレイしている人もいれば、ここに標識を立てても意味がないだろうけどみんなが通るし、“いいね”がもらえそうだから立ててみようなんて下心もちらほら見える。それもこの優しいエンタテインメントのなかにすっぽりと納まる。「こんなところに橋を作ってばかだなあ」と思うような橋が大量にストランドシステムで自分のマップに流れてくることもある。でも、そこはのんきな世界だから、「でも“いいね”しとこう」なんて優しい気持ちになれるのだ。現実はこうはいかないが、『DEATH STRANDING』を遊んだ人は何かが変わっているのではないか、と思わせてくれるだけの力がこの作品にはある。
次回の記事では、筆者が体験したなかでついスクリーンショットを撮ってしまったユニークなイベントや絶景、ストーリーの展開などを紹介する。オープンワールドタイプのゲームだけあって、本作のフィールドにはさまざまな遊び心が満ちている。ゲームをクリアしたからといって、配達人としての仕事はまだまだ終わらないのだ。

(c)2019 Sony Interactive Entertainment Inc. Created and developed by KOJIMA PRODUCTIONS.

ゲームプレイと思考を“繋げる”『DEATH STRANDING』の新体験は、【es】エンタメステーションへ。

最終更新:2019/12/4(水) 18:28
M-ON!Press(エムオンプレス)

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