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アラムコ上場、推進役皇太子に政治不安感じる投資家

2019/12/5(木) 15:01配信

ニュースソクラ

【経済着眼】アップル抜く世界最大の企業サウジアラムコ、世界の1割の製造量

 サウジアラビアは、同国の国営石油会社アラムコの新規株式公開(IPO)を発表した。ただ、意欲的なサウジ政府の壮大な計画に対する海外投資家の懐疑的な見方などから、上場の規模は当初に比べると大きなスケールダウンを余儀なくされた。

 4年前、アラムコのIPOの構想を打ち出した時、ムハンマド皇太子は評価額を2兆ドルとしたうえ、内外の市場でその5%にあたる1,000億ドルを株式公開で調達するとしていた。同皇太子はこの調達資金でサウジの経済近代化に充てる野心的な構想を打ち出していた。

 しかし、サウジ政府が11月12日に発表した段階では、アラムコ全株式の1.5%にあたる240~250億ドル(日本円で約2兆7,000億円)をサウジ証券取引所(タダウル)のみに上場し、海外市場でのIPOは見送ると発表した。

 それでも上場成功のためには評価額を2兆ドルから1兆6,000~1兆7,000億ドルに引き下げねばならなかった。海外投資家の懐疑的な姿勢を前に、欧州、アジアなど、海外で行う予定であったロードショーも全面的な中止に追い込まれた。

 予定通り株式公開されればアップルを抜く世界最大の上場企業となるほか、今回の見通しの上限である250億ドルを調達すれば2014年のアリババを抜く史上最大規模のIPOとなる。IPOで調達された資金はソフトバンクにも出資しているパブリック・インベストメント・ファンドに繰り入れられて開発プロジェクトなどに充てられる。

 今回のIPOは国内の年金基金などの機関投資家や湾岸諸国のソブリンウェルスファンドなどを対象としている。昨年春にムハンマド皇太子に監禁された王族も含むサウジ富裕層も狙いをつけられていると言う。当然高値での買い付けが望まれている。

 アラムコの売上高は2018年で3,150億ドル、純利益は1,110億ドルという高収益企業である。いわゆるGAFAと呼ばれるアップルの590億ドル、グーグルの親会社であるアルファベットの300億ドルと比べても突出している。ちなみにライバルであるエクソン・モービルの純利益は208億ドルと1/5の水準である。

 アラムコの石油はアラビアンライトという超軽質油が主体のうえ、石油採掘コストの損益分岐点がバーレル当たり7.5ドル程度と平均30ドルの石油メジャーと比べて格段に低いためだ。サウジ石油化学会社のSabicを690億ドルで買収というニュースが出ても全く不安を持たれなかったのも潤沢なキャッシュフローのおかげだ。

 一方でサウジ政府の財政面では歳入の63%をアラムコからの収入に頼っていた。今回のIPOに備えて、アラムコの財務内容の魅力を高めるため、2017年に所得税率は85%から50%に引き下げられた。実効税率としては33.3%に過ぎない、との試算もある。

 サウジ政府としてはその分をアラムコからの株式配当の増額に頼ることになる。株式配当総額は2017年に500億ドル、2018年には580億ドル、今年は750億ドルが予定されている。

 海外投資家の不安はいくつかある。まず上場後にサウジ政府の経営介入を招かないような上場企業としてのガバナンスが守られるか、が疑問視される。また昨年10月にサウジアラビア出身のカショギ記者のイスタンブールでの殺害事件に皇太子が絡んでいたとの疑惑の影響も大きい。

 ムハンマド皇太子はいずれ国王になるが、短兵急な独裁政治への不安がぬぐえない。今年9月下旬にはイエメンによるとみられるアラムコの大規模石油施設がミサイル攻撃を受けた。中東情勢が緊迫を続ける中で、投資家がアラムコの安全対策へ不安を募らせている。口には出しにくいが、投資家にはサウジ王制の安定性に対して危惧の念がある。

 アラムコは生産量が1,000万バーレル/日と世界の産出量の約1割を占める巨人である。しかし、ムハンマド皇太子が描くような精製部門、石油化学部門などダウンストリームを統合した石油メジャーへと変貌を遂げていくのは容易ではない。

 とくにオイルピークと呼ばれる石油需要のピークが2050年までに到来するというなかで、莫大な投資を行うことへの疑問は多い。サウジ政府は、スイング・プロデューサーと呼ばれる需給調節機能を有し価格下落を食い止められるうえ、かつ油種が超軽質油であるのでCO2排出量も少ないので、化石燃料の採掘に厳しい批判がある中でも耐えられる、と弁明している。

 しかし、石油火力発電や自動車のガソリン消費は温暖化防止の高まりの中で今後は急速に減退していくであろう。さる海外の銀行家が「サウジは地下の貯蔵池(reservoir)に眠る大量の原油が全くの無価値になる前にキャッシュに替えておかねばならない」と言っていたのが印象に残る。

 こういう見方は極端としても、最大の不安として投資家の頭をよぎっている。いずれにせよ、最終買い付け価格は12月5日に発表される。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:2019/12/5(木) 15:01
ニュースソクラ

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