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牛を襲うカラスに酪農家悲鳴。「群れを追い払えない。行政も助けてくれない」【動画】

2019/12/6(金) 10:40配信

中国新聞デジタル

 「カラスの群れを追い払えず困っている。うちの牛を傷つけることもあるんです」。広島県北部で酪農を営む40代男性から、こんな悲鳴が編集局に届いた。「行政も助けてくれない。もうお手上げです」。取材してみると、カラスに襲われて牛が死ぬケースもあるという。

【動画】我が物顔に振る舞うカラス

 ▽広域で徹底防備が必要

 現場を訪ねてみて、ぎょっとした。牛舎裏の林の上空をカラスの群れが舞う。50羽くらいか。「これは少ない方。数百羽で空一面が真っ黒になる日もある」と男性が教えてくれた。

 数年前から昼時になると、方々から群れが集まるようになった。人のいない隙を狙い牛舎に侵入する。窓に釣り糸やネットを張って妨害してもどこからか忍び込み、牛の餌や水をついばむのだという。

 カラスは肉も好む。牛のお産があると血の匂いを嗅ぎつけ、胎盤などを狙いに来る。生後間もない子牛が毛をむしられたり、親牛が背を突かれて出血したりしたこともあった。

 さらに被害がひどいという近くの農家で、物陰から牛舎の様子を見せてもらった。電線には「見張り役」とおぼしき数羽がいる。休憩時間に従業員が立ち去った途端、10羽ほどが立て続けに入った。弱った牛の背に平気で飛び乗る。この牛舎では数年前、開腹手術をした直後の牛が患部を突かれ、約20センチの傷が全開。縫合し直したが死んでしまったという。

 「珍しいことではない」と、農家向けの損害保険を扱う県農業共済組合(広島市東区)。カラス被害の相談は毎年、複数の畜産農家から寄せられる。牛が乳房の静脈を突かれて失血死したり、傷口から細菌が入って殺処分したりした事例もある。農家はレーザーポインターや爆音機で驚かせるなどして応戦するが「これが効く、という話は聞いたことがない」そうだ。

 「非常に頭がいい鳥ですから」。東都大(千葉市)の杉田昭栄教授(67)=解剖学=は指摘する。カラスは他の鳥に比べて大脳の発達が著しく、体重に対する脳の割合は犬よりも大きい。「人の顔や色彩、物の数などを識別し、それらの情報を少なくとも1年間は記憶する能力がある」

 それだけに鳥よけの仕掛けは、脅しと見破られるとすぐに効かなくなる。しかもカラスの行動範囲は半径4~5キロと広く、畜舎をはしごする群れもあるという。杉田教授は「農家ごとに違う仕掛けを打つなど、広域な視点での対策が必要」と指摘する。

 とはいえ、農家だけで立ち向かうには限界がある。多くは高齢でしかも少人数で切り盛りしているし、少々の仕掛けでは太刀打ちできない。声を寄せてくれた男性もたまりかねて地元の役場に駆除を頼んだ。が、返ってきた答えは「近くに民家があるため銃が使えない。自分で対策してもらうしかない」。この自治体にはカラス対策の費用を支援する制度もないという。

 これに対し、杉田教授は「畜舎をカラスから守ることは、地域全体のカラス対策にもつながる」と強調する。農作物が減る冬場は畜舎が貴重な餌場になり得る。だからこそ畜舎を徹底防備すれば「兵糧攻め」になり、ゆくゆくは個体数減が見込め、他の農作物被害も減らせるとみる。「行政もそこに着眼し、畜産農家の指導や支援に当たってほしい」

 北海道によると、道内のカラスによる牛関連の被害額は年1億5千万円超で、有害鳥獣として年4万~5万羽を駆除している。一方、広島県は畜産への被害額すらまとめていない。駆除数も年1500~2千羽ほどだ。

 酪農大国までの被害はなくても、畜産農家を保護する視点は欠かせない。カラスは広く移動するのだから一つの自治体だけの問題でもなさそうだ。広域連携こそ「わがまち」のカラス被害を減らす鍵なのだろう。

中国新聞社

最終更新:2019/12/6(金) 20:03
中国新聞デジタル

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