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山口連続殺人放火事件を再考。起きたことを隅々まで体感し直そうとする地道な姿勢が、事件を再度揺さぶる―高橋ユキ『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』武田 砂鉄による書評

2019/12/9(月) 12:00配信

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「いったい、この村はなんなのだ」――二〇一三年七月、わずか一二人が暮らす山口県の限界集落で、一晩のうちに五人が殺害される事件が発生。その集落で唯一、他の村民と交流せず、決まった時間に窓を大きく開け放って歌声を響かせていた「カラオケの男」。凶行に及んだ男は、家のガラス窓に貼り紙を残していた。

「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」。この不審なメッセージは犯行予告と捉えられていたが、真相は異なっていた。犯人は「集落の村人たちから〝村八分〟にされていたのではないか」との疑いを抱えながら、著者は現地を繰り返し訪問する。限られた人々から、無数の噂が流れ込んでくる。

そして浮上する、別の放火事件。かつて存在していたという「夜這(よば)い風習」。地域で飼われていた犬や猫の不審死。犯人の父が盗人とされ、都会から帰ってきた息子が冷たくあしらわれていた事実。「陸の孤島」にやってくるコープの寄り合いで繰り返されていた世間話が作り出す「白い目」。そして、地域で信じられている氏神様の力……。

ある村人が「早(はよ)う死刑になればいいと思うちょる」と吐く。それは恨みからなのか、あるいは、たどり着いて欲しくない事実があるからなのか。不穏な空気を解くため、著者はひたすら村を歩く。歩けば歩くほど、聞けば聞くほど、その不穏さが晴れるのではなく、曇っていく。視界が狭まったのか、焦点が定まったのか、それすら分からせない、謎めいた村の吸引力。

本書はウェブサービス「note」で掲載され、大きな話題となった。そこで得た反響を踏まえ、追加取材に臨んだ。いつからかノンフィクションは、「読み手に何らかの〝学び〟や〝気づき〟を与えるものでなければならない」とする型が出来上がっている、と著者。そういった型に行き着こうと急ぐのではなく、起きたことを隅々まで体感し直そうとする地道な姿勢が、事件を再度揺さぶった。

[書き手] 武田 砂鉄
1982 年東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年秋よりフリーライターに。 著書に『紋切型社会』(朝日出版社、2015年、第25回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論』(青弓社)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋)、『日本の気配』などがある。

[書籍情報]『つけびの村  噂が5人を殺したのか?』
著者:高橋ユキ(タカハシユキ) / 出版社:晶文社 / 発売日:2019年09月25日 / ISBN:4794971559

朝日新聞 2019年10月19日掲載

武田 砂鉄

最終更新:2019/12/9(月) 12:00
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