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ヤフー・LINE統合でユーザーは? 奥村倫弘さん「客であると同時に商品」

2019/12/9(月) 8:55配信

福井新聞ONLINE

 ヤフーの親会社Zホールディングス(HD)とLINE(ライン)が経営統合で基本合意した。ユーザーにはどのようは影響があるのか、インターネットを巡るコンテンツとビジネスの関係を研究する東京都市大学メディア情報学部教授の奥村倫弘さんに原稿を寄せてもらった。

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 ポータルサイト「ヤフー」を傘下に持つZホールディングスとLINEの経営統合に向けた基本合意が11月18日に発表されました。報道ではGAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字)への対抗であるとか、東アジアをはじめとした海外展開の足がかりであるなどと、企業のグローバル競争の視点から盛んに報じられていますが、GAFAに勝っても負けても私たちには避けられない未来が待っています。その影響をおさらいしておきましょう。

 経営統合の大きな狙いの一つとなるキーワードは「データ」です。こういうと恐ろしく聞こえますが、広告を掲載するIT企業にとって、私たちは「お客さん」であると同時に「データ」であり「商品」なのです。

 インターネットのメディア企業は、広告を大きな収入源としています。インターネットでニュースを読んでいると、自動車や化粧品などたくさんの広告が目に入りますね。

 ネットメディア企業は、ただ単に広告を出しているのではありません。あなたがどのようなユーザーなのか、たとえば男なのか女なのか、何歳なのか、どこからアクセスしているのか、ブラウザやアプリが自動的に判断し、瞬時に広告をだし分けているのです。男性に女性用化粧品の広告を見せても意味がありませんものね。

 広告主は「アプローチしたいターゲットの属性」や「過去にウェブサイトを訪れた人」など条件を細かく設定して自社の商品やサービスを宣伝することができます。この仕組みは何もヤフーやLINEに限った話ではありません。FacebookやTwitterを使っていても同じです。広告を掲載しているサイトは、私たちをデータとして活用し、効率よく広告を出すことを商売にしています。

 たとえば、ヤフー・ニュースは年長者に人気があり、LINEニュースは若年層の利用が多いと言われていますから、2つの人気サービスがデータを共有するようになると、広告主は、これまで以上に幅広いユーザー層に広告が出せるようになるというメリットが出てきます。

 インターネットの広告ビジネスは、良くも悪くもこのようにして成り立っています。見方を変えていうと、私たちは私たちのデータと引き替えにサービスを無料で使わせてもらっているとも言えるでしょう。

 「何か気持ち悪いな」と思っても、こうした個人データの広告への応用は、すでに当たり前のものになっています。狙いはさらにその先にあります。今年1月、ヤフーの社長に就任した川邉健太郎氏は「ヤフーはデータの会社になる」と表明しています。今回の経営統合は、個人データの活用をさらに強く推し進めるものになるでしょう。

 データは、データを提供してくれるユーザーの数と機会が多ければ多いほどものを言います。メディアや決済を通じてたくさんのデータが集まれば集まるほど、世の中はどんな出来事に関心を持っているのか、どんな商品が売れているのかといった動向を把握できるようになります。これが「ビッグデータ」の利活用です。このビッグデータを企業や自治体などに販売してAIで解析すれば、新しい収益源になりますし、世の中が便利で豊かになるためのきっかけになると考えられています。

 ヤフーは検索で入力したキーワードやユーザーがどの広告を閲覧したのかなどのデータを持っています。LINEはいつだれとトークしたのか、どんなスタンプが人気なのかといったデータを持っています。もちろん両者は、スマートフォンに搭載されたGPSで取得した位置情報も把握しています。2つの大きな企業がそれぞれ得意とするデータを持ち寄れば、補完関係が成立し、より網羅的でより正確なビッグデータが収集できるようになるでしょう。ヤフー・LINE連合がGAFAに対抗するということは、GAFAはさらに膨大なデータを有していることを意味しています。

 データは世界を支配する新しい資源として「21世紀の石油」と呼ばれます。一攫千金で大金持ちになれるかもしれませんが、取り扱いに気をつけないと炎上してしまうことも石油と似ていますね。欧州では2018年、GDPR(EU一般データ保護規則)といって、個人データの保護を強化する“法律”の運用が始まりました。2019年1月には、GDPRに違反したとして、グーグルに5000万ユーロ(約60億円)にのぼる制裁金の支払いが命じられています。自分のデータを自分たちの手に取り戻すという精神は「21世紀の人権宣言」とも呼ばれています。

 データを集めるヤフーやLINEのみならず、そのデータを購入してAIで解析する企業も採用やローン審査といった使い道に倫理が求められるようになっています。日本では、個人データを管理する企業に自身のデータを預け、許可を与えたうえでマーケティングなどに活用してもらい対価を得る「情報銀行」というサービスも今年から始まりました。データとしての自分自身をどこまで企業に預け、委ねるのかを主体的に管理するリテラシーが問われる時代になっていくのです。

▽奥村 倫弘氏(おくむら・みちひろ)
1969年、大阪府生まれ。92年、読売新聞大阪本社入社。福井支局、奈良支局、大阪経済部記者を経て、98 年にヤフー株式会社入社。ヤフー・トピックス編集長、ウェブメディア「THE PAGE」編集長などを歴任。2019 年より東京都市大学メディア情報学部教授。著書に『ヤフー・トピックスの作り方』(光文社)、『ネコがメディアを支配する』(中央公論新社)など。

福井新聞社

最終更新:2019/12/9(月) 9:00
福井新聞ONLINE

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