ここから本文です

東アジアに「逆マルサスのワナ」

2019/12/11(水) 13:30配信

ニュースソクラ

【けいざい温故知新】押し寄せる人口減の波、乗り切る術がない

 「世界の成長センター」と囃(はや)されてきた東アジアに、人口減少の大波が押し寄せてきた。

 日本、韓国に続き、中国にも暗雲が漂う。人口減に足を取られ、東アジアの最盛期が過ぎてゆくのだろうか。

 厚生労働省が先週発表した人口動態統計(速報)で、日本の今年1-9月の出生児数は前年同期比5.6%減った。

 2019年の年間出生数は、87~88万人程度と、1899年(明治22年)統計開始以来の最少になりそうだ。90万人割れは予測されたより2年早まる。

 踵(きびす)を接するように、韓国でも衝撃的な数字が出た。韓国統計庁が発表した7-9月の出生数は、前年同期比8.3%減った。合計特殊出生率は0.88人で最低記録を更新した。ソウルに限れば0.69人で韓国メディアは「人口絶滅」の警鐘を鳴らす。

 1人の女性が生涯に生む子どもの数を示すのが合計特殊出生率(TFR)。韓国は18年が0.98で、2年続きで1を割る。人口を横ばいで維持する置換水準のTFRは2強とされ、韓国はその半分にも満たず、少子化が進んだ日本(18年で1.42)よりも低い。

 統計庁の将来推計で、総人口は早ければ19年の5165万人をピークに減少するとされ、日本(08年の1億2808万人がピーク)に約10年遅れて人口減少局面に入りそうだ。65年には65歳以上が人口の46%と、日本以上の超高齢社会になるとの予測もある。

 中国は、出生数減少に歯止めをかけようと、36年間続けた「1人っ子政策」を16年に止めたが、同年に少し増えただけで減少トレンドに舞い戻った。中国社会科学院の予測では、中国の総人口は早ければ27年から減り始め、人口世界1の座をインドに譲る。

 だが、中国の人口統計は水増しされていると指摘する専門家がいる。米ウィスコンシン大学の易富賢研究員は、独自の試算をもとに総人口は、すでに18年から減り始めたとする。だとすれば、中国の人口は14億人に達せずUターンしたことになる。

 習近平政権は、建国100年(49年)をメドに米国と並ぶ富強国を目指す方針を決めたが、そのころには60歳以上が5億人近く、人口の3分の1以上を占めると予想され、「未富先老」(豊かになる前に高齢化が進む)リスクとのせめぎ合いになりそうだ。

 ロンドン大学の人口学者ポール・モーランドは近著「人口で語る世界史」(原題TheHumanTide)で、日本・中国・東アジアを「老いる巨人たち」と称した。彼によれば、平均年齢が高い高齢社会は、活力が失われ、革新的でリスクを恐れない行動を避ける傾向があり「平和で活気がなく低リスクな社会」になるという。

 この半世紀余り、日本が高度成長の先駆けとなり、4小竜(韓国、台湾、香港、シンガポール)が続き、巨竜・中国が第2の経済大国に浮上し世界の成長センターを任じてきた東アジアは、衰退期に入るのか。

 「人口論」(初版1798年)を著した経済学者トマス・マルサスは、人口は制限されないと幾何級数的に増え、食糧は算術級数的にしか増えないとした。人口が食糧供給の限界を超えれば、悲惨な飢餓や戦争で抑えられるのは必然で、人口抑制の大切さを強調した。

 モーランドは、18世紀以前の世界は、この「マルサスのワナ」が当てはまったとする。だが、マルサスが「人口論」書いていたころから大変化が起きたという。ブリテン(英国)で農業革命が進行し、続いた工業化・都市化とともに人口爆発と経済成長が併行し、マルサスのワナを脱したと。

 いま、東アジアで起きているのは、その反対の“逆マルサスのワナ”かもしれない。経済成長の恩恵の豊かな生活を享受し続けたい人々が、育児や教育費の負担を減らそうと子どもの数を減らす。結果、人口が減り、高齢化が進み、高齢化に伴う負担も増えて社会が活気を失う、という循環に陥っているのではないか。

 東アジア諸国は、「逆マルサスのワナ」を脱する方途を探しあぐねているようだ。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:2019/12/11(水) 13:30
ニュースソクラ

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事