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大揉めNATO首脳会議、背後でパイプライン巡り綱引き

2019/12/12(木) 11:33配信

ニュースソクラ

【EU首都から】トランプ嘲笑の首脳映像が流出し、会見中止の騒動

 ロンドンのテームズ川に赤いニシンが現れた…。12月の3、4日の2日間、ロンドンで北大西洋条約機構(NATO)誕生70周年記念サミット開催中のことだ。世界最強の軍事同盟の結束を謳い上げるはずだった同サミットは、稀にみる不協和音の祭典となった。

 皮切りは、フランスのマクロン大統領の「脳死状態のNATO」発言(英エコノミスト誌のインタビュー)だった。さらに仏大統領から批判の矛先を向けられたトルコのエルドアン大統領が「仏大統領こそ脳死状態だ」と演説で応酬し、サミットは険悪な雰囲気の中で幕を開けた。

 3日夜、エリザベス英女王主催のレセプションで華やかになったのも束の間、そのレセプションの一角でトランプ米大統領を嘲笑する仏大統領やジョンソン英首相ら首脳たちの立ち話のビデオがネット上に漏れ大炎上。そのせいか不機嫌になったトランプ米大統領はサミットを締める記者会見をドタキャンして帰国、前代未聞のギクシャクだらけの首脳会議となった。

 ところが内部事情通によると驚いたことに一連のサミットのギクシャクは「赤いニシン」、つまり目くらましに過ぎず、ロンドンNATO首脳会議の影の主役は、こともあろうかロシアの天然ガスだった、という。今月末に迫った、欧州向けロシア天然ガスの大動脈である「ウクライナ・パイプライン」ルートの契約失効に伴い、米欧、ロシア、ウクライナさらには中国まで巻き込んだ、熾烈な利権をめぐる駆け引きが舞台裏で展開中だというのだ。

 表沙汰にしたくない真相から世間の目をそらすため、意図的に流す突拍子もない話題を外交用語で「赤いニシン」という。NATO首脳たちの子供じみたドタバタ劇は、ロシア、米欧、中国まで巻き込んだ敵・味方入り乱れての天然ガス利権をめぐる仁義なき多国間の取引を蔽う大道具だったのか――。

 欧州(ノルウェーやトルコも含む)諸国の天然ガス消費量は2017年、年間合計5480億立法メートルで、その4割を域内で生産、残り6割が域外から輸入された。この輸入分の約4割弱にあたる1940億立法メートルをロシアから輸入した。

 ロシアからトルコ・欧州向けの天然ガス輸送パイプラインは主として(1)ウクライナ経由ルート(2017年に、940億立法メートルを輸送)、(2)北ストリーム(ロシアからドイツへ直結するバルト海底経由ルート 同じく510億立法メートル)、(3)ヤマニー欧州ルート(ベラルーシ及びポーランド経由 330億立法メートル)、(4)ブルー・ストリーム(露国営ガスプロム社とイタリアENI社半々の出資によるトルコ向け 160億立法メートル)――の4通りだ。

 この内、最大量のウクライナ経由ルートは、ロシアとウクライナの間のパイプライン通過に関する10年契約が今年末に失効する。だが契約更新をめぐる両国当事者間の交渉は暗礁に乗り上げ、ロシアはウクライナに対し、新規契約ではガスの輸送量を年間100億から150億立方メートルに大幅減らすと脅し上げた。

 ロシアが強気なのは、ウクライナを迂回する新しい欧州向けパイプラインが2通り生まれるからだ。その一つ、ロシアからバルト海底を経てドイツに直結するパイプライン「第2北ストリーム」は10月30日に最後の障害だったデンマーク政府の許可を得て、来年初めから新たに年間最大550億立法メートルの輸送が可能になった。

 もう一つは、ロシアから黒海海底を経てトルコ・欧州南部向けに年間315億立法メートルを輸送する「トルクストリーム」の誕生だ。露大統領府は、来年1月8日にプーチン大統領がイスタンブールで同新ルート開通をエルドアン大統領と祝うと発表した。

 天然ガスのパイプラインは供給国の利益に加え、通過国に濡れ手に粟の莫大な通過料が長期にわたり転がり込む。このためNATO同盟諸国、ロシア、ウクライナなど敵味方が入り乱れ、利権をめぐる目の色を変えた交渉が繰り広げられる。

 米国は、「敵であるロシアへのエネルギー依存を高めるのは危険だ」と、欧州、特にドイツに対し、独・露の合資計画「第2北ストリーム」に大反対し、同時にトルコ・欧州南部向け「トルクストリーム」計画にも徹底的に反対してきた。これに対し、ドイツは「ロシアとの相互依存は全欧の安定を築く」と米国に反発した。

 実は、米国は2017年以来、EU向け液化天然ガス(LNG)を大幅に輸出拡大し、EUは中南米、アジアに次ぐ第3の輸出先なのだ。EUはロシアのガスより米国のLNGをもっと買え、というのが米国の本音である。

 これに対し、プーチン露大統領はロンドンNATO首脳会議直前の12月2日、滞在中のロシアのソチで、北京の習近平中国国家主席とバーチャルな会見を公開で行い、今後30年間の長期にわたる中国への毎年380億立法メートルの東シベリアからの天然ガス・パイプライン供給を確認し合った。取引のガス価格は伏したまま、米欧首脳に揺さぶりをかけた。米、欧、露、中の首脳たちのグレートゲームが展開されている。

 日本には無縁のどうでもいい話に聞こえるが、そうでもなさそうだ。「第2北ストリーム」のデンマーク沖合の敷設許可を同国政府が許可した直後、11月中旬にデンマーク首相からNATO事務総長を歴任したラスムセン氏が訪日し茂木外相はじめ政財界関係者と会った。ウクライナ政府のコンサルタントを務めるラスムセン氏がウクライナ最大の懸案である天然ガスパイプライン交渉の最も微妙な時期に訪日したのは意味深である。
 
 ラスムセン・茂木会談では、今年9月に安倍首相がブリュッセルでEU首脳と合意したインフラを含む、アジア欧州のコネクティビティ強化が話題となった。実はその強化の一環に日本の膨大な出資を見込んだ天然ガス整備計画が含まれているのではないかといった憶測が出ているが、すべては霧の中だ。折しも日本中の関心を奪った季節外れのサクラの話題が「赤いニシン」でなければよいが。

■谷口 長世(国際ジャーナリスト、在ブリュッセル)
毎日新聞ブリュッセル支局長を経て1998年、独立。ブリュッセル在住、安全保障&国際問題を中心に月刊「世界」など内外の雑誌に多数寄稿。著書に「アンネ・フランク 心の旅路」(講談社)、「NATO 変貌する安全保障」「サイバー時代の戦争」(共に岩波書店)。「アンネ・フランクに会いに行く」(岩波ジュニア新書) 現在、世界第2の規模の外国特派員組織・国際記者連盟(ベルギー)財務理事。

最終更新:2019/12/12(木) 11:33
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