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熱中症防ぐ「やめる勇気」 九死に一生のランナーの提言3

2019/12/13(金) 12:49配信

西日本スポーツ

 暑さ対策で会場が札幌市に移った東京五輪のマラソンと競歩の開催地問題は、マラソンのコースが決定しないなど「2020年」を目前に落ち着かない年の瀬を迎えている。「真のアスリートファースト(選手第一)を考えるきっかけにしてほしい」―。鯉川なつえさん(47)は1995年9月3日、ユニバーシアード福岡大会の女子マラソンでトップを独走しながら、残り3キロでふらふらとなり、コースを逆送したり迷走したりした末に倒れた。高温に加えて高湿度の酷暑が招いた熱中症だった。衝撃的な姿は強い印象を残すとともに、酷暑の怖さを世間に知らしめた。「九死に一生を得た」と24年前を振り返る鯉川さんは、今回の「札幌開催」に至る一連のプロセスをどう受け止めたのか、伺った。 (聞き手・構成=西口憲一)

【写真】1995年ユニバ女子マラソンでコースを外れ、路上に倒れ込む鯉川なつえさん

(2からつづく)

―熱中症を防ぐことは難しいのでしょうか

 防げます。唯一防げるのはやめる勇気、スタートしない勇気。出場しない勇気。体調が悪いことも含めて、リスクマネジメントをするのなら…。でも、日の丸を背負ってやめられる選手は少ないでしょう。だからこそ、大会運営に携わる方々の責任は重いんです。(2008年)北京五輪で、男子マラソンの世界記録保持者だったハイレ・ゲブレシラシエ選手(エチオピア)は「ぜんそくが悪化するから」と、大気汚染を理由にマラソンへの出場を回避しました。彼はある意味、リスクマネジメントをしたのだと思います。仮定の話になりますが、東京の暑さをデータなどで示した上で代替地を組織委が挙げれば、リスクマネジメントに対する評価になったと思います。涼しい場所は日本に多くあるわけで、選択肢を準備しておいても良かった気がします。

 今回の問題で逆に良かったと感じるのは「議論するところに戻った」ということですね。これまで専門家も交えた議論がなされてきたのかどうか正直不明ですし…。移転に伴う経費の負担やボランティアの確保などに論点が集中して、競技に関しての専門的な議論がなされていなかったように感じます。冬季五輪のある大会でリュージュの事前のテスト大会で事故が相次ぎ、コースが改修されたという話を聞いたことがあります。同じことだと思います。「キャンセルゾーン」と「デンジャーゾーン」の見極めをどれだけできるか。テレビの放映権などの問題もありますし、キャンセルゾーンなので中止にします、とはなかなかなりにくいと思います。自国開催の五輪。「セーフゾーン」でというのは難しいかもしれませんが、何とか「デンジャーゾーンのぎりぎりのところ」や「キャンセルゾーンまでいかないところ」で実施できるように持っていけないか。徹底検証して、出されたデータを有効利用しないといけません。組織委がやめさせる勇気も必要だと思いますが、そうなったらホスト国としては失格です。準備不足だと指摘されてもおかしくありません。最悪なことを想定した上で「大丈夫です」と言い切れる準備が必要です。

 ―本番が迫った中での開催地変更をどう受け止めましたか

 あえて本音を言わせていただくと、こういう議論があと1年早く、とも思いますが…。ともかくスタートしたことが喜ばしいと思います。ずっと疑問に感じていたのは専門家の意見をなぜ聞かないのだろうかと。五輪は東京の後もパリ、ロサンゼルスと続いていく。もちろん、マラソンも「大会の華」として開催されていく。今回の経緯も含めて次に向けての議論していく材料になっていくことを願います。レース時の気温、湿度など定点で観測したデータを基に競技の開催場所を決める。そういう決め方をして、レガシー(遺産)という意味で生かされなければ。スタート時間にしても午前5時、6時、7時…と根拠を出すべきですよね。そうじゃないと議論はできませんよね。いろんな人の意見を聞く。必要なのはネットワークというか、縦ではなく横のつながり。日本にはマラソンの専門家も医科学班の暑熱担当もいらっしゃる。委託されたウェザーニューズは正確に調べられています。マラソンにとどまらず、トライアスロンなど各競技の予定会場でチェックしているんです。日本のデータを最大限に活用し、英知を結集させていけば最高の猛暑対策が可能になると思います。

―4年に一度の五輪のために多大な時間を使って準備してきたはず

 選手にとっては一生に一度。国の名誉と、これまでの自分の競技人生を懸けて臨む大舞台だからこそ、極端な話、運営サイドも人生を懸けて準備してほしい。日本代表だけしっかり走れればいい、という考えは駄目です。これからは「札幌はこういうところです」という情報を参加国のランナーに対して積極的に開示、提供してほしい。ただでさえ高温多湿の日本。自分のところだけアドバンテージをもらおう、とかは良くない。五輪は世界一を決める大会。同じ条件での「よーい、どん!」でいかないと。最高の環境を整え、多くの情報を提供し、選手全員が全力を尽くせることこそ「真のアスリートファースト」だと思います。

西日本スポーツ

最終更新:2019/12/13(金) 12:49
西日本スポーツ

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