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早見和真さんの「集大成」が知りたければ、この父と息子の物語を読むしかない |『ザ・ロイヤルファミリー』

2019/12/14(土) 11:30配信

本がすき。

『イノセント・デイズ』など数々の作品が映像化されている早見和真さん。新作は競馬業界を舞台にした親子2代の物語です。「作家デビュー10年の集大成。これまででいちばん心血を注いで書いた」と自信をのぞかせます。強烈な迫力で物語を読む楽しさを堪能できる傑作です。

10年間書き続けて初めて、心血を注いだと言い切れる作品ができました

「今回は、これまでの小説のなかでいちばん心血を注げたと思えました。“ここまで到達できた!”という実感を初めて持てた作品です。作家になって10年、集大成だと思っています」

新作『ザ・ロイヤルファミリー』について、早見和真さんは開口一番、そう力強く語ります。

「昔の自分ならこんな作品は書けなかった。凡夫なりに諦めず書き続けた結果だと思います(笑)」

500ページを超える本作品は、ワンマン社長の山王耕造と愛馬ロイヤルホープがG1制覇に挑む第一部「希望」と、耕造の遺志を継いだ息子の耕一と愛馬ロイヤルファミリーの活躍を描く第二部「家族」の二部構成。物語は、耕造の秘書である栗須栄治の柔らかな語りで展開していきます。

それにしても、野球小説に始まり、死刑囚の女性の真の姿を描いた慟哭ミステリー、家族の存在意義を問う長編小説など、毎回全く異なるモチーフを取り上げ、読者を驚かせてきた早見さん。今回は競馬業界でした。

「『イノセント・デイズ』のあと、3~4人の編集者と飲んでいたときに『次の小説は売れる売れないを考えず、早見さんが人生で楽しかったことを書いたらどうか』と言っていただきました。僕はデビュー以来、ずっと書くことがつらくて。小説を書くたびに自分の才能のなさを突き付けられている感じがしていました。自分はほかの作家さんのような天才ではなく、凡夫だと思い知らされる日々だったんです」

頭に浮かんだのは競馬。しかも、学生時代に親が馬主だという同級生に連れられて見て以来、競馬は“美しいモノ”として早見さんのなかで存在していました。

「でも、競馬をやる人は小説は読まないでしょうし、小説を読む人は競馬を知らないと思いました。だから、自分にとって楽しい記憶のある競馬を描いてもどうなのかと当初は考えていました。
一方で、僕はデビュー以来、ずっと父と息子というテーマを内包したものを描いてきました。というのも、僕には親父に対してかなりの屈託があったからです。
父は世間的には男前の家族思いという人でしたが、経済的に母はいつも苦しんでいました。僕には娘が一人いますが、妻が子宮体がんになり全摘したとき、もちろん人並みに悲しみながら、どこかで“これで息子に会わずに済んだ”と安堵もしたんです。そのとき、どれだけ自分が父に牙を向けていたか、その牙をいずれ自分が息子から向けられると想定していたか気づきました。それで、いつかちゃんと父と息子の物語を書かなければとも思っていたんです。この2つが、競馬も馬の血の継承で、馬主の思いの継承もある、と気づいたときにつながり、物語になると閃いたんです」

取材はとことんやったと早見さんは続けます。

「競馬のプロにもアマにも読んでほしいと思っていたので構成をどうするか悩みました。そんなときカズオ・イシグロさんの執事が主人公の小説『日の名残り』を思い出したんです。それで山王の秘書の栗須が立ち上がり、プロでもアマでもない視点で語らせることにしたら物語が一気に動きました」

本書の魅力はなんといっても圧巻の臨場感! 本当に競馬場にいるような錯覚に陥ります。

「いつもは100書きたいことがあっても1しか書けない。でもこの作品は6は書けた気がしています(笑)」

緻密に練られた壮大なエンタメ小説。スピーディな展開と豊饒な余韻を楽しめる極上の小説です。

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最終更新:2019/12/14(土) 11:30
本がすき。

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