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医療保険を食いつぶす高額医薬品

2019/12/18(水) 12:17配信

ニュースソクラ

【医療の裏側(3)】キムリアなど登場で健保破綻の不安

 国民医療費(総医療費)に占める薬剤費の割合が増え続け、医療保険財政を圧迫している。2017年内閣調査によれば、総医療費が2001年度31・1兆円から2014年度40・8兆円と「31%」伸びたのに対し、薬剤費は同じく6・4兆円から8・9兆円と「39%」も増加。

 健康保険組合連合会(健保連)は、「団塊の世代が後期高齢者に入り始める2022年以降、医療保険財政は危機的な状況になる。よって、公的医療保険の給付範囲について、除外も含めて、改めて見直しを検討することが必要」と、薬剤費の膨張に危機感を募らせている。

 高額医薬品の保険(薬価)収載が薬剤費を押し上げているのはいうまでもない。相変わらず、バカ高い医薬品の薬価収載は続いている。

 今年5月には、スイスに本社を置くノバルティスファーマが開発した「キムリア」が、一回投与=約3350万円で薬価収載された。これは再発・難治性の白血病などに対する「CAR-T(カーティ)細胞」療法の薬剤だ。患者の血液から免疫細胞の一つ「T細胞」を取り出し、遺伝子操作でがん細胞への攻撃力の高いカーティ細胞を作製。増殖させて点滴などで患者に投与する。

 高額なのは遺伝子操作に「ウイルス」を使うので安全性確保などで製造コストがかさむからだとされる。本当にそんなに製造コストがかかるのか。

 名古屋大学もカーティ細胞療法の研究を進め、信州大学と共同で「酵素」による遺伝子操作の技術を開発している。細胞の出現率が高まり、ウイルス方式よりもコストが軽減された。

 名古屋大名誉教授で一般社団法人「名古屋小児がん基金」理事長の小島勢二氏は、東京新聞の取材に、こう述べている。
 「大学や研究機関であれば200万円程度で製造できる」
 「(キムリアが高価なのは)大学や研究機関に支払う特許料やベンチャー企業の買収費が、薬価に乗っているからだろう」「まるでブラックボックスだ」「製薬会社は実際にかかったコストではなく、『いかに高く売るか』で値段を決めているのではないか」(2019年9月16日付朝刊)

 キムリアの薬価は「総原価(薬の製造費用)」に営業利益や流通経費を積み上げる「原価計算方式」で算定されている。
 
 厚生労働省は、総原価の内訳を開示すればするほど薬価の上乗せ(補正加算)を多くする制度を採用している。キムリアも総原価を開示して補正加算を多くしたのかと思いきや、まったく逆だった。

 ノバルティスはキムリアの開示度を50%以下の最低ランクに抑えている。最高率の80%超の開示なら4400万円ぐらいの値がついたといわれるにもかかわらず……。

 ノバルティス側は、「開示できる部分は開示した。米国の製造施設は日本以外の国の分も製造しており、日本分の製造費だけを取り出すのは難しい」(東京新聞前同)とコメントしている。あえて開示せず、1千万円ぐらい値が下がってもよし、と判断してブラックボックスを守ったと推測される。今後の収益増のシナリオができているからだろう。

 ノバルティスは、現時点でキムリアが適用できる予測患者数を216人、予測販売金額は72億円と厚生労働省に提示している。薬価が高くても使える患者が少ないから保険財政的な影響は少ない、との口実ができる。しかし、これから急いで適用を拡大すれば売上高はどんどん増やせる。

 先行例がある。2014年に薬価収載された小野薬品の「オプジーボ」だ。最初に適用された皮膚がん患者がオプジーボを一年間使うと約3500万円かかった。小野薬品は予測患者数470人、予測販売価格は31億円と厚労省に示していた。

 が、あっというまに皮膚がんのほかに非小細胞肺がん、腎細胞がん、悪性リンパ腫、頭頸部がんなどへ適用が拡大される。 世論の批判を浴びたオプジーボは、その後、4回の薬価引き下げが行われ、収載時の四分の一程度の値段になったが、適用拡大で「金のなる木」に変わった。

 2018年度末のオプジーボの売上高は、製品別の国内売上げ第四位で906億円(日刊薬業2019年7月5日付)。当初の販売予測の30倍に膨らんでいる。これでは後だしジャンケンだ。

 小野薬品は、株主への利益還元策として17年9月に500億円、19年9月に300億円の自社株買いを行った。儲かって笑いが止まらないのだろう。キムリアもオプジーボと同じコースで販売額を増やす可能性がある。はたして薬九層倍を放置していていいのだろうか。

 そもそも国民皆保険制度の下、医療機関は医薬品を公定価格の薬価で支払機関に請求し(包括請求は除く)、その購入は医薬品市場で行う。かつては、病院がメーカーや卸と交渉して安く薬を仕入れ、高い薬価で請求。いわゆる「薬価差益」が病院の収入源だった。大きな病院では薬価差益率が30~40%ともいわれた。

 しかし、薬漬け医療への批判が高まり、厚労省は薬価の引き下げをくり返し、実勢価格との差は縮まった。薬価と市場での実勢価格との開きを示す平均乖離率は約7.2%に下がっている。ジェネリックの使用も増えた。にもかかわらず、総医療費における薬剤費の膨張が止まらない。つまり薬価の高止まりが続いているのだ。

 製造原価が不透明で、費用対効果が明らかにされないまま高額医薬品が薬価収載され続けると保険財政は破綻する。
 
 ジェネリックの活用だけでなく、根本的な問題にメスを入れなくてはならないだろう。では、医薬品の高止まりを防ぐにはどうすればいいか。次回は、そこに言及したい。

■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行予定。

最終更新:2019/12/18(水) 12:17
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