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米国製薬会社に食い物にされる日本

2019/12/27(金) 12:13配信

ニュースソクラ

【医療の裏側(4)】日本の国民皆保険制度の下、公定薬価で大儲け

 前回、医薬品の「総原価(薬の製造費用)」が不透明なまま、値段が高止まりして保険収載されている実態を記した。

 類似薬のない新薬の薬価は、総原価に営業利益や流通経費を積み上げる「原価計算方式」で算定されがちだが、根幹のコストがブラックボックスに入っているので不可解さがぬぐえない。

 高止まりに拍車をかけているのが、2010年に始まった「新薬創出・適応外薬解消等促進加算(新薬創出加算)」という制度だ。新薬創出加算は、一定の条件を満たした薬剤は特許が切れるまで、その薬価を維持したり、下がりにくくしたりするもの。革新的新薬の創出や未承認薬・適用外薬の開発促進を目的としている。

 ところが、年間、数百億円から一千億円超の加算が行われて一部の医薬品の価格が維持されるので、トータルな薬剤費が下がらない。

 おまけに加算医薬品の多くが、ビッグファーマと呼ばれる、外資系の巨大製薬会社の製品なのだ。薬価制度が議論されるたびに、これは問題視されてきた。

 2012年に厚生労働省が発表した薬価改定では、医薬品全体の平均下げ率6%に対し、新薬創出加算対象の702品目の約8割が改定前の価格を維持していた。

 最も多く新薬創出加算をかち取ったのはイギリスに本社を置く、グラクソ・スミスクラインで51品目。続いて米系のファイザーが43品目。日本のアステラス製薬は29品目。武田薬品は8品目にとどまる。

 16年度改定での加算品目を見ても、製薬会社別にランク付けすると上位10社に日本企業はアステラス製薬だけ。上位20社でも日本企業は7社だ。

 日本の国民皆保険制度の下、外資系製薬会社は、公定薬価のうまみを十分に享受して儲けを叩きだしている。一例をあげよう。ギリアド・サイエンシズはC型肝炎の革新的新薬「ソバルディ」「ハーボニー」を売り出して莫大な利益を上げた。

 確かにハーボニー、ソバルディは、副作用が伴うインターフェロン治療から肝炎患者を解放した。どちらも経口薬で副作用は軽く、原因のウィルスを確実に体内に排出する。入院は必要なく、外来で処方してもらって飲めばいい。治癒率は、インターフェロンの50%に対して95%。まぎれもない「特効薬」だ。

 問題はその値段。当初、アメリカでの販売価格は1錠=10万円だった。12週間服用すれば、1200万円だ。肝硬変や肝臓がんに進行する恐れのあるC型肝炎の患者数は、世界で約1億8000万人といわれる。

 ギリアドの「言い値」でぼろ儲けに、自由の国、アメリカでもさすがに反発が起きた。高額の保険料を払わされる保険会社が不満を募らせ、保険加入者に使用制限をして訴訟が起きる。高薬価への社会的批判が高まり、処方薬の保険請求をチェックする「薬剤給付管理(PBM)」の大手が「大幅値下げをしなければ薬剤採用しない」と圧力をかけた。しばらくしてソバルディの値段は半分の5万円に下がった。

 そのソバルディを、2015年に厚労省は1錠=6万1799円で薬価算定した。12週間服用すれば約519万円。ハーボニーは1錠=8万171円だった。患者数は日本国内で約150万人。後にソバルディ、ハーボニーは3割程度薬価が下がるが、ギリアドの収益が急上昇したのはいうまでもない。

 ビッグファーマは、高い医薬品の保険収載で満足するどころか、もっと加算を、補助金を出せ、と日本政府に要求している。

 アメリカの製薬会社は、米国通商代表部を通して、新薬創出加算の「恒久化」と、加算率の上限撤廃を日本に求めてきた。いったん付けたプレミア価格を永久に下げるな、というのだ。日本には年間売上げ1000億円超と爆発的に売れた医薬品の値段を下げる「市場拡大再算定制度」があるのだが、これも廃止せよと突きつけてきた(2013年米国通商代表部「USTR」外国貿易障壁報告書)。

 厚労省は二国間交渉で何とか米側の圧力をはね返し、ぎりぎりで踏みとどまっているが、USTRの重圧は弱まっていない。19年の「外国貿易障壁報告書」では医療機器・医薬品について、現状に異議を唱え、こう記す。

 「米国は,日本に対して、イノベーションに報いる予測可能かつ安定した償還政策を実施し、これらの政策に関連した、いかなる措置を策定する際も、米国の利害関係者を含む全ての利害関係者の意見を募、考慮すること、そして、現在及び将来のいかなる新たな政策や措置の策定において,透明性のある手続にのっとることを引き続き求める」

 日本の医療、医薬品の制度の変更について、「いかなる措置を策定する際も」アメリカにお伺いを立てろ、と求めている。医療は基本的にドメスティックなものであり、その国の文化、経済、政治、歴史などの結晶である。戦後、国民皆保険制度が定着したのも、それまでの長い積み重ねがあれば、こそだ。外国の干渉を受けて左右されるものではない。原資は、国民が営々と支払ってきた保険料と税金である。

 では、政府は、さまざまな要因が絡んで薬価が高止まりしていることにどこまで危機感を持っているのか。

 内閣府は2017年に「調剤・薬剤費の費用構造や動向等に関する分析」というレポートを出した。しかし、「国民医療費に占める薬剤費比率は日本の 22%前後で推移している」と記してはいるが、その22%の内訳は不明だ。

 官には国民の生命と財産を守る、当たり前の感覚が必要だろう。

■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行予定。

最終更新:2019/12/27(金) 12:13
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