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高橋大輔は最後の全日本で何を遺した? 魂のラストダンスに宿した「終わりなき挑戦」

2019/12/30(月) 17:35配信

REAL SPORTS

「魅せることができなかった」。唯一無二の表現者は、シングル最後の全日本選手権でそう口にした。だがそのラストダンスは、確かに見る者の心を震わせるものだった。
5度の全日本制覇だけでなく、日本で、アジアで、男子シングル史上初となる五輪メダリストにして世界王者にも輝いた。そのスケート人生は、まさに挑戦の歴史でもあった。だが、続く。高橋大輔の終わりなき挑戦の旅路は、これからも続いていく――。

(文=沢田聡子、写真=Getty Images)

陸上のダンスと氷上のスケートを妥協なく融合させる

2019年全日本フィギュアスケート選手権アイスダンスチャンピオン・小松原美里&ティム・コレト組のコレトは、2007-08シーズン当時、シングルスケーターとしてコロラドで練習していた。その際、高橋が『白鳥の湖 ヒップホップバージョン』を練習している様子を見たことがあるという。

「本当にかっこいいと思いました。『スワンレイク』、すごいと思いました。そのタイプ(ヒップホップダンス)は、それまで氷の上で見たことない」

目を輝かせて高橋のまねをしてみせたコレトは、「一緒の大会に出られると全然思っていなかった」と話している。
 
高橋は、2007-08シーズンのショートプログラム『白鳥の湖 ヒップホップバージョン』(ニコライ・モロゾフ振付)で、表現上の限界に挑んでいる。いわゆる「縦ノリ」のヒップホップダンスと横に滑っていくスケートが融合したプログラムは、世界に衝撃を与えた。

そしてシングルスケーターとしてのラストシーズンに挑んだ『The Phoenix』では、ダンスの第一人者が手がける振付をどのように氷上で再現できるかが焦点となった。

『The Phoenix』の振付は、ビヨンセなどトップアーティストの振付も手がけるシェリル・ムラカミ、そのアシスタントのユウコ・カイ、そして元男子シングル・ウズベキスタン代表で現在は振付師として活躍するミーシャ・ジーが担当。陸上のダンスと氷上のスケートを妥協なく融合させるという、高橋にしかできない試みの結晶が『The Phoenix』だといえる。

8月に行われたアイスショーの公開リハーサルで『The Phoenix』を初めて見た印象は、最高に格好いいが、同時に競技用のプログラムとしては体力的に滑り切るのが難しいのでは、というものだった。リハーサル後の記者会見で、高橋は次のように語っている。

「久しぶりにスタートしてから最後まで動きっぱなしのプログラムで、本当に激しい曲をやっているので、全体通して『33歳のおじさん頑張っているな』と思って見てもらえればいいかなと思います」
「この振りのパートは陸で作ったりしていたので、陸のテンションで氷の上でやってしまうと、結構バランスを取るのが難しくて……最初のスタートからのポーズがそうなんですけれども、なかなか踏ん張りがきかず、陸のイメージと氷のイメージがまったく合わなくて、思うように動けなかった」
「陸の上で振付をすると音をとるところがすごく速かったりするんですけど、その速さをスケートで表現するのは難しい。ステップ減らさなきゃいけなかったりとか、トランジションとか、いろんな問題がある。どっちをとるか、トランジションは捨てて表現の方をとるか、そこらへんは結構いろいろ悩んで、すごく難しくて。スケートって円を使うんですけど、ダンスってすごくまっすぐでストレートな表現だったりする。そういったところの折り合いが一番難しかったと思いますね」

“33歳のおじさん”と自嘲してみせた高橋だが、にこやかにさりげなく挑戦的なせりふを吐いている。

「スケートっぽくない表現というところをどんどん狙っていって、そこがもし評価してもらえれば、うれしいなと思います」

『The Phoenix』には、フィギュアスケートの競技会で“スケートっぽくない表現”を狙うという、高橋の企てが秘められていた。

その後9月に高橋は、2020年1月より村元哉中と組み、アイスダンスに挑戦することを発表した。シングル最後の競技会となる全日本選手権に向かう高橋を、怪我が襲う。ジャンプの練習中に左足首をひねったことにより出場予定だった西日本選手権を欠場したため、全日本選手権が『The Phoenix』を滑る最初で最後の競技会となった。

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最終更新:2019/12/30(月) 21:17
REAL SPORTS

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