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羽生結弦は「気高き敗者」だった。艱苦の渦中に見せた、宇野優勝への想いと勝気さ

2019/12/31(火) 14:14配信

REAL SPORTS

その姿は、明らかにいつもと違っていた。全日本選手権の本命と目されながら、宇野昌磨の後塵を拝する2位に終わった。スケート人生で最も苦しい1カ月を過ごしていた。
男子シングルで66年ぶりとなる五輪連覇を果たすなど、名実ともに世界の頂点へと駆け上がった男には、並び立つ者のない風格と気品がある。それはまさに、絶対王者だからこそ纏うことが許されるものに思えた。だが、違った。苦境に直面したときにこそ、その人間の神髄が表れる。羽生結弦は、敗れてもなお、気高かった――。

(文=沢田聡子)

悪夢の中の出来事のように見えた光景

男子シングル・ショートプログラム、第4グループ6分間練習の直前に、4年ぶりの全日本選手権に臨む羽生結弦と通路ですれ違った。出番を控える選手を直視することはためらわれたが、侍のような引き締まった気配は幅の広い通路の反対側まで伝わってきた。

羽生は11月下旬のNHK杯で優勝、12月上旬のグランプリファイナルでネイサン・チェンと死闘を繰り広げた末2位となり、12月20日の全日本・ショート当日を迎えている。5週間で3試合という過密な日程がハードであることは間違いなく、体力面での消耗が心配された。

ショートで羽生はほぼ完璧な演技を見せ首位発進したが、フリーで崩れる。冒頭の4回転ループでステップアウトしたものの、続く4回転サルコウは2.77の加点がつく出来栄えで成功。しかし、明らかにいつもの羽生ではないと感じさせたのは、スピンとステップシークエンスを挟んで跳んだ3つ目のジャンプだった。3回転を予定していたルッツが2回転になり、しかも着氷で大きく前に傾き、つんのめるような形になったのだ。続く4回転トウループでステップアウト、4回転トウループ―1回転オイラー―3回転フリップも最後の着氷が乱れる。さらに、トリプルアクセル―3回転トウループではセカンドジャンプが回転不足と判定された。何より衝撃的だったのは、羽生の武器であるトリプルアクセルでの転倒だった。立ち上がる羽生の姿が、悪夢の中の出来事のように見える。その後のスピンで足を蹴り上げる鋭さには羽生の諦めない姿勢が詰まっていたが、連戦の疲労が彼の体をむしばんでいたことを、見る者すべてが感じたのではないだろうか。一つひとつの試合にすべての力を振り絞って臨む羽生には、間隔が詰まった試合の日程はやはり酷だった。

フリー3位、総合2位という成績に終わった羽生だが、フリー後のミックスゾーンでは決して言い訳をしなかった。「体力的にはどうだったのか」という質問には「言いたくないです」と答え、さらに、2回転になったルッツのあたりでは足にきていたのかと問われると、羽生は笑った。

「全部言い訳くさく聞こえるから、本当嫌です。何もしゃべりたくないっていうのが本音です(笑)」

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最終更新:2019/12/31(火) 14:30
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