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倒産と引っ越しによって財を失った、江戸時代のあの人この人―『大名の『お引っ越し』は一大事!? 江戸300藩「改易・転封」の不思議と謎』本郷 和人による書評

1/2(木) 12:00配信

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◆倒産と引っ越しによって財を失ったあの人この人

私が勤務する史料編纂(へんさん)所は明治時代から各地の古文書の写し(コピー)を「影写本」というかたちで作成し、所蔵している。原本の中には焼けて失われたり散逸したりして、影写本が原型を知るためのもっともよいデータになっている、ということがある。『松平基則氏所蔵文書』もそうしたものの一つで、前橋藩15万石の殿さまの末裔である松平基則さんが所蔵していた文書なのだが、原本は惜しくも太平洋戦争の空襲で焼けた。

この文書の特徴は、北関東の名族、小山氏・結城氏(小山の分家)のものであること。徳川家康の次男・松平秀康がいっとき結城家の養子になっていたために、秀康の五男の直基が結城家の祭祀(さいし)を任され、相伝の文書も相続したのだ。基則氏は直基の子孫に当たる。

さて、直基の嫡子(つまり基則氏の祖先でもある)が直矩(なおのり)。この人は生涯で5回の転封(国替え)を幕府から命じられ、播磨・姫路⇒越後・村上⇒姫路⇒豊後・日田⇒出羽・山形⇒陸奥・白河と6カ所を転々とした。国替えにはたいへんな出費がかさむため、家中に莫大な借財が残った。ついたあだ名が「引っ越し大名」で最近、小説(2016年)や映画(19年)になった。

国替えは実はまだましだ。これが改易となると、つまりは倒産である。藩士たちは失業して路頭に迷う。幕府は三代将軍家光の頃までと、五代綱吉の代に外様・譜代を問わず、多くの大名を改易に処したという。

本書は江戸時代の改易と国替えの様子を概観し、それにまつわる悲喜こもごものエピソードをまとめたものである。監修者は山本博文。叙述の基本となる歴史観が盤石であるので、安心して読むことができる。教科書には載っていないヒストリーを楽しんでほしい。

[書き手] 本郷 和人
1960(昭和35)年東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。中世政治史、古文書学専攻。史料編纂所で『大日本史料』第五編の編纂を担当。著書に『天皇はなぜ生き残ったか』『戦国武将の明暗』など。

[書籍情報]『大名の『お引っ越し』は一大事!? 江戸300藩「改易・転封」の不思議と謎』
編集: / 出版社:実業之日本社 / 発売日:2019年09月6日 / ISBN:4408338877

サンデー毎日 2019年12月15日号掲載

本郷 和人

最終更新:1/2(木) 12:00
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