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ポン・ジュノ監督×細田守監督の相思相愛な対談が実現!『パラサイト 半地下の家族』の本質に迫る

1/13(月) 11:54配信

Movie Walker

映画賞を席巻し、第92回アカデミー賞の最有力候補との呼び声が日増しに高まっている『パラサイト 半地下の家族』。かねてより日本のアニメが大好きだというポン・ジュノ監督と、監督の大ファンだという細田守監督の対談が実現。お互いの作品に対する印象や演出論まで、存分に語り合ってもらった。

【写真を見る】これが初となる、ポン・ジュノ監督と細田守監督の貴重な対談が実現!

【※この記事は映画の核心に触れる内容を含みます。鑑賞前の方はご注意ください】

■ 「お互い3~4年に1本のペースで撮っていることに親近感を覚えます」(ポン)

ポン「細田監督は、2010年代に『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』の3本を監督されていますよね。私も『スノーピアサー』『オクジャ/okja』『パラサイト 半地下の家族』を撮っているんです。お互い3~4年に1本のペースで撮っていることに、どこか親近感を覚えます(笑)。ただ、アニメは精巧に作り込まなければいけないですし、仕事の大変さは実写の比じゃないと思うんですね。だから、細田監督がそのペースを維持されていることは、本当にすごいと思います」

細田「僕の映画を観てくださる皆さんのおかげで、作品をつくり続けることができるので、このペースはできるだけ守りたいと思っています。僕がポン監督の作品を始めて観たのは、『時をかける少女』を準備していた時。DVDで観た『殺人の追憶』に大きな衝撃を受けて、それ以来、大ファンになりました」

ポン「あれから、かなりの歳月が流れましたが、先日に映画のモデルとなった事件の真犯人が逮捕されたんですね。私は『犯人の顔を見たい!』と思いながら映画を撮っていたので、DNA照合されて逮捕された犯人の顔を見て、奇妙な感覚に襲われました。実際には、ほかの罪で25年間収監されていたのですが、まさかこんな日が来るとは思いませんでした!」

細田「僕はなんの予備知識もなく観たこともあり、想像を絶するラストとすばらしい映画体験をさせてもらったことは、いまでも忘れられません。『時をかける少女』は、僕にとって初めての長編映画に近い作品だったので、『殺人の追憶』にはとても刺激を受けました」

ポン「私は『時をかける少女』をソウルの映画館で観たのですが、おもしろいうえにヒロインの痛みや悲しみを感じるほど、映画の中に吸い込まれたことを鮮明に覚えています。私は垂直的な空間が好きで、映画の中に高台や階段を登場させることが多いのですが、『時をかける少女』では坂道が重要なキーになっていることにも興奮しました。あのようなロケーションのモデルになる場所も、細田監督は徹底して探されていますよね」

細田「坂道のようなヒエラルキーを視覚で表現することは、とても映画的だと思います。そこに人間関係や、その時の人の気持ちが象徴的に表れるんです。『パラサイト』でも、階段の存在がコンセプチュアルで映画的な空間を作っていますよね」

ポン「実はスタッフの間では、『パラサイト』を“階段映画”と呼んでいます(笑)。特に雨のシーンで重要になる長い階段を探すのが大変でしたが、この映画においてロケは10%程度なんです。主人公となる2つの家族の自宅など、あとの90%はセット。大雨のシーンも、セットを巨大プールの中に作って撮っているんです」

細田「そうなんですか!?貧乏な家族が住んでいる半地下の家などは、本当に存在しているような臨場感があって、とてもセットには見えませんでした。ほかにも『母なる証明』の町や『スノーピアサー』の列車の車両など、ポン監督は人間の間にあるものを象徴化して、画にするのがとてもお得意ですよね。『パラサイト』の家には僕も住んでみたくもなりましたし!」

ポン「私も『未来のミライ』の特徴的な家に住みたくなりました(笑)。確かに『撮るべき空間をどのように設計するのか?』ということは、常にこだわっています。アニメではありますが、『サマーウォーズ』の伝統的な家屋や青い空なども、空間の実在感を肌で感じました。それぐらい細田監督は、ディテールにこだわられていると思います。あそこは実際に存在する場所ですよね?」

細田「長野県の上田というところです。東京から新幹線に乗れば90分程度の清々しいところなのでぜひ行ってみてください。反対に、ポン監督は実写映画を作られていますが、僕から見れば、とてもアニメ的、コミック的な作品に思えますね。『グエムル-漢江の怪物-』なんて、実写映画の監督が決して撮ろうとは思わない(笑)。普通なら避けて通りたくようなテーマやシチュエーションに真正面から取り組まれている理由はなんですか?」

ポン「もともと私はコミック好きで、日本なら古谷実さんや松本大洋さんといった、手描きの味が出ている作品が好きなんです。映画というものは、ストーリーも大事ですが、画を見る快感もあると思いますから。私はそれを実写としてやりたいだけなんですよ(笑)。私も細田監督の作品で気になっていたことがあって、それは人物にシェード(陰)ができないこと。なぜ、あえてフラットに描くスタイルを貫かれているんですか?」

細田「それは僕がアニメーターとして育った東映動画の美意識から来るんだと思います。『白蛇伝』という、日本初の長編カラー・アニメ映画を作った会社なのですが、日本画の影響が強いんです。いまの日本のアニメはリアルを求めて過剰に陰を入れてしまいがちですが、表面をリアルに描くことと、心をリアルに描くことはイコールではありません。表面や細部だけがやたらとリアルなくせに、テーマや人物描写がリアルではない作品は単につまらないだけです。僕は映画にとって大切なリアルとはなにかを、いつも考えています。アニメーション映画でしか描けない人物とその心を、リアルに描きたいんです。ところで、『スノーピアサー』や『オクジャ』といった近作で、ポン監督が海外を舞台に新たなチャレンジをされた理由も教えてほしいですね」

ポン「細田監督も同じと思いますが、私は『このストーリーを映画にしたい』という気持ちだけで撮っているんです。『スノーピアサー』は人類の生存者が列車に乗っている設定なので、さすがに韓国人だけでは成立しない。だから、自然と海外の俳優が出演する流れになりました。最初から海外で撮ろうとかハリウッドスターに出てもらいたいプランがあったわけではないんです」

細田「となると、『パラサイト』は久しぶりの韓国語映画だったと思うんですが、ポン監督は、やはり違いましたか?」

■ 「シノプシスを書いた段階では、エンディングがまったく見えない状態でした」(ポン)

ポン「故郷に戻って、自分の身体に密着している感がありました。『スノーピアサー』では26車両のセットを作ることで忙しく、『オクジャ』ではCGで怪物を作ることで忙しかったんです。でも、今回は自分と俳優にエネルギーに注ぐことができたので、しっかりキャラクターを作り上げ、人間の本質を深いところまで掘り下げることができました」

細田「『パラサイト』は、脚本の後半部分の粘りやドライブ感のようなものがすごかったですね。展開がひっくり返って、ひっくり返って、映画的に見事な着地をしていると思いました。このような脚本は、どのようにして書かれたんですか?」

ポン「シノプシスを書いた段階では、エンディングがまったく見えない状態でした。それだけでなく、貧乏家族が金持ち家族に“寄生”した中盤以降、なにが起こるかも見えませんでした。その後に、15ページ程度のストーリーラインを作ったのですが、そこでもエンディングが浮かばず、何年も机の上に置いたたままにしていたんです。脚本を書き始めても10ページ先がどうなるか分からず、劇中に出てくるセリフのように、『ノープラン』でした(笑)」

細田「僕はもともとソン・ガンホさんのファンなのですが、今回の貧乏家族のお父さん役も、とても魅力的なキャラクターでした。特にクライマックスの表情がすばらしかった」

ポン「私はソン・ガンホさんが父親役を演じることが前提だったからこそ、あのクライマックスを書けたと思っています。彼は観客を説得できる微細な表情を持っている俳優ですから。先ほど、細田監督が『シェードよりもリアルに表現できるものがある』とおっしゃっていましたが、ガンホさんの数ミリの顔の筋肉の動きがあったからこそ、リアルに表現できたシーンだと思います。そういえば、『おおかみこどもの雨と雪』の夕方のシーンで、窓際に立っている草平が若干アゴを上げた状態で話す姿を観て、私は鳥肌が立ったんです。あれはディズニーなど、アメリカのアニメーションでは見られない数ミリ単位での表現法ではないでしょうか?」

細田「そう感じてくださってうれしいです。あのようなシーンは顔の位置や目線によって、相手に伝わるイメージが変わってくるので、僕自身が役者さんになった感覚で、そのシーンに最も適した動きを選んでいます。そんなセリフのニュアンスだけじゃないことを、脚本や絵コンテを書きながら常に考えているですが、ポン監督もご自身で絵コンテを描かれていますよね?」

ポン「絵コンテも、ストーリーボードも、脚本の延長上にあると思うので、画は拙いですが、すべて自分で書いています。それが韓国の出版社から出ているので、なんだか漫画家になったような気持ちです(笑)。ただ、あまりに精巧にストーリーボードを書いてしまうことで、『俳優の芝居が拘束されてしまうかも?』ということは常に心配です」

細田「その心配は僕も同じです。一方、絵コンテをしっかり書きこむことによって、自分の思いをしっかり伝えたいですし、ジレンマです(笑)」

ポン「私の場合、役者にディレクションする時、さすがにミリ単位で修正をお願いできないじゃないですか。そのため、テイクを重ね、編集でいいバランスを見つけたものを使っているんです。だから、『パラサイト』は実際、俳優に頼るところが多かったと思います。細田監督は『ミライの未来』でも、長靴を脱いで階段を上がるような子どもの細かな動きや泣く時の表情もしっかり描かれていましたが、アニメーターの方たちと一緒に、子どもたちをかなり観察されましたよね?」

細田「僕は本来、アニメとは子どもを描くものだと思っているんです。日本のアニメの現在の傾向は、アイドル的な少女が出てくるものばかりになってしまい、描き手が実際の子どもを観察して描く経験が失われてしまったんです。だから、『未来のミライ』の制作にあたり、アニメの本質と相通じるようなモチーフを使って、しっかり映像を作るべきだということを話し合いました。幼い4歳の子どもからは世界がどのように美しく見えているかを描くべきだ!って」

ポン「『パラサイト』にも金持ち一家の8歳の子どもが出てきますが、この子役がとにかくリハーサル嫌いだったんですよ。でも、カメラを回すと、ワンテイクでOKという(笑)。劇中で、あの子が“匂い”について忌憚なく話すんですが、どこか子どもっぽくもあり、後半にはとても重要なキーワードになっていると思います」

細田「あの子どものキャラがいることで、さらにドキドキしながら作品を楽しめましたし、“匂い”を使ったことも、ポン監督の映画的な巧さを感じました。僕も『おおかみこどもの雨と雪』で“匂い”を使っているんですが、見えないのに、登場人物が『匂う』と言うことで、観客は勝手にそう感じてくれるので、とてもコストパフォーマンスがいい(笑)」

ポン「しかも、匂いは視覚でも感じることができますよね。私は『サマーウォーズ』で、大家族の食卓に並ぶご飯の匂いを感じました(笑)。『パラサイト』には、完全な悪人が登場しませんし、完全なヒーローも登場しません。登場人物はそれぞれグレーゾーンにいますし、ハッキリと善悪を区別できない話でもあります」

細田「どちらの家族も、敵と味方、上と下という関係性より、アニメやコミックのように、おもしろく魅力的に描かれていましたね。最後にあのようなことが起こるとは、観客は誰も想像しないでしょう。特にお互いの奥さんは、とても魅力的でした」

ポン「そんななか、クライマックスでは、おぞましい出来事が起きてしまう。この映画のテーマは『なぜ、そんなことが起きてしまうのか?』ということであり、私たちの日常でも起こり得る話なので、とても現実味のある映画になったと思います。現実には様々なレイヤー(層)がありますが、それを1枚でも多く描きたい想いで、この映画を作ったんです」

細田「本当にすばらしいですね。いまの世の中は『善人と悪人』『金持ちと貧乏』のように、物事をどこか単純化してしまう傾向が強まっている気がするんですよね。でも、決してそうじゃないということを映画を通して発信していくのは、いまのこの時世だからこそ、とても重要なことだと思うんです。誰もが持っている人間の本質の物語でもあるので、日本でも多くの方に観てもらいたいですね」(Movie Walker・取材・文/くれい響)

最終更新:1/13(月) 11:54
Movie Walker

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