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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:はじまりのおわり(青森山田高・佐藤史騎、古宿理久、浦川流輝亜)

1/14(火) 19:08配信

ゲキサカ

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 ピッチに入る直前。手を繋いでいるエスコートキッズも、横の“お兄さん”を見ながら一礼するのが微笑ましい。佐藤史騎は前から2番目。浦川流輝亜は前から5番目。そして、古宿理久は後ろから2番目。濃密な日々を共に過ごした最高の仲間たちと、待ち焦がれた舞台へ歩みを進めていく。「中学生の頃から一緒にやってきて、3人で一緒に高校に入って、『山田で日本一を獲ろう』という話をしてきましたし、それを叶えるのはもうこの最後の試合だけなので、悔いの残らないように自分たちらしいサッカーをしたいと思います」。古宿が決意を明かす。シブキ。リク。ルキア。横浜FCのジュニアユースから数えて6年。長い時間を共有してきた3人で挑む、最後の1試合が幕を開ける。

 最初に青森の地へとやってきたのは浦川だ。横浜FCのジュニアユースから、ユースへの昇格が有力視されていた中学3年生の夏。「昇格を一番に考えていたんですけど、その発表がある1週間ぐらい前に、お父さんに『オマエどうするんだ?』と言われて、自分は『ユースに上がりたい』って答えたんですけど、そこに明確な理由があまりなかったので、お父さんに『逃げてるんじゃないか?』と言われたんです」。

 改めて1週間考えに考え、結論を出す。「自分を変えたい」とかねてから思っており、そのためには厳しい環境に身を置くべきだと決意した。2つ上の兄が進学し、環境面も含めた話を聞いていた経緯も後押しする。中学3年生の夏。そこからの“3年半”を見据えた浦川は、青森山田中学へと編入する道を選んだ。

 古宿は失意の中にいた。「もうユースへの昇格は切られていたんです」。プロを見据え、横浜FCのジュニアユースへと入団したものの、中学3年生の夏にユースへの昇格が叶わないことを告げられる。言い表せないようなショックに襲われながらも、次の進むべき道を決めなければならない。

「高校サッカーのチームを考えた時に、まず単純に強くなりたいと思ったんです。それに高卒でプロになりたいと。その中で日本一を獲れるような高校に行けば、プロにも注目されるんじゃないかなって。だから、『高体連で一番強いチームに行こう』と思いました」。一足先にその地を踏んでいた浦川からも助言をもらいながら、セレクションでの合格を勝ち獲る。古宿も青森山田高校へと進学する道を選んだ。

 佐藤もキャリアの岐路に立っていた。中学3年生の夏。横浜FCのユースへと昇格する道は、既に閉ざされていた。本人の表現を借りれば「“やらかして”しまって、練習に参加していない時期もあった」経験から、親に迷惑を掛けてしまったという自責の念が、15歳の柔らかな心を苛む。

「親に自分が出ている試合を見せてあげられていなくて、試合に出ている姿を見せることで恩返ししたい気持ちが強かったんです」。その前の年の高校選手権。横浜FCのホームスタジアムでもあるニッパツ三ツ沢球技場で見た、廣末陸(現FC町田ゼルビア)がとにかく眩しく映った。「親は『どこでもいい』と言ってくれたんですけど、自分で『行きたい』と言って決めました」。佐藤も青森山田高校へと進学する道を選んだ。

 彼らが入学した2017年は、郷家友太(現ヴィッセル神戸)や中村駿太(現モンテディオ山形)、浦川の兄に当たる流樺(現専修大)らを擁し、冬の全国連覇を狙っていた年。すぐさま1年生にトップチームでの出番が回ってくるような状況ではない。「思い出したくないですね(笑) 人生でこれから生きていく中でも、たぶん一番キツいことだと思います」と浦川も苦笑しながら振り返る“雪中サッカー”に鍛えられつつ、来たる日を夢見て目の前のトレーニングに取り組んでいく。

 ただ、2年生になっても大きく立ち位置は変わらない。3人の主戦場はセカンドチームが所属するプリンスリーグ東北であり、そこでも浦川こそスタメン起用が多かったものの、古宿と佐藤はバックアッパーが常。12月の最終節で浦川と古宿に訪れたプレミアリーグデビューは、前者が26分、後者は1分あまりの途中出場。「高1、高2は何もできなくて、自分としても悔しい時期が多かったです」という古宿の言葉は、そのまま3人の心情を現していると言っていいだろう。

 2019年。青森の地で過ごすラストイヤー。春先のサニックス杯でようやくトップチームの一員として揃って同じピッチに立った3人は、そのままプレミアリーグEAST開幕戦のスタメンにも名を連ねる。浦川はベンチから、佐藤と古宿はスタンドから見つめていた3か月前の高校選手権決勝と同じカード。流通経済大柏高との一戦ということもあって、否が応でも気合が入る。

 浦川が持ち前のハードワークを武器に、左サイドでの上下動を繰り返せば、古宿は終盤に「自分がゴールを決めたくらい嬉しかったです」と笑う完璧なスルーパスで、チームの2点目をアシスト。佐藤も安定感のあるセービングでゴールに鍵を掛け、無失点に力強く貢献する。

1 0人のレギュラーが前年から入れ替わり、「『プレミアは全敗するんじゃないか』と思われていたようなチーム」(黒田剛監督)は宿敵相手に2-0と完勝を収め、その指揮官も「武器のないチームだけれども、これだけ地道にやれば何とか結果は付いてくるかな」と一定の評価を下す。そして、結果的に佐藤、古宿、浦川の3人は順位の確定していた最終節を除く17試合にいずれもスタメン出場を果たし、2年ぶりのリーグ制覇を完全な主力選手として味わうこととなる。

「寮生活も一緒で、クラスも一緒で、本当にずっと一緒なので、もう特別な感じはないですね」と浦川が口にした3人のキャラクターも、実にそれぞれで興味深い。「シブキは日本で一番面白いヤツです。さすがに黒田監督には誰もノリで関われないんですけど、アイツはメッチャ行くんですよ。でも、やっぱり監督もキャラをわかっているので受け入れていて、『ああ、スゲーな』って(笑)」(浦川)「シブキはワチャワチャしていますし、普通にヤバいキャラですからね。取材の時は猫カブッてるだけです(笑)」(古宿)。それを伝え聞き、「アイツら言いますね。猫カブってないですよ。いいヤツなんで、自分」と笑った佐藤は圧倒的な明るさが持ち味だ。

「リクは中学校の頃は正直あまり絡んでいなかったんですけど、高校になって絡む機会が増えてわかったのは、嫌なことでもちゃんとできるヤツですね。筋トレとかも頑張っていて、自分は筋トレ嫌いなので(笑)、自分もそういう所は見習っていきたいです」(佐藤)「リクは静かで冷静なタイプだと思うんですけど、ふざける時は結構ふざけるので、真面目なタイプでもないと思いますね。やっぱり表で猫をカブるタイプです(笑)」(浦川)。掴み所がないと言えばないようにも思えるが、芯の強さは言葉の端々に滲み出る。各々の個性が強い今年のチームの中で、古宿の落ち着きは異彩を放っている。

「ルキアは凄く賢いなと思いますし、『人に負けたくない』という気持ちが強くて、自分が持っていないものを持っているので、もっと真似していきたいなと思います。とにかく頭の良さはうらやましいですね」(佐藤)「ルキアはハードワークできますし、チームのために頑張れる選手なので、逆にあのポジションがルキアじゃなかったらと考えたら、やっぱり必要な選手だなと思います」(古宿)。献身的に努力を積み重ねられるのが浦川の長所。だからこそ、チームの誰からも信頼されている。ニコニコ笑った顔も可愛らしく、ある意味でマスコット的な存在と言ってもいいかもしれない。

 高校入学から彼らを見守ってきた正木昌宣コーチは、笑いながらこう分析する。「上手くバランスが取れていますよね。目立つのが好きなシブキがいて、黙々と核になってやり続けるリクがいて、最後まで献身的にやってくれるルキアがいて。まあ“はっちゃけるヤツ”と“ちょっとカッコつけるヤツ”と“努力を厭わないヤツ”の3人って感じかな」。三者三様のキャラクターが、それぞれをより魅力的に引き立たせる。

 全国総体は3回戦敗退を強いられたものの、前述したリーグ戦は2位以下を大きく引き離しての優勝を成し遂げ、勢いそのままに名古屋グランパスU-18とのファイナルも制し、年間王者の称号を獲得した青森山田。まさに高校年代最強チームという立ち位置で、選手権を迎える。目指すは史上9校目となる大会連覇。最激戦区と目されるブロックに組み込まれながら、米子北高、富山一高、昌平高と次々に襲い掛かる難敵を退け、今年度も埼玉スタジアム2002へ帰還する。

 準決勝の相手は帝京長岡高。序盤から押し込まれる展開の中で、6番の絶妙なスルーパスを起点に先制点が生まれる。「芝が結構長かったので、強めに出しても止まるかなというイメージで計算通りです。メッチャ気持ち良かったです」と満面の笑みを浮かべた古宿は、2点目に繋がるクロスも繰り出すなど、いつも以上に攻撃面でその能力を発揮する。

 後半25分にスタジアムを沸かせたのは1番を背負った守護神。1対1で抜け出された絶体絶命のピンチに、信じられないようなビッグセーブで失点を回避する。「ずっと『絶対止める』という気持ちでいたので、あのセービングができて良かったと思います。無意識にガッツポーズが出てしまいましたね」。佐藤による執念の好守がチームを乗せる。

 8番を付けたレフティも、90分間フル出場で攻守に奮闘し続ける。「アイツは『僕は黒子です』って言える子で、それを1年からずっとやってきて、良い意味でずっと変わらなかったのが凄いなと。今のルキアは本当にチームになくてはならない存在です」。正木コーチがその真価を笑顔で説く。終盤に1点は返されたものの、2-1で逃げ切りに成功。とうとう連覇に王手を懸けた。

 泣いても笑っても、あと1試合。勝っても負けても、青森山田での試合は次が最後。それはすなわち、3人で戦うラストゲームでもある。「やっぱり中学からの仲なので凄く思い入れもありますし、入ってきた時も『3人で選手権を目指そう』と話していたので、最後は勝って、笑って終わりたいと思います」(浦川)「横浜FCから3人でやってきていますし、3年目は一緒に出たいとずっと思ってきて、最後の試合となると悲しい気持ちもありますけど、決勝を楽しみたいですね」(佐藤)「中学生の頃から一緒にやってきて、3人で一緒に高校に入って、『山田で日本一を獲ろう』という話をしてきましたし、それを叶えるのはもうこの最後の試合だけなので、悔いの残らないように自分たちらしいサッカーをしたいと思います」(古宿)。6年間の集大成。絶対に負けられない。絶対に負けたくない。

 1月13日。高校選手権決勝。シブキは前から2番目。ルキアは前から5番目。そして、リクは後ろから2番目。濃密な日々を共に過ごした最高の仲間たちと、待ち焦がれた舞台へ歩みを進めていく。長い時間を共有してきた3人で挑む、最後の1試合が幕を開ける。

 3度の短いホイッスルが陽の傾き始めた青空へ吸い込まれ、いつもの緑を相手に譲った白いユニフォームの選手たちがピッチへ崩れ落ちる。2点を先制した青森山田は、その後に2点を奪い返した静岡学園高に追い付かれると、後半40分に逆転ゴールを許し、試合はそのままタイムアップを迎えた。

 大の字に倒れた佐藤は動けない。「正直信じられない気持ちで、チームが負けたという現実を受け止め切れなくて…」。交替でベンチに下がっていた浦川は茫然と立ちつくす。「最後までピッチに立ちたかった想いもありましたし、試合に出ている選手よりも凄く悔しかったです」。ようやく3人で戦えた最後の冬には、大会史上に残る逆転劇を演じられての準優勝という結末が待っていた。

 浦川はなかなか頭の中を切り替えることができない。「終わった瞬間は親への感謝が凄く強かったですけど、自分自身あまり納得の行くプレーもできなくて、本当に何とも言えない気持ちでした」。佐藤も涙が止まらない。「そういうキャラでもないですし、みんなの前で泣きたくはなかったですけど、応援してくれた親とかスタッフのことを考えたら、『もっと良いプレーができたんじゃないか』とか、『ここでこうすればもっと自分が貢献できたんじゃないか』とか、いろいろ頭をよぎって涙が出てきてしまいました」。

 一方で古宿は晴れ晴れとした顔をしていた。「人としての成長もそうですし、プレーの中でも自分が中心となってやっていこうという想いが強く芽生えたので、この1年間は自分の人生でも大事な年だったと思います」。決勝に向けた前日練習後。正木コーチが古宿について話していた言葉を思い出す。「アイツは明らかに新チームになった瞬間から『自分がチームの核になるんだ』という雰囲気が凄く出ていて、自信が持てるようになってきたからなのかもしれないですけど、『人間ってこうも変わるんだ』というぐらい劇的に変わったと思います」。一見クールな横顔が覆い隠している芯の強さは、最後の試合後にも垣間見えた。

 その古宿は、横浜FCへプロ選手として帰還することが決まっている。そのことについて尋ねた時、2人はこのように想いを語っていた。「嬉しさもあれば、もちろん悔しさもあって、自分も大学を経由してプロになりたい気持ちが一層増しましたし、そういう面では良いライバルですね」(佐藤)「もうそれはアイツが努力して掴み取ったことなので、凄いことだと思いますし、これからシブキと自分は大学に進むんですけど、そこでプロを目指して、また一緒のピッチでできればなと思いますね」(浦川)。

 その想いは“リク”も十分にわかっている。4年後。彼らが同じステージに立とうとした時には、圧倒的な差を見せ付けられる自分でありたいと願うと同時に、やはり彼らともう一度ボールを追い掛けたい気持ちも隠せない。「プロになれたのは自分の努力の結果だとは思うんですけど、今回はたまたま自分が報われただけなので、シブキとルキアにも大学を卒業してから絶対にプロになって欲しいですし、また一緒にサッカーができたらいいなと思っています」。

 5万6千人を飲み込んでいた埼玉スタジアム2002は、もう暗闇と静寂に包まれていた。“3年間”を2度積み重ねた“6年間”は、長かったのだろうか。それとも短かったのだろうか。横浜の地と、雪深い青森の地で、勝利という同じ目的に向かい、成長という同じ目的を共有した時間は、3人にとってかけがえのない思い出として、これからも心の片隅に息衝いていくはずだ。

 その大事な大事な宝物を携えて、春からはそれぞれが選んだ新たな道を歩み出す。シブキ。リク。ルキア。3人にとってこの“おわり”は、4年後に胸を張って再会するための未来へと続く“はじまり”でもある。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

最終更新:1/14(火) 19:08
ゲキサカ

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