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3DCGの枠を広げたかった――アニメ『空挺ドラゴンズ』監督が突き詰めたファンタジー世界でのリアリティと映像表現

1/15(水) 18:52配信

エムオンプレス

『good!アフタヌーン』(講談社)にて好評連載中の人気ファンタジー漫画『空挺ドラゴンズ』が、2020年1月8日(水)よりフジテレビ「+Ultra」にて放送開始。制作は3DCGを得意とするポリゴン・ピクチュアズ、監督は『シドニアの騎士 第九惑星戦役』『BLAME!』で副監督として活躍した吉平”Tady”直弘が務める。このたび、空と龍に魅せられた乗組員たちの大冒険の旅&世界グルメ紀行を描いた本作の魅力をTady監督に語って頂いた。

【画像】アニメ『空挺ドラゴンズ』場面写真ほか

取材 / 長戸 勲、長田雄太
文 / 長戸 勲

◆作品の持つ圧倒的な世界観に惚れた
ーー そもそも、どういったキッカケで『空挺ドラゴンズ』の監督をされることになったのでしょうか?

吉平”Tady”直弘 ちょうど、自分が初監督を務める作品を探している時、『good!アフタヌーン』で連載されている『空挺ドラゴンズ』の第1話を拝見しました。まさにそのとき、「これは良い」と作品に一目惚れをしたんです。そしてすぐに「これ(の監督を)やりたい!」と思い、こちらからアプローチさせて頂きました。

ーー Tady監督から惚れたと。時期的にはいつ頃ですか?

Tady ちょうどコミックスの第1巻が出た頃(2016年11月)で、そこからアニメ化企画が具体的に動き始めた感じですね。

ーー 具体的に『空挺ドラゴンズ』のどの部分にグッと心を掴まれたのでしょうか?

Tady ありきたりではない圧倒的な個性を持った世界観です! それに加え、激しいアクション要素もあれば、見るだけで食欲を刺激するグルメ要素もある。もちろん、キャラクターやドラマ性、生活描写も素晴らしく、とにかく表現の枠が広い。映像としても魅力的なものが詰まっています。と、色々言っていますが、「これ好き!」です(笑)。

ーー たしかに世界観は独特ですよね。

Tady “手垢のついてない新たな世界”という表現が正しいかも知れません。“龍を倒すファンタジー”というカテゴリの作品は昔からたくさんありますが、本作は未知のベールに包まれている部分が多く、そこに興味を惹かれます。キャラクター達の思想や一挙手一投足が非常にリアルで、それぞれの街に文化と歴史が存在し、しっかり描かれている。これらをアニメでさらに掘り下げて、映像としてその世界を具現化するのはファンにとっても喜んでもらえるのではないかと思いました。

ーー 龍の描き方もこの作品ならではで、これまでの想像が崩れました。

Tady 翼で羽ばたき火を吹いて人を襲う、多くの人が想像するであろう「龍」を描いていないところが好きなんです。だから僕は監督として、「そもそも龍って何だろう」という思考を掘り下げるところから始めました。そして、今作の龍の魅力のひとつはこの世界の人たちが定義できない、不明な部分ではないのかと。例えば、恐竜の話って「こんな生物が生きていたんだ!」ってワクワクしますよね。未知の深海生物などもそう、分からない、知らないが故に想像を駆り立てて興味を惹かれるんです。

ーー 安易に敵として描いてないから、いったい“龍”とはどういう生物なのか、興味が沸きますね。

Tady 『空挺ドラゴンズ』の龍は共生している存在で、家畜やペットでもなければ、動物園の動物でもない。ただ大自然の中にあるひとつの要素であると思っています。人がコントロールできる領域ではないから恐怖を感じるし、見方を変えると神々しい存在にもなり得ると思うんですよ。

ただ、脚本的には難しい部分でもありました。「ドラゴンは悪である、じゃあ退治しに行こう」という話だったら、非常にシンプルで見る側も理解しやすい。対立によって物事を動かすのは、ストーリーを進めやすいんです。しかし、本作の龍は単純に善や悪で測れないからこそ面白いんですよ。

ーー 聞けば聞くほど既存作品にはない世界観に興味をそそられます。実際に制作が決まったときのお気持ちはいかがでした?

Tady まず個人的な感情としては、本当にやりたかった作品を作れるので喜びしかなかったです。ただ、実際に監督の目線で進めようと思ったときは、辿り着かなければいけないことが沢山あると気付かされました。

例えば、クィン・ザザ号の乗組員のこと。19人いる彼らそれぞれの性格を把握し、原作で描かれていないところまで理解していないと”リアル”が生み出せない。クィン・ザザ号そのものにしても、すべての部屋を図面を起こして描き、船特有の窮屈な環境を視聴者に伝えないと”嘘”になってしまいます。親近感を感じでもらうためには、架空の世界だけど深いリアリティを追求した、言うなれば現実とは別のパラレルワールドを作らなければいけないんです。だからこそ、生半可な気持ちではやってはいけないと思いました。

ーー 覚悟を決めたわけですね。アニメではどのキャラクターにフォーカスして進行するのでしょうか?

Tady ミカ、タキタ、ジロー、ヴァナベルの4人が主人公です。なかでもタキタが本シリーズの主人公のような立ち位置で、彼女にカメラを付けるような形で描きました。ちなみに、原作を読むとミカが主人公と思う方は多いと思います。けれども、彼は『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウのように、物事の中心にはいるけれどもいわゆるありきたりなヒーローではありません。

ーー たしかに物事を動かす重要な役ですが、ミカの物語ではないですね。ちなみに、原作でお気に入りのエピソードは?

Tady 最初にぞわっとしたというか、作品の広がりを感じたのは「光る龍と塩漬脂身(サーロ)の燻製」かな……。ジローは少年のような心で光る龍を探す。それに対して周りは「ガキみたいなこと言ってんなよ」と茶化しますが、心のなかではみんな彼のことが好きだから応援している。話の展開や雰囲気、そして一人の少年の夢が叶う瞬間。たった一話のなかにジローが歩んできた歴史がギュッと詰まっているようで、大好きですね。その後の原作のエピソードで、光る龍に関するもっといい話が……。

ーー おおっと、それ以上はネタバレになるんでやめておきましょう(笑)。

◆納得の行くまで突き詰めた映像表現
ーー 3DCGアニメーションで『空挺ドラゴンズ』を描く際、注意した点は?

Tady 嘘の世界だと感じさせず、ストーリーに集中して見てもらうために十二分にリアリティを持たせること。その上で、アニメ作品として動きや色彩などの誇張表現を施していきました。これらが両立させることで、作品のスケールがより大きくなるんです。作画アニメーションの素晴らしさに少しでも近付けようと意識しながら、巨大な生物が蠢く様子など、3DCGだからこそ得意な動きや構図を積極的に活かしています。

ーー 視聴者に違和感を与えず、リアルな世界観の表現にこだわったと。

Tady ほかにも、キャラクターの感情と動きに合わせた光と影の表現にもこだわりました。例えば、ネガティブな感情を持ったときは日陰や逆光になっていたり、逆にポジティブな感情なら、そのキャラクターが歩き始めると光が当たるなど。アニメ第1話の場合は、クィン・ザザ号と市民の対立場面で、各キャラクターの光の当たり方にも注目してほしいです。

ーー ポリゴン・ピクチュアズの作品はSFやロボットのイメージが強いですが、3DCGでファンタジー作品を描く難しさは感じましたか?

Tady 3DCGアニメーションはメカなどの硬い物を描くのを得意とされ、ロボット、SF、アクションなどに用いるものという先入観から、表現と作品ジャンルが偏っているのが現状です。だからこそ、もっと色んな方に気軽に見てもらえて、楽しんで頂けるジャンルの作品を作りたいと思っていたんです。そんな中で今回、『空挺ドラゴンズ』をやらせて頂けることになりました。

もちろんアクションシーンはありますが、「日常のドラマだけでも3DCGで素晴らしい作品が描けるんだぞ!」ということにチャレンジしたかったんです。「CGだからこのジャンルしかできません」と思われてしまう未来がポリゴン・ピクチュアズに来ないように、大きく枠を広げたかったという思いが強くありましたね。登場人物が誰も死ななくて、見ていて幸せな気分になれるような作品、見てくれる方の日常に寄り添って長く愛される作品を作りたいと思ったんです。

ーー 本作には、そういった想いも込められていたんですね。では、『空挺ドラゴンズ』の重要な要素のひとつである“グルメ”についてもお聞かせください。アニメにおいて、料理を美味しそうに表現するのは難易度が高いというイメージがありますが、いかがでしょうか。

Tady 仰るとおり、難易度は凄まじく高いです。例えばアニメの中で、現実にある美味しそうな料理の写真を貼り付けたとしても、アニメでは絵の表現方法が全然違うので的外れでアンバランスな映像になってしまいます。では、人が感じる美味しいとはなんだろう。まずはここから考えることにしました。

例えば、焼肉を見たときに感じる「美味しそう」は、サシの部分なのか、”赤身の色”なのか、あるいは”脂”や溢れ出る”肉汁”……。それとも調理によって発生する”焼き目”、もしくは”ソース”や”ソースの色彩”かもしれない。そうやって、ひたすら”美味しそう”を分析研究して、実際に絵に描いて、誇張・省略して、最終的には”美味しい”だけを画面に残すようなアプローチでデザインし、それをCG化しています。

ーー 執念に近いものを感じます。作品に出てくる料理は架空の品々ですが、それを描く際に参考にした物はありますか?

Tady 複合的に参考にしました。例えば、この肉は牛に近いかも、となった時にそのまま牛肉を描くわけにはいきません。この生き物だったら、鳥系だから赤みの強い鴨の肉かもしれないと考える。もしくは焼いたら美味しそうな肉、揚げたら美味しそうな肉の表現もまた異なると思います。だから、様々な肉を見ながら、繊維面、断面、食材としての包丁の入れ方などをひたすら研究しました。

ーー 具体的にはどのような研究を?

Tady ひたすら食べましたね。もちろんネット上の写真なども参考にさせて頂きましたが、基本的には色んなお店に足を運んで食べて、資料用の写真を撮りまくりました。そして、後でそれを眺めながら、もう一度”視覚的な美味しそう”を自分の中で探すんです。そして、”視覚的な美味しさ”が適切な調理方法や料理、場面とリンクしたとき、人はその料理に魅力を感じるのだと思います。

ーー 料理もそうですが、龍の解体シーンなども肉質が大きく関わってきますよね。

Tady そうですね。骨も肉の付き方も龍における大切なデザインです。龍は空を飛んでいるから走るための筋肉は付いていないだろう、ただ背骨があるから龍自身が生活していく為に必要な程度には付いている、大腿骨がこの辺と仮定して、繊維はこの方向で……という具合です(笑)。たった一場面しか出てこないですけど、CGは嘘を付けないですから。当たり前ですが作った立体がそのまま画面に出てしまうので、あらかじめすべてをデザインしておかなければいけません。しかし、それは逆にリアリティを獲得する手段にもなり得るんです。

ーー 料理にも目が離せませんね。次ですが、原作者の桑原太矩先生はどのように制作に関わられましたか?

Tady 桑原先生には、漫画執筆の負担にならない範囲で、作品作りの場にかなり立ち会って頂いています。具体的には脚本会議にもご出席頂き、この人たちはどういう行動、どんなバックボーンがありますかみたいなことから、画面外のことも含めて世界観を一緒に掘り下げさせて頂きました。支度金を借金しているタキタの出自とか、ジローのかつての親子関係はこんな状態だったのかもなど、漫画のコマだけでは読み取れない部分を色々と話し合いました。

言い方は難しいですが、個人的には先生を神様のように捉えるのではなく、一緒に作品を作る仲間のように考えさせて頂いています。疑問を抱いた部分は「これってこういうことですか」と納得できるまで話を聞く、逆に積極的に提案させて頂くこともあります。また、意見の対立というか、すれ違った時はお互いが納得いくまでじっくり話し合いを行いました。

ーー 原作者を含めて一丸となって作品を作ったと。

Tady そうですね。とは言っても、一緒に楽しく作っていますよ。クィン・ザザ号の人たちじゃないですけど、同志みたいな感じで。桑原先生には僕の意見を色々と飲み込んで頂いたし、桑原先生から漫画で描かれなかった部分のご指摘やアドバイスを頂いたりだとか。だから、原作にないセリフが足されている場面が沢山あります。

それは桑原先生や僕から出てきた言葉の場合もあるし、脚本の上江洲さんからの場合もある。もしくは、声優さんのアドリブもありますね。そうやって、全員で一緒に『空挺ドラゴンズ』に関するクリエイティブな話し合いをずっとできた、楽しい時間でした。

ーー 収録はプレスコ(※セリフを先行して収録する手法”プレスコアリング”の略)で行われたようですが、どういった理由からでしょうか?

Tady これは桑原先生の作品の特徴でもあるんですが、登場人物がセリフのなかで物事をストレートに言い切らないんです。同じ言葉でも感情が違うことってありますよね。例えば「うん」にしても、「うん!」と前のめりで言うこともあれば、嫌々集団の中で同意して「うん……」と言うこともある。言葉と違う表情をすることもある。これって、そのキャラクターの性格であり、生きてきた背景・歴史なんですよ。

それをアニメで上手く表現するには、声優さんの演技力、その場で生み出される臨場感を、まずは十分に抽出して閉じ込める。今度はそれをアニメーターにぶつけて、より豊かな感情表現に昇華させる。つまり、より感情の段階の強弱を含めた表現をするために、プレスコを最大限に活用させて頂いたという形です。

ーー 収録現場のライブ感を重視している感じですね。

Tady 声優さんがアドリブで面白い場面を作っちゃって、「よし、じゃあここはカットワークもコンテほぼできているけど修正するか!」となったこともあります(笑)。声優さん同士の掛け合いの中で生まれてくる臨場感、ライブ感を最大限大切に活かそうとアプローチしたので、キャラクターの群像劇において、よりイキイキした仕草や掛け合いをうまく映像に閉じ込められたのではないかと思います。

またキャスティングに関しては、キャラクターの年齢のレンジと、声優さんの年齢のレンジを合わせることも意識しました。キャリア豊富な声優さんたちにはギブスやクロッコ、ニコみたいなキャラクターを演じて頂いて、若い声優さんにはジローやタキタなどを。そうすることで、よりシーンが生々しくなるんですよ。年齢による微妙なやり取りの差、先輩からの理不尽な重圧だとか、新人のうぶな感じみたいなものも、リアルな人間関係そのまま画面の中に入れたかったんですよね。

ーー ちなみに、声優さんのアドリブで印象深いものはありますか?

Tady ある場面で、ジローを弄り倒すシーンがあるんです。そこは先輩声優たちがひたすら「ジロー!」と呼んでからかい続けていて、現場でも皆ですごく笑いました。どの場面かは実際に探してみてください。また、原作にないセリフを探してみるのも面白いと思います。特に声優さんたちがキャラクターを掴んできてからは、どんどんアドリブが増えましたね。なんかもう、本当にもったいないので全部副音声で聞かせてあげたいくらい(笑)。

ーー では、最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

Tady 個性豊かなクィン・ザザ号の人たちと一緒にワイワイガヤガヤしている気分で、楽しく気軽に見てもらえたら良いなと思います。オンボロな船ですけど、気の合う仲間と一緒に過ごす時間は格別に楽しいですよ! CGだからといって食わず嫌いせずに、見て頂けたら嬉しいです!!

ーー ありがとうございました!

(c)桑原太矩・講談社/空挺ドラゴンズ製作委員会

3DCGの枠を広げたかった――アニメ『空挺ドラゴンズ』監督が突き詰めたファンタジー世界でのリアリティと映像表現は、【es】エンタメステーションへ。

最終更新:1/15(水) 18:52
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