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深刻な二極化は、近い未来の日本の姿

1/16(木) 11:31配信

ニュースソクラ

カンヌ受賞の映画『パラサイト~半地下の家族』に見る、韓国の「超格差社会」

 2019年5月にカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『パラサイト~半地下の家族』がついに日本で公開される。名作『殺人の追憶』などで知られるポン・ジュノ監督の最新作で、貧困家庭と富裕家庭の対比で韓国社会の深刻な格差問題を描いた名作だ。

 韓国では「ディテール・ボン」ともいわれるほど、ディテールな演出で有名なボン・ジュノ監督は、この映画で韓国の独特な貧富格差をリアルに描いている。例えば、主人公のギテク(ソン・ガンホ扮)の家族が暮らしている「半地下」は、日本人には見慣れない言葉だが、韓国人ならだれもが共感する「貧困家庭」の象徴である。

 半地下とは、地上と地下の間に位置する居住空間のことだ。韓国の宅地法によると、床から地表面までの高さが、部屋の高さの半分以上なら地下、半分以下であれば半地下と区分される。

 半地下の誕生は、北朝鮮と深い関係がある。1960年代半ばから北朝鮮の挑発が深刻化し、韓国政府は住宅建築の際、地下層の設置を義務化した。有事時の避難場所として使うためだった。

 避難場所だった地下空間が住居用として使われ始めたのは、1975年からだ。1960年代から始まった「圧縮成長」(異常に急速で進んだ経済成長)とともに、首都・ソウルへの人口流入が本格化した。ソウルの急激な人口増加は住居の不足をもたらし、避難場だった地下層が密かに住居空間として賃貸されるようになった。

 結局、韓国政府は同年、住宅法を一部改正し、地下層を住居空間として使用できるようにした。その際、地下層の劣悪な住居環境を改善するため、地表面の算定基準を緩和し、半分は地下に半分は地上にまたがる「半地下」という地下層が登場するようになったのだ。

 半地下は、現在の韓国社会において、貧困家庭が息をひそめて暮らす典型的な住居であると同時に、貧困層を示す象徴的な言葉にもなっている。半地下に暮らす人々は、韓国統計庁の2015年人口住宅総調査によると、約82万人にも上る。

 映画『パラサイト~半地下の家族』では、半地下の住宅の特徴が面白く描かれている。例えば、上の階の住民のWIFIをつかむために、ギテクの長男のギウ(演じるのはチェ・ウシク)と娘のギジョン(演じるのはパク・ソダム)は、家で最も高いところにあるトイレの便器の上へ上がる。部屋の大半が地下である半地下だと、トイレの便器が浄化槽よりも低い位置に設置され、汚物の逆流現象を防ぐため、なるべく高いところにトイレを設置するのだ。

 災いの元となる天井の下の窓も、半地下ならではの独特な構造になっている。窓がまったくない地下に比べて、半地下には部屋の地上の部分に小さな窓が存在する。半地下部屋の居住者は、この窓を通じて家の前を通る人々の足だけを見て生きている。

 しかし、地下部屋との唯一の違いであるこの窓は、映画で見られるように、様々な災難を呼ぶ窓でもある。酒に酔った人が窓のそばで立ち小便したり、洪水が発生すると窓から水が室内に氾濫するという悲劇的なエピソードを作り出したりもするのだ。半分が地下に隠れてしまった窓を通じて室内へ太陽の光が入ってくる時間は極端に少ない。おかげで室内はいつも湿ってカビの臭いが鼻をつく……。まさにこの半地下部屋の匂いこそが、映画では「貧しさの匂い」に象徴されて表現されている。

 一方、ギテクの家族が寄生する朴氏の家族は、韓国の上流1%に該当する超富裕層だ。グローバルIT会社の若きCEOである朴氏(演じるのはイ・ソンギュン)の大邸宅は、閑静で綺麗な坂道を登ってやっとたどり着くと、さらに門の前の階段を上がってようやく本宅に到着するという高地にある。「半地下の家と丘の上の大邸宅」、これがまさに超格差社会の韓国の現実を象徴しているのだ。

 ギテクの家族は全員、韓国社会の熾烈な競争から脱落した人々だ。 ギテクはかつてチキン屋やカステラ屋を営んでいたが、店がつぶれてしまった。長男のギウと長女のギジョンは大学入試に失敗し続けているし、スポーツ選手を目指していたギテクの妻チュンスク(チャン・へジン)も目標を達成できなかった。

 四人家族全員が無職で、怠惰な一家だと思われるかもしれないが、一度レースから外れると戻るのが極めて難しい、韓国の厳しい競争社会における、ある意味、平凡な家族でもある。

 韓国が本格的に格差社会へと突入したのは、1997年の年末に韓国を襲った「IMF危機」がきっかけだった。「IMF危機」とは、財政破綻の危機に直面した韓国政府が、IMFから多額の資金援助を受けるため、国家財政の「主権」をIMFに譲り渡したものだ。

 翌1998年2月に就任した金大中大統領は、「民主主義と市場経済の並行発展」を国政のモットーとする「DJノミクス」を提唱し、IMF体制からの早期脱却を目指した。「DJノミクス」とは、経済危機を招いた根本的な原因を、これまで30年余りにわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なした。そしてその改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策だ。

 しかし、実際に金大中政権が実行した戦略は、資本市場の開放、国家規制の緩和、公企業の民営化、そして労働市場の柔軟化およびリストラ強行など、新自由主義的な政策ばかりだった。こうした金大中政権の「劇薬療法」によって、3年8ヵ月後の2001年8月23日、韓国はIMFから借り入れた資金を早期に返済し、経済主権を取り戻した。しかし皮肉なことに、その過程で中産階級が崩壊した韓国社会は、二極化と所得の不平等がさらに深刻化してしまったのである。

 しかし、この超格差社会は、ただ韓国だけの現象ではない。

 カンヌ映画祭のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ審査委員長は、パルムドールに輝いた「パラサイト 半地下の家族」について、「韓国を描いた映画だが、同時に世界的にも喫緊の課題をテーマにしており、ここにいる私たちすべての人生と関係のある主題を、ブラックコメディとして巧みに表現している」と評価した。二極化や格差社会は、まさに全世界的な問題である。もちろん、日本も例外ではない。

 拙著『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)に書いた韓国社会の今は、遠くない未来の日本の姿かもしれない。

金 敬哲 (ジャーナリスト 在ソウル)

最終更新:1/16(木) 11:31
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